似たもの姉妹
私はサングラスを取り出して顔に掛ける。
「これでどう?」
「くうちゃんだ!」
妹ちゃんは屈んだ私の首に抱きついてきた。
私の本体はサングラスかい……。
「うっ……」
なぜか知らないけれど、茶色のランドセルを背負っているせいで衝撃がより強く感じる。
「し、死ぬ、死ぬから離れて。──はぁ、妹ちゃんにとって私の本体はサングラスなわけ?」
「くうちゃんはくうちゃんだよ」
私はサングラスを取って、再度妹ちゃんと顔を合わせる。
「これは?」
「くうちゃんじゃない」
「妹ちゃんの中でくうちゃんは一体何なわけ?」
「くうちゃんはね、あくのそしきなんだよ!」
おそらく妹ちゃんの中で、サングラスイコール悪い人みたいなイメージがあるのだろう。
サングラスを外した私は美少女すぎてそのイメージが結びつかないから、くうちゃんでは無くなるのか。
「妹ちゃん、キュティプリ知ってる?」
「しってる! だいすき!」
「キュティプリでさ、悪の組織だったけど、魔法少女達と戦う内に正義の心に目覚めた子達がいるよね」
「うん」
「それと一緒だよ。これを付けていた頃の私と今の私は同一人物。ただ、変化があっただけ」
妹ちゃんは納得したのか、目をキラキラさせて私を見る。
「くうちゃんなの⁉︎」
「そうだよ」
「わー! くうちゃんだー!」
再び強い衝撃を胸に感じる。
「ねえねえ、この人の何がそんなに良いの? この人よりもお嬢さんを可愛がってくれる人沢山いるよ。はっきり言ってこの人は関わっちゃいけないタイプの人だよ」
自分の妹に対して何て評価してるんだこの人は。
「そうだぞはる。くうさんは扱い間違えるとおっかねーぞ」
こいつもこいつで年上になんて事言ってるんだ。
こんな失礼な奴らに対して、妹ちゃんは指を振って分かってないねーとカッコつけた。
「ちっちっち、くうちゃんはね〜カッコいいんだよ! あくのそしきの人だったけど、今はちがうんだよ! くうちゃんはね、クールな人になったんだよ! あとね、にーにとねーねよりもつよいし、ごはんもおいしい! くうちゃんはね、さいきょうなんだよ! くうちゃんみてみて、ランドセル! はる一ねんせいになったんだよ! カッコいい⁉︎」
ランドセルを見せびらかしながら、嬉しそうにくるくると跳ね回っている。
「お兄さんよりカッコいい」
それを聞いた妹ちゃんは、弟の方を見てドヤ顔をし、誇らしそうにえっへんと声を出した。
「はるはにーによりカッコいい!」
「うん。めちゃくちゃカッコいい」
「えへへ」
列も進んだ事だし、立ち上がって前を向くと、お姉がニヤニヤとこちらを見ていた。
「何? 気色悪い」
「小さい子には優しいんだね〜」
「私の事なんだと思ってるわけ? 子どもに一々腹立てるわけないじゃん。まだまだ世の中知らない子にイラつくほど心狭くないし」
「くうさんって意外と常識的なところありますよね」
「言っとくけど、子どもとガキは違うからね。ガキには問答無用で腹立てるから、言葉には気をつけなよ、クソガキ」
「一瞬で上がった好感度下げれるのはある意味才能だと思うよ。姉としては悲しい限りだけど」
「その好感度が高すぎるあまり、下げても意味ないのが私の周りにはいるんだよ」
弟の方に目配せすると、肯定と無気力が含まれた溜息を吐かれた。
「それに関してはヤンキーが子犬を拾ったみたいな感じだからね。日頃下がっていく好感度より、たまに上がる好感度の印象が強すぎて、下がっても勝手にその事思い出して上がっていくんだよ。私だって、花恋が昔してくれた──」
「言わなくていい」
「え〜。爽晴君も聞きたくない? 花恋のデレ話」
「超気になりますけど、多分それ聞いたら俺くうさんに会う度にぶっ飛ばされます」
「よく分かってるじゃん」
「くうちゃん、デレって何?」
「大人になったら分かるよ」
「じゃあはる早く大人になる!」
「妹ちゃんは少なくとも兄と姉より賢いだろうから早く大人になれるよ」
妹ちゃんは私の袖を引っ張り、屈むよう要求する。この格好で肩車は流石に無理だということは理解してもらわねば。
「肩車は無理だよ」
「ちがーう」
「じゃあ何?」
「はるははるあだよ」
「知ってる」
「はるあ」
「…………陽明」
そう呼ぶと満足そうに笑顔を浮かべた。
「もっかい!」
「陽明」
「えへへ」
陽明は私の手を自分の頭に押し当て、期待の眼差しを向けてきた。
一体私の何がこの子の琴線に触れたのか、姉同様理解できないが、仕方なく頭を撫でて要望に答えた。