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花の道しるべ  作者: 輝 静
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妹とは大違い

 店選びの後は再びぶらぶらとモール内を散策した。

 適当な店に入って、商品を物色して、ただただ時間を潰した。


 意外だったのは、氷冬さんが割と顔を覚えられていたという点だ。

 いやまあその顔なら納得だけれど、老若男女問わず会話が成り立っているという点に驚きだ。


「それにしても、怜ちゃんがお友達を連れているなんて珍しいわね〜」


 今は絶賛古株そうなおばさんと話している。


「たまたま会った」

「良かったわね〜。そうだ、ちょっと待っててね」


 おばさんはそう言って裏に入っていった。


「氷冬さんにも顔見知りとかいるんだ」

「いつもお兄ちゃんが仕事終わるまで暇つぶししてたから」

「ふーん」

「いつも一人だったから、皆よく話しかけてきた」

「へー」


 学校とはまるで正反対だ。

 これが社会というものなのだろうか。それとも大人の余裕ありきなのか。


「今日はね、花恋がいるからあまり話しかけられない」

「それは残念だね」

「残念じゃないよ。花恋がいるから」


 私は心底残念だよ。氷冬さんがいるから。


「待たせてごめんね〜。はい、怜ちゃん。映画の割引券。お友達と楽しんで」

「ありがとう」


 おばさんは私を見て、にっこりと笑顔を浮かべる。


「怜ちゃんの事、よろしくね」


 そう言っておばさんは業務に戻っていった。

 私によろしくされても困るだけだ。


「映画観る?」

「観ない」

「でも勿体無い」

「お兄さんと観ればいいじゃん」

「お兄ちゃんは花恋と観てほしいって思うよ」

「じゃあ私はお兄さんと観てほしいって思うよ」


 氷冬さんは私から視線を外し、スマホに目を向けた。

 いつもの事だから一瞬スルーしかけたが、なんだかまずそうな気がしてスマホを取り上げた。


「どうしたの?」

「今度行ってあげるから調べるの禁止」


 そう言って氷冬さんのスマホを見て、そっと検索履歴を消した。


 どうせ映画の誘い方とか検索しようとしたのだろう。

 そんな事したらデートやらカップルやら余計な文言が出てくるに決まってる。

 氷冬さんのことだし、それに影響受けて何かしら変なことを口走るに違いない。

 そんな面倒な状況はノットウェルカムだ。


「本当?」

「二度は言わない」


 まあ今度だし。その今度がいつ来るかは分からないけどね。


「楽しみにしてる」

「そうですか」


 なら一生行かずにその楽しみを味わうのが良いと私は思う。


◇◆◇◆◇


 おそらくモールに入っているほぼ全ての店を一瞥し終え、締めに一番賑わっているスーパーに向かった。


「怜、待たせたな」


 聞かなくても分かる勝ち組遺伝子が氷冬さんの方に歩いてきた。


「友達か?」


 私の方を見ながら、男性は氷冬さんに聞いた。


「そう。花恋」


 まじで私ってまともな紹介されないんだな。

 一種の嫌がらせとしか思えない。


「あなたが花恋さんですか。いつも妹から話を聞いています。一緒にいてくれてありがとうございます。怜の兄で氷冬大鷹(ひとうひろたか)といいます」

「……空瀬花恋です」


 すごい、この人常識あるタイプの人だ。珍しい。

 どうしてこの人と氷冬さん(これ)が同じ血筋なのだろう。


「よろしく、花恋さん。今日は怜に急遽付き合わされたとかですよね。すみません」

「いえ……」

「怜、無理に付き合わせたんだから謝罪とお礼を言いな」

「ごめん花恋、ありがとう」


 お兄さんは呆れたように溜息をついた。


「すみません、昔から淡白な妹で。まともに他者とのコミュニケーションも取ってこなかったので、感情が籠っていないように感じるかもしれませんが、発した言葉は本心ですので、どうかご理解いただければと思います」

「大丈夫です、慣れてますので」


 お兄さんは安心したのか笑顔を浮かべた。

 こっちは普通に笑うのかと、ますます血縁関係に疑いが出る。


「怜、この縁を大切にするんだぞ」

「うん」


 むしろ切るよう助言をお願いしますお兄さん。


「今後とも妹が迷惑をかけると思われますが、どうかよろしくお願いします」

「まあ、はい、ほどほどに」


 どうにもこのお兄さんの前では本心が上手く言葉に現れない。

 静凪(せな)君と似た雰囲気のせいだろうか。


「ありがとうございます。本来ならばお礼として食事ぐらい奢らせてほしいのですが、怜曰くご自身の手で作られた物以外は苦手とのことで」

「そうですね」

「苦手を強要するわけにもいきませんので、また今度別の形でお礼させてください」

「結構です」


 氷冬さんと関わる機会を無駄に増やしてたまるものか!


「ですが」

「結構です」

「……そうですか。無理強いはできませんね。お礼をしたいというのもこちらの自己満足ですし。ですが、言葉だけでも受け取ってください。怜と仲良くしてくださってありがとうございます」

「いえ、まあ、はい、こちらこそ」


 何がこちらこそだ私! 頑張れ私、雰囲気に押されるな。


「ほら、怜も」

「ありがとう花恋」

「それでは僕らは先に失礼します。帰り、気をつけてください」

「またね、花恋」


 またはないといつもなら出てくる言葉も、お兄さんがいるせいで、喉でつっかえて戻ってしまった。


 妙な疲れを抱え、私は家に帰った。


「ただいま〜」

「おかえり」


 一日を終え、ベッドに横になって、メッセージアプリを開く。


「二年前か……」


 一方的に送られたメッセージ。それを見て近況が少し気になった。

 でも、直接聞くのは未だそれなりに抵抗があったから、一階に降りて家計簿をつけているお母さんに話しかける。


「お母さん、静凪君元気?」

静凪(せな)君も(つばさ)ちゃんも元気よ。いつも花恋の事を心配していて。あなたから一言言ってあげたら? 喜ぶわよ」

「翼はどうでもいい」

「あなた本当に翼ちゃんと相性悪いわね。かなり可愛がられているというのに」

「あいつうざい。まじ嫌い」

「あんなに良い子なのに」

「翼のこと何にも分かってないね。まあいいや、元気なのは分かったし」


 静凪君への連絡は然るべき時にすればいい。

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