久しぶりの顔
澄み渡る青空が今は憎たらしく思えて仕方がない。
台風とまでは言わないが、雨でも降ってくれれば私は今日一日幸せだった。
そのためにここ最近ずっと逆さてるてる坊主を作って、自室をカーテン要らずの部屋に作り替えていたというのに。
「はぁ、行ってきます」
「行ってら──ちょっと待って花恋! その格好で行くつもり⁉︎」
Tシャツとジーパンで問題ない組み合わせとしか思えない。
特に私のスタイルなら服を着ているだけでファッション誌さながらのお洒落だというのに。
「何? 文句ある?」
「大アリだよ! 花火大会でしょ! 浴衣着なきゃ!」
「絶対嫌だ。死んでも着るもんか」
結局着させられた。
白生地にピンクの花が散らばっている、いかにも可愛い系女子が好みそうな浴衣だ。
こんなの着ていったら気合い入りまくりの人間に見えてしまうじゃないか。
これならまだ黒の浴衣で金魚が泳いでいた方が、偶々家にあった親のやつを無理やり着させられたで押し通せたというのに。
「はい、行ってらっしゃーい」
浴衣と合わせられた巾着袋を渡され、私は家から追い出された。
誰かしら私服で着てたら覚えてろよお姉。
てかなんでこんな浴衣あるのか。新品の匂いするし。
「はぁ……」
何が悲しくて一人で浴衣ップルだらけの電車に乗って、人でごった返したクソ暑い空間からちょびっとだけ見える花火を見に行かなくちゃいけないのやら。
今時屋台も出ていないし、本当に行く意味が分からない。
「しかもお姉に追い出されたせいで約束時間前に着くし。まじふざけるな」
浴衣だと身動き取りづらいし。当初の目的だった本屋で時間潰そう作戦も使えないから、大人しくクソ暑い駅で待たなければいけない。
「お姉さん一人? 別にナンパとかじゃないんだけどさ、俺も一人なんだよ。せっかくの花火だしさ、よかったら一緒に見ない?」
一体どこのおひとり様が駅の柱を背にスマホいじってるんだよ。
暑さで脳まで溶けたのかクソ野郎。
店の中に入ればナンパなんてされなかったのに。たぶんだけど。
なんにせよまじ最悪。
「何も言わないってことは良いってことだよね? 俺金は持ってるから奢るよ」
何も言わないイコールOKとかなんて都合の良い世界なのだろうか。
スマホでそのキモい顔殴って逃げようかな。
「どこ行く? 俺花火がよく見える穴場のホテル知ってるんだよね」
よし、殴るかこいつ。
「待たせてごめん。道に迷ってさ。おっさん、俺の彼女に何か用?」
男性はクソ野郎に向けて声をかける瞬間、私に向けた声からは信じられないほどの凄みを感じた。
「はぁ? おっさん?」
「文句あんのおっさん。あんなら相手してあげるけど」
クソ野郎との間に入った男性は、袖を捲って鍛え抜かれた筋肉を見せつけた。
「いや俺、まだ二十代でおっさんじゃねーし。てか彼氏持ちならさっさと言えし。期待させやがって」
「おい、人様の彼女に何言ってんだよ」
クソ野郎は男性が少し動くと、逃げるように去っていった。
「大丈夫ですか? 怪我していませんか? せっかくの花火大会だというのに、災難でしたね」
こちらに顔を向けた男性は背が少し高くて身体が鍛えられた、決してイケメン役など任せられない極々普通の顔の青年。
でも、その顔と声からは優しさが滲み出ており、変わらず私が信頼できる人だった。




