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花の道しるべ  作者: 輝 静
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あくまで空気

 二度目の席替えも問題なく終えたどころか隣に移るだけという神采配。

 私は天に見放されていなかった。


「なあ空瀬」


 優華も悠優も席から離れているし、一つ列は挟むが一番後ろの廊下側。

 黒板が見えにくいのは相変わらずだが、優華のノート写せばなんとでもなる。


「なあ!」


 一つ懸念することといえば、以前と変わらず怜がしょっちゅう遊びに来やすいことだけ。でもまあ休み時間だけの我慢。

 それに名前を呼びをし出してからは周囲から私に対してのさりげない攻撃も陰口攻撃もかなり減り始めた。

 むしろ上機嫌に挨拶されることがかなり増えた。

 私と仲良くすれば三人とも仲良くなれるという浅はかな考え。心底迷惑だ。


「あーきーせー!」


 しかも三人の仲介役を頼まれそうになる。それくらい自分でやれっつーの。

 私は郵便局員でも伝書鳩でもない。


「おい! 無視すんな!」

「はぁ? 誰お前」

「持無だよ! 前回の席替えからずっと隣だろ⁉︎」

「…………」

「固まるなよ⁉︎」

「興味ないし。てか何? 言っとくけど三人と交流持ちたいなら自分でやれ」

「違うわ。てかそれ前も言われたし」

「じゃあ何?」

「空瀬って彼氏いる?」

「は? きも、怖、失せろ」

「酷すぎだろおい。まあその調子じゃいなそうだな」

「あんたに関係ないでしょ」

「いや、週末合コンやるんだけど、女子の人数足りなくなったんだよ。だから空瀬人数合わせで来てくんね?」


 こいつ親しくもない女子に向かって何言ってんの? 頭おかしいんじゃない?


「嫌に決まってるじゃん」

「頼むよ! 女子が足りなかったら面倒だろ」

「知らんわ。女友達にでも頼め」

「俺に女友達なんていねーよ。てか俺が頭下げて参加させてもらうことにしたから、その分女子一人見つけなきゃならなくなったんだよ」

「お前の事情に私を巻き込むな」

「頼むよ空瀬。女子のメンツに俺が中学から片想いしてる子がいるんだよ。隣の席の(よしみ)で付き合ってくれよ」

「心底どうでもいい」


 ここまで嫌だと言っているのに、尚食い下がってくる。


「会計はこっちが持つから」

「むしろ頼んで来てもらう相手に出させようとする方がおかしいでしょ」

「交通費も負担する」

「それも当たり前でしょ」

「じゃあ何が望みだ。出来ることならなんでもやってやる」

「あーそれならあるよ」

「ほんとか⁉︎」


 私は両手を使い、優華と悠優を指す。


「いつも私に付き纏ってくる不愉快な三人組を近づけないようにして」

「いや、それは無理だ。嫌われたくねーもん」


 即答しやがったこいつ。


「じゃあない」

「頼むよ空瀬。それ以外ならなんでもするから」

「…………はぁ、分かったよ。じゃあこれ買って」


 私がスマホの画面を見せると、よく見ようと顔を近づけてくる。


「なんだ? ……はぁ⁉︎ ドッグフード⁉︎ しかも三本で五千円⁉︎」

「うちの犬、もうすぐお迎え記念日なの。私はいつもこれあげてるんだけど、あんたが買ってくれたらその分別の買ってあげられるから。まあ無理ならいいよ。他当たれば。なんなら優華達紹介してあげるよ」


 いつもどころか初めてだけど。でも買おうとしていたのは本当だし、嘘ではない。


「わ、分かった、分かったよ! 買うから来てくれ! その代わり、お膳立てしてくれよ」

「泥舟に乗ったつもりでいな」

「まじで泥舟だろうな」


 こいつは合コンで負けるだろうなと確信した。


◇◆◇◆◇


 合コン当日。事前に教えてもらったメンバーにも問題はなかった為、重い足取りで知り合いのいない合コンへと赴く。


「お! 空瀬!」

「なんでカラオケなの」

「高校生が居酒屋なんて行けるわけないからな。安くて大勢入れるカラオケが適所ってわけ」

「あっそ。それで、他の人は?」

「まだ。もう少しで来るはず」

「合コンの癖に時間ピッタリとか舐めてるでしょ」

「なんだ、空瀬も案外常識あるんだな」

「それどういう意味」

「別に。お、来た来た!」


 知らん顔の奴がどんどん増えていき、それに伴い私の発言権も失われたまま、全員揃ったのでカラオケルームに入っていく。


「まずは自己紹介ですね。幹事の森山高校(もりやまこうこう)二年、三江成志(みえなるし)です。最近は料理にハマっています」


 嘘だな。女の子受け狙っただけにしか思えない。


「同じく森山高校二年の比嘉下蓑(ひかげみの)です。えっと、趣味はその、寝ること、です」


 きっと人数合わせで来たんだろうな。同族だ。


花園高校(はなぞのこうこう)二年、比丘手甘大(ひくてあまた)です。最近ちょっと太ってきてしまって、今は筋トレを頑張っています」


 所謂甘いマスク効果とでもいうのか、女子の盛り上がりがさっきまでとは段違いだ。


「花園高校一年、持無勇気(もてなしゆうき)です。アウトドアが趣味で、休日は一人でキャンプに行ったりしてます!」


 明らかな盛り下がり。ま、受け入れろ持無。これが現実だ。


「じゃあ次は女の子お願いしようかな」

「はーい。白咲女学院(しらさきじょがくいん)ニ年、重根梨子(おもねりこ)でーす。三江以外の男子と話す事ないのですっごく緊張してまーす」


 絶対嘘だな。顔に嘘とデカデカと書いてある。


「同じく一年、小坂椎音(こざかしいね)です。来る前は凄く緊張していましたが、皆さんかっこよくて優しそうで今は逆に安心してます。これを機に皆さんと仲良くなれたら嬉しいです」


 男子全員喜んでいるところ悪いけど、私には分かる。

 こいつの眼中にあるのは比較的まだ顔が良い奴一人だけだ。

 あとはワンチャンすらない。

 そして多分、こいつが片思いしてる子なんだろうな、趣味の悪い。


「えっと、内木(うちき)なこです……。趣味はその、寝ることです」


 同族だ。しかも引き立て役として無理やり連れてこられたタイプだ。可哀想に。


「…………」

「あーえっと、君も自己紹介いいかな?」

「私はいないもんだと思って進めて」

「え、いやでもほら、せっかくだしね」

「空瀬〜」


 なんだその捨てられた子犬みたいな目は。全然可愛くないどころか犬を侮辱されている気分で殺意すら湧いてくる。


「ノリ悪いよ君〜」


 化粧濃いよあんたは。


「あ、あの、お名前聞いていいですか……?」


 小突かれた哀れな同族はおそらく人見知りであるにも関わらず恐る恐ると名前を聞いてきた。

 仕方ないから同族の誼として答えてあげよう。


「空瀬花恋」

「それだけ?」


 何がそれだけだ、これだけで十分すぎる。


「あ、えっと、俺と同じ花園高校で同じクラスなんだ」

「そうなんだ、教えてくれてありがとう。皆の名前も分かったことだし、色々喋って歌おうか」

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