事実を話すとは限らないけど
上がっていた方の腕を握り締め、謝罪の一言でも言わせようと言葉を紡ごうとした。
「勝手にいなくなって。どれだけ探したと思ってるの。電波悪くて連絡もできないし。どれだけ、本当にどれだけ──」
最後まで言う前に、私の足は限界を迎えて膝から崩れ落ちた。
「くうちん⁉︎ 大丈夫?」
しゃがんだ安蘭樹さんは心配そうに私を見つめている。
「一体誰のせいだと思ってるの。いつも私に言っているくせに自分から勝手にいなくなって」
「ごめんね。さっきの子迷子になっていて放っておけなくて。見失う前にって思って勝手に動いたの。本当にごめんね」
「それでもし安蘭樹さんに何かあったらどうするつもりなの。自分の見た目の事少しくらいは考えなよ。世の中には一目惚れでガチになるヤバいやつだっているんだよ。この馬鹿」
「……うん、ごめんね。探しにきてくれて、心配してくれてありがとう」
「別に、心配なんてしてない」
安蘭樹さんはおかしそうに眉を顰めて笑った。
なんなんだそのムカつく顔は。可愛げのない。
「でも、一生懸命にはなってくれた。くうちん、本当にありがとう。もう大丈夫だよ」
安蘭樹さんが私の手に一瞬触れた後、視界が暗くなった。
「あれ、私、サングラス……」
「やっぱりくうちんは美人さんだね〜。だから、安易に見せちゃダメだよ〜。一目惚れたくさんされちゃうからね〜」
理解が追いつかなかった。
一体いつサングラスを取ったのか、どれだけの人に顔を見られてしまったのか、ここにどれだけのヤバい奴が紛れているのか、平静を保とうにも、憶測が私の身体を震わしてしまう。
「大丈夫、大丈夫だからね〜。ゆっくり息吸って〜吐いて〜。そー。それでいい。それじゃあ行こうか〜。ゆーゆが付いているから大丈夫だよ」
安蘭樹さんに引かれるがまま私は歩く。
顔を上げられない。怖い。
付けられていたらどうしよう。
執着されていたらどうしよう。
責められたらどうしよう。
この手を離されたらどうしよう。
嫌だ。もう、見放されたくない。
「──くうちん」
気づくと周りが静かになっていて、安蘭樹さんの声が耳によく響いた。
その声でほんの少しだけ落ち着けた自分がいる。
「何」
「てんちん達がいる場所分かる〜?」
辺りを見回すと住宅街……というより小さな工房通りまでやってきたよう。
もちろん土地勘なんてないからここから天乃さん達がいる場所なんて分からない。
「知らない」
「そっか〜」
安蘭樹さんはそれだけ言うとまた歩き始めた。
大通りからは外れているのだろう、私達の他に誰もいない道。
花火大会まであと三十分。
おそらく間に合わない。
どうしようもないから花火大会が終わったら集合した場所で待っとけばいい。天乃さんもそう考えるだろう。
「ねえくうちん」
「何」
「……やっぱりやーめた」
「何それ」
「たぶんくうちんは話してくれないし、嫌な思いさせるだけかなって思ったから」
……あの弟が安蘭樹さんに何も話していないとは考えられない。
きっと、多少なりとも私の過去に推測を持っているのだろう。
「どこまで知ってるの?」
「何の事〜?」
「私の友達の事」
安蘭樹さんは歩みを止め、私の方に向き直った。
「教えてくれるの?」
「答え合わせをするだけ。あんたは意外と鋭いから。あれやこれやと憶測を立てられるくらいなら肯定否定する方がいい」




