図太い彼女
私の出した答えが正しいのかまだ分からない。
そもそもお姉の言葉が正しいのかすら分からない。
けど、どっちにしろ後悔はしたくない。だから、後悔しない選択肢を私は選ぶだけ。
「あ、花恋ちゃん」
中庭に来るかは賭けだった。けどきっと、私ならここに来る。静かに考えられる場所はここくらいだから。
「安蘭樹さんと氷冬さんは?」
「まだ、来ないみたい。来るとは思うよ」
「そうですか」
一人ずつ来てくれるなら、個人的に都合が良い。
「天乃さん、少し話しませんか?」
「……話してくれるの?」
「はい」
「ありがとう」
いつものような明るい言葉ではなく、どこか諦めた、でも、嬉しさを含んだ、音量はあるのに消え入りそうな声を出した。
いつもとは違い、極力離れられるようにと一番端に座り、身体も外に向いていた。
「天乃さんって、どうして滓芥が好きになったんですか?」
「え? 私が滓君を好き? どこから?」
「え? あいつ呼び出したの天乃さんじゃないんですか?」
「違うよ! 違う!」
「じゃああの告白って誰宛ですか?」
「あれは花恋ちゃんに近づく為のきっかけ作りだよ。別に好きな人なんていないよ」
思わず頭を抱えそうになった。しかし、同時に納得もした。
あんな都合の良いタイミングで、誰かも確認せず間違えて告白するなんておかしい。ただでさえ天乃さんは告白を知られるだけでまずいんだから、より慎重になるはず。
そうか、私はあの頃から狙われていたのか。
「分かりました。それはもういいです。気を取り直して、友達はいたんですか?」
「いないかな〜。私、中学生の時友達が欲しくてね、色んな人と遊びに行ってたの。女の子も男の子も関係なく。そしたらあまりよくない噂が立っちゃって、その噂を信じて近づく人も出てきちゃって、怖くなって誰とも遊ばなくなったんだ。今考えたら、そうなって当然だったんだけど、当時の私は必死で。考えなしで馬鹿だよね」
「そうですね。愚かです」
でも、中学生というのは一番自分も周りも間違える時代。天乃さんだけを馬鹿にするつもりはない。
まあそんな事口に出して伝えるつもりなんて微塵もないけど。
「とりあえずありがとうございました」
「ううん。花恋ちゃん、ごめんね。花恋ちゃんの優しさに甘えて、迷惑かけて。本当にごめんね。友達だなんて思わなくていいから」
残念なことに、私はただの一度も天乃さんを友達だとは思った事がない。
最初は苦労しそうなクラスメイトくらいにしか思っていなかった。
今の関係だと、まあ良くてちょっと顔見知りで話すくらいのクラスメイト程度。まだ友達でも何でもない。
そもそも、私は何度も君達が好きではありません。
関わらないでくださいと明言してきた。
それなのに今も前も私を友達だと言ってきた。
それは些か謎である。
「天乃さんって結構図太いですね」
「えっ⁉︎ 私そんなに太ってる⁉︎ 着太りじゃないかな? ちょっと待って、ブレザー脱ぐね。ほら、ウエストもこれだし、足だって太くないと思うよ」
自分のくびれに手を当てたり、スカートを自ら捲って足の細さを証明したり、一生懸命空回っていた。
きっと、中学でも意図せずやらかしていんだろうと納得するには十分すぎる言動だった。
その行動を愛らしいと思うか、うざいと思うか、それは人次第。
ちなみに私は呆れた。
「そういう意味じゃないですよ。とりあえず天乃さんとの話終わりましたから、向こうで隠れてスマホで意味でも調べといて下さい」
「──うん、分かった」
次はうるさいのが来るか静かなのが来るか。どっちでもいいけど二人まとめて来なければ問題ない。