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花の道しるべ  作者: 輝 静
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絶対に行かない

 二度目の帰宅後、荷物をリビングと冷蔵庫に置いたてすぐ、お客さんを連れて急いで階段を駆け上がって部屋に入り、着替えるのも忘れて買ってきた物を見せる。


「見て、月餅。新しい化粧水にしてみたんだ。ようやく見つけたんだよ」

「ワンっ!」


 ふわっふわなまるでわたあめのように愛らしいポメラニアン。

 買った物を共有する人なんていないから、飼い犬に自慢する。


「うんうん、どう違うのか気になるよね。お姉に使われないよう気をつけないと」


 使うなという注意書きを書いていると、珍しくスマホが鳴った。

 通知とか来ない設定にしているので、誰からかすぐに分かった。

 まだ私が設定をいじっていない相手なんて一人しかいない。


 既読をつけないように内容を確認すると、週末空いているかとの事だった。

 私の返答は決まっている。空いていようがなかろうが、絶対に行かないと。

 今すぐにでも空いていないと打ちたいが、早く返事するのは嫌だから、一時間くらい空けてから返事する事にする。


「ただいま〜。花恋、帰っているの?」

「今帰ってきたとこ」


 私は大きな声で返事をした後、月餅と一緒に一階に降りる。


「あら、ようやく買えたの」

「うん。良いでしょ」

「良いと思うけど、やっぱり値段は上がるわよね」

「別にいいじゃん」

「どうせなら月ちゃんのシャンプー高いのに変えたいわよね〜」

「ワンっ!」

「私が綺麗になるなら月だって嬉しいでしょ」

「それ以上綺麗になってどうするの。見せもしないのに。それよりも花恋、早く着替えて家のこと手伝って」

「はいはい」


 サングラスを外し、カチューシャをつけて前髪をあげて料理に取り掛かる。

 今日は時間があまりないからパパッとオムライスと野菜スープを作る。


「花恋、お風呂沸いたから入りなさい」

「はーい」


 お風呂に入っていると、お姉が帰ってきた。


「花恋、シュークリーム買えた?」

「冷蔵庫に入ってるよ」

「さっすが我が妹! あ、そうそう、なんか天乃って人から電話かかってきてたよ」

「げっ! お姉また私の部屋勝手に入ったの⁉︎」

「姉妹間にプライバシーなどない!」

「あるよ!」

「嘘嘘。花恋が探してた化粧水見つけたから部屋に置いたんだよ。ま、必要なかったようだけど」

「本数増える分には困らないから。それより、私のスマホ見たの?」

「見てないよ〜。パスワード掛かってるし。あ、そうそう、週末遊びに行ってあげたら? 花恋に友達ができるなんて珍しいし」

「お姉やっぱり私のスマホ見てるじゃん! あと友達じゃない!」

「またまた〜。それに、通知見えるようにしてるのが悪いんだよ」

「お姉ー!」

「おー怖い怖い」


 お姉はそう言って脱衣所を出て行ったので、私も後を追うようにお風呂から出た。


「お母さん聞いて! お姉が私のスマホ見たんだよ!」

「だって花恋に友達なんて珍しいんだもん」

「えっ⁉︎ あなた友達できたの⁉︎」


 お母さんは洗濯物を畳む手を止めて、見開いた目で私を凝視した後、その目はほんの少し滲んだ。


「ようやくあなたにも信頼できる人ができたのね」

「花恋が週末その子と出かけるって」

「ちょっと!」

「まあそうなの⁉︎ 一万円あげるから楽しんできなさい。もしかしてテーマパークかしら? それなら一万円じゃ足りないわね。三万円あったら足りるかしら?」

「ちょっと聞いてよ! 友達じゃないってば! あと遊ばないから! 私週末は映画見るの!」

「ならその子と行けばいいじゃない」

「嫌だよ! あとサブスクだし!」

「なら別の日でもいいでしょう」

「更新日に見たいの!」

「わがままが多いわね」


 お母さんははぁっと溜息をついて畳むのが終わるとすぐお風呂に向かった。


「そもそもこの顔見せられるわけないし」

「その子面食いなの? 名前からして女子でしょ? 大丈夫じゃない? 花恋なら対処できるでしょ」


 お姉がさりげなく私の側の椅子を引いたので、私も自然と座り、テーブルを挟んでお姉と対面する。


「女子だよ。面食いかは知らないけど。てか興味ない」

「その子超ブサイクだったり?」

「いや、むしろ超可愛いらしい」

「花恋よりも?」

「私より可愛い人間なんて存在するわけないじゃん」

「性格は?」

「優しいらしい」

「欠点は?」

「情報に間違いなければ今のところない」

「良い子じゃん。行ってきなよ。大丈夫だよ、たぶん」

「違うの、そうじゃないの」


 お姉は頬杖をついて庭の方を向いた。


「中学の頃の事、まだ引きずっているの?」

「……もし万が一学校の人にこの容姿のことがバレたら、また面倒な日々が始まる」

「いや〜凄かったね。ストーカー騒ぎにまでなって。毎日お母さんが車で送迎してたの。しかも唯一の友達に──」

「そうだよ、モテるって辛いんだよ」

「私だってモテるけど案内楽しくやってるよ。花恋は友達に恵まれなかっただけ」


 妙に腹立つ真面目顔で、お姉ははっきりと言い切った。


「とにかく、高校くらいは平和に過ごしたいんだよ」

「そっか、分かった。花恋の好きにしたらいいよ。ところでご飯何?」

「オムライス」

「えー、今日はビーフシチューの気分だって言ったのに」

「……分かった。食べなくていい」


 お姉の目の前で冷蔵庫にオムライスを入れる。


「わー! 嘘嘘ごめん! 花恋の美味しいオムライス食べたいな〜」


 私は何も言わずに月餅のご飯をお姉に渡し、私は目の前で見せつけるようにオムライスを口にする。

 冷蔵庫からオムライスを出そうものなら睨みを効かせる。

 がっくりと肩を落とし、お腹を鳴らすお姉の横で月餅は美味しそうにお腹を膨らませていた。

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