表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花の道しるべ  作者: 輝 静
108/113

余計なことを

 輪投げの後は優華のいる射的に移動した。


「陽明ちゃん久しぶりだね。お姉ちゃんのこと覚えてるかな?」

「おぼえてる! てき!」

「うん、違うよ〜」

「いや、合ってるよ」


 さっきまでニコニコしてたくせに、私が事実を口にすると眉を顰めて怒ってきた。


「もう花恋ちゃん、ややこしくしないで」

「はぁ〜。陽明、これはね、あー、えーっと、てんちゃん」

「てんちゃん!」


 優華はほっと胸を張って撫で下ろして、射的用の銃の扱い方の説明に移った。


 何で私が優華の事をてんちゃんなんて変なあだ名で呼ばなければならないんだ。恨むぞ悠優。


「もうちょっと前にきていいよ」

「くうちゃんは?」

「私は大人だからここから先はいけないの」

「へー、花恋が大人ね〜」


 お姉のせいで軌道がずれて変なのに当たってしまった。


「うっざ、いつまでいるつもり? てか近づかないでよ」

「そろそろ帰るよ。クラスの雰囲気とかも見れたからね。良いクラスだね」

「最悪のクラスだよ」

「はいはい。天乃ちゃん、花恋の事これからもよろしくね」

「はい、もちろんです」

「しなくていい」


 お姉が私のこと肩を軽く叩いたシーンを一番面倒な奴に見られたせいか、お姉の帰宅がストップされた。


「もしかして空瀬ちゃんのお姉さんですか⁉︎」


 そこそこ通る声で裏切り者はお姉にそう話しかけた。

 そのせいで他の奴らまでこっちに注目してきた。


「そうだよ〜。花恋のお友達?」

「いえ、クラスメイトの和木愛です。空瀬ちゃんとはそれなりに話してますけど、未だに名前すら覚えられていません」

「それはごめんなさい。妹の代わりに謝ります。花恋、クラスメイトの名前くらい覚えなよ」

「脳のリソースは貴重なんだから。無駄な事に割くわけないじゃん」

「こんな調子で全然覚えてくれません」


 お姉は眼光を鋭くして、私の方をキッと見る。

 オーディエンスがいる以上姉らしいところを見せたいのか、いつもなら溜息で終わる話がまだまだ続きそうだ。


「クラスメイトの名前のどこが無駄なわけ? 屁理屈言ってないでちゃんと覚えなさい」

「嫌だよ今更」

「人の名前を覚えるのに今更もないでしょ」

「じゃあお姉は高校時代のクラスメイトの名前全員覚えているわけ?」

「そりゃもちろん覚え──」


 先ほどまでの勢いはどこへいったのか、急に怪しい声量になった。


「お姉さん頑張って!」

「そ、そうだ! 頑張ってくださいお姉さん!」


 チャンスとばかりか非モテまでエールを送り始めた。お前は仕事しろよ。する仕事もないだろうけど。


「俺非モテって言われてるんですよ!」

「なんて可哀想なあだ名つけてるわけ?」

「悔しかったら相手作ればいいだけじゃん」

「できたことないくせに人の事よく言えるよ」

「お姉だってそうじゃん」

「私はできたことあるもん。──あっ」


 姉の恋愛事情とかクソどうでもいい。


「お姉と付き合うなんてとんだ物好きがいたもんだね」


 日頃から男は男同士で付き合うべきだから彼氏作らないって言ってるくせに。


「う、うるさい! お試しで一日だけだよ! とにかく、クラスメイトの名前くらい覚えなさい!」

「どうせ忘れる名前覚えたってね。仮に同窓会があったとして、名前忘れられてるのと、名前は覚えられていないけどあだ名は覚えられているなら、圧倒的に後者の方がお互い気まずくないでしょ」

「えっ⁉︎ 空瀬ちゃん同窓会開いたら来てくれるの! じゃあ成人式の日同窓会開くから絶対来てね!」


 余計な事を口走るんじゃなかった。裏切り者は絶対覚えてる。私には分かる、空瀬ちゃんは決定として〜みたいな文言がつくんだ。


「私の方にも予定入れといたから、花恋忘れずに行くんだよ。そしたら名前の件は不問にしてあげる。それじゃあ後は友達と楽しんでね〜」


 お姉は逃げるようにそそくさと去っていった。


「最っ悪。あんたのせいだよ」

「何のことだか分かりませーん。安蘭樹ちゃん、仕事代わるね〜」


 大きく溜息をつくと、陽明が手を両手でぎゅっと握った。


「くうちゃんだいじょうぶ?」

「……ここでは陽明が一番良い子だね」

「ほんと⁉︎」

「本当」

「えへへ。じゃあご褒美!」

「……何が欲しいの?」

「抱っこ!」

「はいはい」


 抱っこされている陽明を見て、小さく良いなと零した優華に対し、鼻を鳴らしてその場を去った。


「陽明、この人に射的と輪投げでもらった紙渡して」

「うん! どーぞ!」

「ありがとう。ここから欲しいの五個取って。花恋も」

「私の分も陽明が取りな。私はいらない」

「えっとね〜」


 陽明が選んでいる間、怜はじっと私を見ている。


「私も今度花恋抱っこしていい?」


 本当に怜の思考回路は読めない。


「嫌だよ何言ってるわけ?」

「じゃあ、ぎゅってしていい?」

「だめ」

「……何で悠優の妹はいいの?」

「子どもだから」

「私も子どもだよ」

「あんたは子どもじゃなくて未成年だよ。何子どもと張り合ってるわけ?」

「羨ましいから」


 本当にどストレートにぶつけてくるよこの人は。


「とにかく無理なものは無理。陽明、決まった?」

「なやましいラインナップなもので」

「どこで覚えるのそんなセリフ?」

「はる〜後ろつっかえてるから早く決めろ。じゃないと兄ちゃんが勝手に決めるぞ」

「だめ! はるが決めるの!」


 あんたは私に妹の世話押し付けてどこ行ってたんだ。


「じゃあ早くしようね〜。あと抱っこならお姉ちゃんがするよ〜」

「やっ! くうちゃんがいい!」

「だそうです」

「お姉ちゃんとしてもゆーゆとしても凄く複雑だよ」


 結局、陽明が遊び疲れて眠るまで、私は安蘭樹家と行動を共にする羽目になった。

 弟と陽明が帰っても、どちらにしろシフトの時間まで悠優と一緒だったけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ