視界さえ悪くなければ
あともう少しで夏休み。その前に一つ大きな壁が我々学生に立ちはだかる。
その名も期末試験。
この学校は二学期にイベントが盛り沢山なこともあり、一学期はその分試験範囲がまあ広い。
しかし、私は勉強はまあ出来る方だから心配は一切していない。
勉強しなくても平均点くらいは取れる自信がある。
だから、早く帰れるという事実にただ喜べばい──
「くうちん、勉強教えて」
どうしてこうも私が幸せな未来を描いた途端ぶち壊してくるんだ。
「私勉強できない」
「じゃあ一緒に補習組だね〜」
「そこまで酷くない」
「じゃあ教えて〜」
「天乃さんに教えてもらえばいいじゃん。新入生代表だったんだから、成績トップでしょ」
「冗談やめてよ〜。てんちんと一緒だと勉強どころじゃないじゃーん」
たしかに、二人が一緒にいれば通行の妨げが酷いことになるだろう。
そんなこと私だって分かってる。でも私だって注目されているなか教えたくない。
「くうちんおねがーい。ゆーゆ推薦だから〜勉強できないの〜」
この学校は私立だけれど、附属の大学も繋がりの強い大学もない。
この学校の良い点といえば、校則の緩さと制服、あと偏差値の高さだ。
しかし、そこがこの学校が不人気な理由でもある。
この学校と同等の偏差値の私立高校は、基本有名大附属である。その高校とうちの校則の緩さも大して差が無い。
利点が無さすぎて過去に一度定員割れを起こしたくらいだ。
だから、この高校は偏差値の割に推薦の受け入れ基準が緩い。勉強はできないけど、成績稼ぎは頑張った人が来るような場所だ。はっきり言って推薦組は馬鹿が多い。
もちろん、入試組は偏差値相応の試験どころか、推薦組を多く取っていることが前提にある為、他の同等偏差値の高校より難しいくらいである。その為、推薦組とは月とスッポンレベルで普通に頭が良い。
この学校自体も、入学してしまうと偏差値並みの難易度の授業やテストがある為、推薦組がテスト期間に焦って勉強するも結局補習に参加するのが毎年の恒例行事らしい。
そんな馬鹿を相手にするなんてまっぴらごめんだ。
「どうでもいい」
「ほんとーにお願い! 一回だけでいいから勉強見てほしいの! ゆーゆ補習になるわけにはいかないの!」
「じゃあ一人で勉強すればいい」
「それができないの〜。お願い、一回だけだから。頼りにできるのくうちんだけなの〜」
「どうしたの?」
肩を掴まれ前後に振られていると、悪魔が私を地獄に落としにきた。
「くうちんに勉強教えてほしいの〜」
「もうすぐ期末試験だもんね」
「天乃さんが教えてください」
どうせ無駄だと思いながらも、一塁の望みに賭けてしまうのが人間の性だ。
「私だと悠優ちゃん落ち着かないと思うから、花恋ちゃんの方が良いと思うよ」
なんで天乃さんは私が教えられる前提で話しかけてくるの。
「私も勉強できないと考えないのですか?」
「花恋ちゃん小テストの点数いつもいいから」
「何で知ってるんですか?」
「後ろの席だからね」
さりげなく怖いこと言うなこの人は。
「見ないでください。プライバシーの侵害です
」
「くうちん頭良いなら教えてよー!」
「氷冬さんに教えてもらいなよ」
「ただでさえ言葉が足りないれーちんが人に教えられるわけないでしょー!」
なんだ、あの人ちゃんとコミュ障って事バレているのか。
いや、二人は気づいていないとおかしいか。
「あと多分、怜ちゃんも勉強できないよ」
「何でですか?」
「小テストがある時必ず、点数もらえていればセーフ? って聞かれるの。正直怜ちゃんの勉強不安だから、対策用ノート今作ってて。それもあって悠優ちゃんの勉強見れる時間あまり作れないの。だから花恋ちゃん見てあげて」
安蘭樹さんは何も言わずに頷いている。
「じゃあ安蘭樹さんの分のノートも作ればいいじゃないですか」
「流石に自分の勉強もあるから時間がないかな。花恋ちゃん、手伝ってあげて。悠優ちゃんも補習をやりたくない事情もあるし」
「そんな事情知ったこっちゃないです」
「お願いくうちん〜。妹迎えに行くのが遅くなっちゃう〜」
そういえば、安蘭樹さん園児の妹いたっけ。
だから補習やりたくないってしつこいのか。
別に他人の妹とかどうでもいいけど──
「遅くなったら妹泣いちゃうの〜。寂しい思いさせちゃう〜」
どうでもいいけど、まあ、これからずっと教えろってしつこいのなら、一回くらいはまあ。
泣き落とし作戦されても迷惑だし。
「安蘭樹さんがジャンケンで勝ったら今日だけ教えてあげる」
「ほんとー! ありがとう〜」
「最初はグー」
「え、待っ──」
「ジャンケン」
──ポン




