表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花の道しるべ  作者: 輝 静
16/113

ようやくの解放

 私は天乃さんと一緒に映画館に来た。

 映画なら話さなくていいし、上映時間の長いやつなら寝られる。

 我ながらグッドアイデアだ。


「花恋ちゃんはどの映画が観たいの?」

「えっと、これです」


 どれどれとスマホの画面に目をやった天乃さんは、少し笑顔を引き攣らせた。


「R15って書いてあるけど、本当に? 多分ホラーだよ」


 なるほど、天乃さんはホラー苦手なんだ。なら嫌がらせにももってこい……嫌だめだ! それが理由で手を握られたり腕を掴まれたりしたら寝られる自信がない!

 それに、私もそんなにホラー得意じゃないし、隣でビクビクされたら私までビビる自信がある。

 うん、やめよう。


「じゃあ──」


  私達が見た映画は端的に言えば不倫、NTRの洋画だった。しかも百合物。

 夫が不倫したことに腹立った奥さんは、不倫相手と夫両方に復讐するために不倫相手に近づいたのだが、段々と本気になって……という話。


 不倫映画だからなのか、やたらベッドシーンが多く、寝るに寝れなかった。

 あと、単純に話としても正直面白かった。

 心理描写が丁寧で、主人公が夫と不倫相手を通じて、改めて愛とはなんなのか、好きとはなんなのか突き詰め、真の恋に堕ちる話。

 登場人物全員不倫しているクズなんだよなと思いつつも、各々の葛藤と決断には目が離せなかった。


 ジャンルがジャンルなだけに客入りが良いとは言えないどころか貸切だったけど、適当に観た映画が当たりなのはラッキーだったと思う。

 基本三次元の恋愛物は苦手ではあるけれど、洋画だからまだファンタジーとして観れるし、これを機に洋画を観てみようかなとさえ思わされた。

 それほど良い映画だった。


 それはそれとして、天乃さんにこういうのが趣味だとは間違っても勘違いされたくなかったから、斬新な設定だったということだけ感想として伝えておいた。


「花恋ちゃんは大丈夫な人なの?」

「何がですか?」

「同性愛」

「天乃さんは無理な人でしたか?」

「ううん! そんなことないよ!」

「なら答えは出てるじゃないですか。無理だったら、私は問答無用で途中退出してますよ」

「そうじゃなくてね──」

「同性も恋愛対象に入りますかって質問なら意味ないですよ。私は異性とも同性とも恋愛する気なんて微塵もないので」

「分からないよ」


 天乃さんは悪戯に笑って見せた。

 先の事なんて分からない、もしかしたら好きな人ができるかもよと言いたげだ。


「その通りですよ。当事者にならない限り、異性しか駄目なのか、同性しか駄目なのか、もしくは両方駄目なのか、それともいけるのか分かりませんよ。でも、一つ事実なのは、私がその気になれば、セクシャルの壁を超えて、誰でも恋に堕とすことができるという事です」

「私も?」


 笑顔を絶やさぬまま、天乃さんはその顔を私に近づけた。

 私だってそれくらいできるという自信でも、そんなことあるわけないという嘲笑でもなく、恋を知りたいという単純な好奇心からなのか、期待を込めているように感じた。

 だったら、私は自信たっぷりに返す。


「天乃さんを堕とすくらい朝飯前です。まあ、私は応える気ないので辛い思いをするだけですよ」

「言うね〜。花恋ちゃんだって、私を好きになる──」

「それはないです」

「即答されるとちょっと傷ついちゃうかも」

「私に恋するともっと辛いので気をつけてください。じゃあ、私は帰ります。間違っても二人で出かけたなんてこと言わないでくださいよ。お姉に脅されて仕方なく来たので」

「二人だけの秘密だね。大丈夫、安心して。誰にも言わないから。今日は付き合ってくれてありがとう、花恋ちゃん。また学校でね」

「極力他人でお願いします。失礼します」

「それはちょっと難しいかな。またね」


 天乃さんが手を振ったので、私は小さい会釈で返した。


 家に着いて、天乃さんと写真を撮ることを忘れていたことを思い出した。

 お姉にその事を突っ込まれるかと思っていたけれど、なんともなかった。

 元々写真を撮ってくるなんて思っていなかったらしい。


「家族以外と出かける。それだけで十分進歩だよ。意外と天乃ちゃんの事気に入ってるでしょ。お姉ちゃんの目に狂いはないからね。天乃ちゃんとは良い友達になれるよ」

「馬鹿言わないで。私の友達は後にも先にも一人だけだよ」

「そっか。優しいんだね。性格悪いけど」

「最後の一言ブーメラン刺さってるよ」

「可愛くないな」

「鏡なんか見るからだよ」


 お姉は何も言わずに私の頬をつねった。私の最上級な顔に傷がついたら天罰物だとお姉にはまだ分からないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ