一体私をなんだと思っているのやら
お姉をストーカーだと思い込む事にして、アニメ研究会の出し物に向かった。
紅葉曰く好きなアニメについて語った本を出すとのこと。紅葉がどんな本を出すのか結局教えてくれなかった為、こうしてわざわざ読みにきた。
「あれ? 花恋来てたんだ。ちょっと恥ずかしいな」
「紅葉」
「え! 花恋の友達⁉︎」
急に至近距離にお姉の顔がきたためか、紅葉は変な呼吸音を鳴らすと膠着した。
そろそろ美顔暴力に慣れればいいのにと思う。
「あれ? おーい」
「お姉近い。離れろ」
お姉が離れない限りは何をしたって紅葉はフリーズ状態のままだ。
「あ、ごめんごめん。ほら、この子いくら顔良くても性格があれでしょ。だから、親しくしてくれる人がいてくれて嬉しくて」
十秒くらいして、ようやく意識が戻ったのか、変な呼吸音を一度大きく鳴らした後、またわたわたと動き出した。
「そ、その、す、すみませ──その、とても綺麗だったもので」
「花恋聞いた⁉︎ この子私の事とても綺麗だって! とてもだよ、とても! 紅葉ちゃんだっけ? すごくいい子だね!」
綺麗くらい死ぬほど聞いているだろうに、何をそんなに興奮しているのやら。
「いいからお姉はどっか行って。さっさと帰ってよ」
「わざわざ妹の文化祭に足を運んであげたお姉様に言う言葉じゃないでしょ」
「何がお姉様だ、様なんて大層な敬称をお姉が使うなんて失礼だよ。紅葉もこれにさっさと帰れって言って」
「え、ええ……。そ、その、家族のことは家族でお願いします……。うちはその、仕事があるから。花恋来てくれてありがとう、文化祭お姉さんと楽しんで」
手を振られてしまった以上、退散するしかない。
去り際に紅葉が解釈一致という言葉を吐いたのが聞こえたが、意味は聞きたくないから聞こえなかったことにした。
◇◆◇◆◇
お姉が私のクラスの出し物に行きたいと我儘言い出したせいで、自分のクラスの出し物の列に並ぶ羽目になった。
「人気だね〜」
「一人で並べばいいのに」
「姉にそんだけ買わせといてよく言えるね」
つぶつぶアイスにわたあめだった割り箸、ラムネに学食が出している焼きそば。
大して買ってないじゃないか。
「たかだか千円ちょっとでしょ」
「なんて可愛げのない妹なのか」
お姉がため息を吐いている横で、私はアイスを口にする。
「あれ? もしかしてくうさん?」
後ろに並んでいた男子が疑問系で話しかけてきた。
私をそんな変な呼び方するのは一人しかいないから、振り向かずとも誰だか分かる。
「だったら何?」
「あ、人違いでした」
「何が人違いだ馬鹿」
弟は私をじっと見た後、一度妹ちゃんの方を見て、もう一度私を見た。
そして、表情を崩さずに一言。
「人は見かけに寄らずっていうの初めて目の当たりにした気がする」
「おいこらどういう意味だ、殴るからはっきりと言いたまえ」
そう口にすると、奴ではなく私の頭に衝撃が走った。
「人様になんて事言ってるの。すみません、うちの妹捻くれてて。……あ、確か安蘭樹ちゃんの」
「弟の爽晴です。お久しぶりです」
「お久しぶりです。改めてうちの妹がすみません」
「大丈夫です。慣れているので」
「花恋さーん、一体どういうことかな?」
「うるさ。勝手に構ってくるのが悪いんでしょ」
「あの、失礼ですが本当に血繋がってますか? もしかして妹さんは悪魔の化身だったりしません?」
「その可能性は十分にあり得る」
今度は私がお姉の頭を叩く。
「痛ったー!」
「変な事言うのが悪い」
「こわっ。はるはくうさんみたいになっちゃダメだからな」
「くうちゃん! くうちゃんどこ⁉︎」
つまらなさそうにそっぽ向いていた妹ちゃんは、私の存在を仄めかすやいなやきょろきょろと辺りを見回した後、弟の方を見て首を傾げた。
「くうちゃんいないよ?」
「この人がくうさんだよ」
妹ちゃんは私をじっと見た後、眉を顰めた。
「くうちゃんじゃないよ。この人あくのそしきじゃないもん! くうちゃんはあくのそしきの人だよ」
悪の組織…………ああ。