セカンド強奪犯
ベンチと水道があるだけの小さな公園で、自販機で買わせた水をお供に腰を据える。
「お友達の事は聞いたよ。すごく性格が悪いってそうちゃんが言ってた。それと、中学の事もちょっと聞いた」
「は? 私、中学の話一度もした事ないんだけど」
「そうちゃんが聞きに戻ったらしいの。どうやってくうちんと仲良くなったのか、軽いノリで聞きにいったらあれこれ聞いてない事まで喋ってきたって」
「……何それ」
「くうちんのお友達の人、結構高校でも喋っているらしい。くうちんの写真も見せながら」
「なんで夢空がそんな事するの。私と接点がない人になんで⁉︎」
「そうちゃん友好関係広くてね、仲の良い先輩で友達の人と同じ高校に行っている人がいるらしいの。その人によるとね、簡単に言うと悪女に唯一立ち向かえて、宥める事ができる勇敢で特別で慈愛に溢れる私アピールらしいよ」
怒り? 悲しみ? 悔しさ? 恐怖? 虚無感?
どれも綺麗に当てはまらなくて、でも全てが合っている。
なんて表現すればいいのか分からない。
でも、これだけは分かる。
私は夢空を心の底から嫌う事ができない。
以前の彼女を思うと、何かの間違いだと、本質は変わらないと信じてしまう。
友達でありたいと願ってしまう。
もう無理だと、目で見て、耳で聞いて、悟ったはずなのに。
「……どこまで知ってるの。全部教えて」
「……くうちんが高校生に色目使って、いざ高校生が本気になったらストーカーだといって騒ぎを立てたって。それで、無実の高校生を退学にした後、悲劇のヒロインを演じて不登校になったって。そうちゃんが酷い風評被害だって言ってた」
思わず笑いが込み上げてきた。
笑う場面じゃないことは分かっているのに、笑わないと平静を保てない。
「──はぁ。で、安蘭樹さんはどこまで本当だと思ってるの?」
「色目を使ったとか、悲劇のヒロインを演じたとか、そういうくうちんを悪者にする事は全部嘘だって分かってるよ」
安蘭樹さんが持っているペットボトルが音を立てて凹んだ。
「残念だけど、ぜーんぶ本当だよ。私は悪者なんだよ。夢空がそう言ったのならそうなんだよ。中学の私は本当に酷かったからね。酷すぎたから呆れられたんだよ……」
そうじゃないと夢空の変貌に説明がつかないのだから。
「それは嘘だよ。くうちんと会ってまだ半年も経ってないけど、これだけは言える。くうちんは悪者なんかじゃない」
「何を根拠に……」
「だってくうちん、サングラスを掛け直してからずっと震えている」
安蘭樹さんはずっと繋いだままだった手を目の前に掲げた。
安蘭樹さんの手を強く握った私の手は小刻みに、それでいて大きく震えていた。
急いで手を離し、先ほどまで繋いでいた手を確認すると、まだ震えは収まっていない。
それどころかさらに大きく震えだしたように思える。
サングラスを少しずらして安蘭樹さんの手を見ると、私の手で覆われていた部分は真っ赤に染まっていた。
「これは、違う。そうじゃない」
「中学の時実際に何があったのか、くうちんがどんな思いをしていたのかゆーゆは知らない。でも、これだけは言える。くうちんはまだ弱っている。すごく。軽く叩くだけで崩れてしまいそうなほど。そんな人が本当にただの悪者のはずがない。くうちんの言う通り非はあったのかもしれないけど、全部がくうちんのせいなんて絶対ない。だって、中学の出来事がきっかけでくうちんは今みたいになったんでしょ」
「…………」
「……そんなくうちんに頼ってとか信用してなんて絶対言わない。でも、絶対守るから。これ以上くうちんが傷つかない為にくうちんが不要だと思っても、ゆーゆは勝手にくうちんを守るから」
「……意味分からない」
「ゆーゆも正直何から守るかは上手く言えないけど、とにかくくうちんが辛い時は支えるから」
真っ直ぐ向けられた瞳。サングラス越しだというのに思わず目を瞑り、顔を逸らしてしまうほどだった。
「そうじゃなくて、どうしてそこまで私に構うの。私別に性格良いわけじゃないのに。時間が経てば経つほど私との縁に後悔するよ」
「しないよ。だってくうちんはゆーゆの事理解ってくれたから。それに救われたの。だから、絶対に見捨てない。まーたしかにくうちんは性格悪い方だよ」
散々私の事弱い人間だと言っておきながら何ドストレートに人が傷つく言葉を言っているんだか。
「でも、根は優しい……まだ大丈夫から」
安蘭樹さんのその物言いに思わず逸らした顔を元に戻し、憎たらしい口を頬越しに掴む。
「おいこら、人が静かに耳を傾けてやったらここぞとばかりにぶっ込みやがって。何が守るだ。攻撃するに訂正しろ」
「えへへ、ごめんなさい〜。調子戻ってくれて良かった〜」
「ほんとにもう」
手を少し緩めると、安蘭樹さんはそっと離した。
私も再び安蘭樹さんから顔を逸らす。
「守らせてくれるんだね〜」
「勝手に守るってそっちが言ったんじゃん。余計なお世話なのに。安蘭樹さんって顔だけ良い碌でもない男に捕まるタイプだよ。彼氏がヒモでも養って悦に入るんでしょ」
「それーさっきの仕返し〜?」
「今までの行動を鑑みての憶測だよ」
「んー。まあ、確かにそうかもしれないね〜」
「自覚あるんだ。なら今後気をつけるんだね。性格悪い私からの慈悲だよ」
「それはもーできないね〜」
引っかかる言い方をされて思わず安蘭樹さんの方を見た。
気づいた安蘭樹さんも私を見上げる。
そして、聞いてもないのに自分から真意を答えてきた。
「ゆーゆはもうくうちんの事が好きだから」
「…………は?」
タイミング良いのか悪いのか、私の頭がフリーズした瞬間花火が打ち上がった。
ここも穴場だったのか、建物で一部隠れるものの、花火がよく見える。
でも、今はそっちに集中できず、横目でしか花火を見られなかった。
「ここ、すごく良い穴場だね〜」
「今、なんて?」
「ん〜」
安蘭樹さんはほんの少しだけ、でも勢いよく体を動かすと、一瞬私の唇に触れた。
その後は普通にまた視線を花火に戻した。
「綺麗だね〜」
思わず頭を鷲掴みにした。崩れる髪型でないのを良いことに、指に力も入れていく。
「何勝手に人様の唇奪ってんだお前は」
「痛、いたた、ごめん〜。思わず勢いで〜」
「思わず勢いで人様の唇奪うな痴女が。姉妹揃って私のファーストとセカンド勝手に埋めやがって」
「はるちゃんのはノーカンだよ〜」
「あんたにファーストあげるくらいなら妹ちゃんにあげた方がましだ。ほんとに、何が守るだ痴女め」
「もうしないから許して〜。ほんとに痛い〜」
「またされてたまるものか」
先ほどまでの事がもうどうでもいいくらい、とにかく安蘭樹さんのキスの事で頭がいっぱいになっていた。
今後私が安蘭樹さんを見る目は確実に変わるだろう。
まったく、告白されるのは慣れているけど、キスされるのは慣れていなさすぎて完全に不意を突かれた。
冗談抜きで悔しい。
こんな事になるなんて、やっぱり花火大会は碌でもない。
「ところで、私の事碌でもないとか言ったでしょ」
「言ってないよ〜。納得しただけ〜」
同じ事だこの痴女め。
「本気で一発殴っていい?」
「くうちん自分で性格悪いって言ってるじゃーん」
「自称しているからって他称していいわけじゃないんだよ痴女」
「もうやらないから痴女やめて〜」
「今回得したの安蘭樹さんだけで私損しかしてないのまじで納得いかない」
「今度ちゃんと何かしらお詫びするから許して」
「次勝手にしたら本気で殴るから」
「許可取ったらいい?」
「許可する事なんてないけどね」
「してもらえるように頑張る」
「あっそ」
無駄だろうけど。
悠優の心臓バックバクです。
今話が最初の区切りになります。
約十万字と良いタイミングでこの話を出せて個人的に嬉しいです。
少しずつ増えるPVにブクマと評価、いいね、感想すごく嬉しいです。めちゃくちゃ励みになります。
書き溜め無くなると更新停滞しますけど、今作は最終話までの流れ、結末はできていますのでそこは安心していただければと思います。
引き続きよろしくお願いします。




