余計な言葉
ヘッドホンをつけながら片付けと準備を済ませた。
それから五分して彼女達が戻ってきた。
不機嫌ですオーラを全開にし、加えて窓の方を見てあなた方と話す気なんて微塵もありませんアピールをする。
彼女達の気持ちなんてどうでもいい。これは自分を守る為の行動だ。私の為だ。
こうして私は久しぶりに一人で帰った。
「花恋、嬉しそうだね。良いことあったの?」
リビングで月餅と戯れていると、大学から帰ったお姉にそう声をかけられた。
私は嬉しくてつい、お姉に今までの経緯を話した。
「へー。それで、その子達とはどうするつもりなの? 天乃ちゃんに至っては週末出かけるんでしょ」
「全部白紙に決まってるじゃん。ようやく戻ってきた平穏な日々。もう手放したくないもん」
「ふーん。私は反対だなー」
「何が?」
「その子達と縁を切るの」
「なんでよ」
お姉はスマホから目を逸らして、私の方を向いた。
「確かにその子達もさ、調子に乗りすぎたとは思うし、花恋に求めすぎたと思うよ」
「そうだよ。お姉だって分かってるじゃん」
「でもさ、多分皆分からなかったんだよ。皆可愛くて、人気者で、一目置かれている存在なんでしょ」
「そうだよ。皆高嶺の花って言われて学校中で大切にされている人達だよ」
「そんな子達にさ、対等な友達っていたと思う?」
お姉のその言葉に私の心は痛んだ。
「きっとその子達が付き合って来た友達ってさ、打算しかない、彼女達の立場を利用しようとしている友達を偽った敵だよ。だから分からないんだよ、友達とどう付き合えばいいのか」
「でも、三人は友達だよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「違うと思うよ」
お姉は私の隣に座って、私の頭を肩に抱き寄せた。
「本当の友達を知らずに歩んできた者同士で、よく分からないままどうにか見よう見まねで友達ごっこをしている似た者同士だと思うよ。多分、すれ違いを感じながら、どうにか自分の知っている知識と経験を擦り合わせてずっと三人で過ごしていたんじゃないかな。そんな時に他の誰とも違う花恋が現れて、嬉しくて舞い上がっちゃって、分からないなりに一生懸命友達になろうとして、間違えたんじゃない? だからきっと、三人とも今すごく傷ついているし、後悔しているよ。だから、花恋は歩み寄ってあげて。見捨てないであげて。そうすればきっと、その子達はちゃんと道を歩けるようになるよ」
お姉のその言葉を聞いても、私は素直に分かったとは言えなかった。自信がなかった。
「どうしてお姉はそんなに三人を気にかけるの」
「だって、花恋と重なって見えるから」
「私と?」
「花恋は結局友達が離れちゃったでしょ。それから学校に行けなくなって、見た目も精神もどんどん衰弱して、今もトラウマを抱えている」
「分かっているなら一人にしてよ。お姉が言ったんだよ」
「分かっているからだよ。花恋はその子達を見捨てたら一生後悔する。花恋はその子達の気持ちが痛いほど分かるから。私がね、花恋に一人でいなさいって言ったのは、友達を作るなって意味じゃなくて、無理をしないでって意味だったの。一人でいる選択肢もある、周りを見なくていい選択肢もある。だから、自分の望む姿で学校に挑戦してって意味。でもね、もし信頼に足る友達ができそうなら、ちょっとずつでいい。殻を破ってみてほしい。きっと、その時の選択に後々感謝をするよ。お姉ちゃんが言えるのはこれくらい。どうするかは花恋に任せる。お姉ちゃん的には一度話すのもアリだと思うよ。それから決めれば良い事だし」
お姉はくしゃくしゃっと私の頭を撫でると部屋に戻っていった。
私は一人と一匹静かな部屋で、新着メッセージのない画面をただじっと眺めていた。