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花の道しるべ  作者: 輝 静
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礼儀のなってない

 そう言って事の顛末を話すと、安蘭樹さんはあちゃーと漏らして、笑顔のまま眉を顰めた。


「俺何も悪い事してないだろ⁉︎」

「ファンって言ったのはまずかったかな〜。そうちゃんにとっては軽口のつもりだったかもしれないけど、その前に無理やり連れてこられたって主張していたから、癪に触っちゃったんだと思うよ〜」

「でも、その後あの人姉ちゃんのことうざいとか迷惑とか酷い事言って、俺は悪くない!」

「くうちんの言っていることは本当だよ〜。今日だってね〜我儘言って家に来てもらって〜、ご飯まで作ってもらった。学校でもー、静かに過ごしたいくうちんに配慮しないで〜、お姉ちゃんが無理やり一緒にいるの〜。だから〜、くうちんの事責めないで。くうちんも〜、何も知らなかったそうちゃんの事責めないで。ゆーゆが全部悪いから、ゆーゆに謝らせて。本当にごめんなさい」


 安蘭樹さんは腰から深々と頭を下げた。

 まだ完全に乾き切っていない髪から雫が落ち、床をほんの少し濡らしている。

 私はそんな安蘭樹さんの前に一歩出て、口を開く。


「顔上げて」


 妹ちゃんを下ろして、念の為耳を塞いだ。

 妹ちゃんはどしたのと聞いてきたが、特に何も答えず、そもそも聞こえないので、無視をして安蘭樹さんに向き直った。


「私元から安蘭樹さんにも謝ってもらうつもりだったから、先走って謝らないでくれる? 順番が狂うんだけど」


 安蘭樹さんは顔を上げると、事態が上手く飲み込めていないのか、呆気に取られた表情を浮かべていた。


「せっかく姉ちゃんが頭を下げたってのに!」

「それとこれとは別でしょ。逆に聞くけどさ、あんたの友達がお姉さんに付き合い悪いですね、そんなんじゃ人離れますよって言ったらキレないわけ? あんたシスコン入ってそうだしキレるよね。ご両親の事とか話してさ、それでも知らなかったから仕方ないで謝らなかったらどう思う? 嫌だよね? 不快だよね? 悔しいよね?」

「それは……」

「あんたさ、怒られた事あんまないでしょ。多少調子に乗ってもその容姿で許されてきたでしょ。安蘭樹さんへの態度を見れば分かるだろうけど、私には一切通用しない。妹ちゃんはまだ良い。五歳だもん。考えなしの言動も多めに見れるし、知らなかったで全然許す。でもあんた中二でしょ。自分で蒔いた種を大好きなお姉ちゃんにだけ刈り取らせるなよ。俺は悪くないって思っても、あんたの言動でこっちは腹立ったんだから謝れよ。安蘭樹さんも甘やかすな。だからちゃんと謝れないクソガキになるんだよ。いざという時後悔するのは弟で、そうなったら安蘭樹さんは自身を責めるでしょ」


 歯を噛み締め、敵を見るかのように私を睨みつける。


「うっせー! 家ん中でもサングラスなんて掛けやがって! お前どうせとんでもないブスなんだろ! 俺たちが羨ましいからって僻むなよ! 姉ちゃんの優しさに甘えんな!」

「容姿が良いことに、誇りを持って羨まれる対象だと思えるだなんて、本当に何一つ苦労をしてこなかったんだろうね。まだ経験がないのか、それとも男と女じゃ違うのか、分からないけど君に何を言っても無駄だってことは分かった。頭が足りなさすぎる」


 今まで安蘭樹さんの背に隠れていたが、感情の昂りに従い足を大きく踏み鳴らして私の前に身長を活かした威圧感を放って立った。


「お前に俺の何が分かるんだ!」

「あんたこそ、私の事何も知らないでしょ」

「初対面の人間に喧嘩を売って、姉ちゃんに対して悪口言うクソ女って事くらいは分かるわ! なんでお前みたいなクズがここにいるんだよ! 俺達家族に関わるな!」


 おそらくこの後何を言おうと売り言葉に買い言葉になることは分かっている。

 お姉の迎えはまだ来ない。それどころか天気予報にはなかった大雨が降りはじめていた。

 そもそもスカートも乾いていない。

 でももういいや。これ以上の面倒は付き合いきれない。


「もうい──」

「そうちゃん、謝って」

「何でよ姉ちゃん! 元はと言えばこいつが」

「謝りなさい、爽晴!」


 安蘭樹さんはいつも穏やかだった。

 常に微笑んでいるのもそうだけど、安蘭樹さんの持つ特有の雰囲気が場を和ませていた。それが安蘭さんの人気の一つでもあった。


 でも、今私の目の前にいる安蘭樹さんからはその雰囲気が全くなく、姿形が全く同じの別人を前にしている気分だった。

 耳を塞いで会話が聞こえない妹ちゃんも、その異様な雰囲気を感じ取ったのか、不安な表情を浮かべ、私の手首を強く握りしめた。


「俺は何も悪くない。俺は、謝らない!」


 目に涙を溜めた目で私を一度睨んだ後、クソガキは安蘭樹さんの言葉を無視して、一目散に駆けていった。

 いや謝れよ。

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