結果は三位
良い案が思いつかず、気づけば一月経っていた。去年は運良く中止となった体育祭だが、今年も中止に……とはならず、悲しい事に開催されてしまった。
私が出るのは全員参加の競技のみ。
他の競技も出ろと言われたが、頑なに拒否し続けたおかげでどうにか回避できた。
「くうちん、次借りもの競争だって〜」
「だから何?」
「てんちん出るからちゃんと見てあげようね〜」
借りもの競争とか、これまた面倒な種目に出たものだ。
ま、優華なら容易だろうけど。
「あ、始まるよ〜」
発砲音と共に一斉に走り出した。
皆各々紙をめくり、心当たりのない人は声をあげて持っている人や当てはまる人を探し、心当たりのある人は一目散に駆けている。優華はというと──
「花恋ちゃん、一緒に来て」
後者のようで、一目散に私の元にきた。
お題の紙を胸に当て、もう片方の手は私に差し出している。
「お題は?」
「花恋ちゃんにしか頼めないお題」
優華は珍しく笑顔ではなく、真剣な顔をして答えた。
性格の悪い人とかその辺りだろうか。私なら当たり障りないだろうし優華が私にしか頼めないというのも癪だが理解はできる。
「分かったよ」
優華の手には触れず、紐を跨いで優華の隣に立つ。
優華はすぐにゴールに目を向けると、私の手を取って走り出した。
「絵になるお二人が手を繋いで仲良くゴールしました! それではお題の確認といきましょう! ……おーっと! これはなんと大当たりです! 我が校の天使が大当たり、『好きな人』を引きました! せっかくですので、どこが好きなのか聞いてみましょう!」
担当の実行委員が女子生徒だったからか、妙にテンションが高い。
もし担当が男子生徒であれば、相手が私とはいえ、多少なりともダメージを受けて感想どころではなかっただろう。
「あ、えっと、その──」
優華もまさか好きなところを聞かれるなんて思わなかったのか、少し戸惑っている。
「笑顔が素敵なところです」
「なるほど、確かに素敵な笑顔を見せてくれそうな端正な顔立ちですね。良ければ観客に笑顔を見せて下さい!」
向けられたマイクに近づき一言。
「お断り」
◇◆◇◆◇
連れて来られた人は、競技が終わるまで一緒に順位のところにいないといけないらしく、仕方なく優華と並んで立っている。
「そろそろ手離してほしいんだけど」
「うん」
「うんじゃなくて離して」
「もう少ししたら離す」
優華はこちらを見ずにずっと下を向いている。
走った事で赤くなったのかと思ったけれど、しばらく経っても元に戻らないどころかさらに赤みを増しているところから、原因は私っぽい。
私はそんな優華の耳に軽く触れる。
「ひゃっ!」
優華は耳を抑えながら、チラッと横目で私を見る。
「もう、やめてよ」
優華はまたすぐ顔を下に向け、その真っ赤な顔を隠している。
「大好きだね、私の事」
優華にごちゃごちゃ言われるのが嫌で、誤魔化しで発した特に意図のない言葉だったけれど、優華にとっては違かったらしい。
「そうだよ。意地悪で自分本位で私の事を雑に扱う。でも、お願いしたら断りきれなくて、嫌だと言いつつ付き合ってくれて、そっと側にいてくれる、そんな笑顔が素敵な花恋ちゃんの事が好きで好きでしょうがないんだよ。普段は一線引くようにしているけど、些細なものでもこうして向き合うきっかけがあると気持ちが溢れ出しちゃうの。だから、今だけはあまりからかわないで。気持ちを抑えられる自信がない」
優華はさらに強く手を握りしめ、もう片方の手は垂れた前髪を適当にいじっている。
そんな優華を見て、これ以上何を言う気もない為、意味なく空を見上げる。
「暑い」
もう秋だというのに、照りつける太陽は私の体温を高めていく。
じっとしていても出てくる汗、繋がれた左手は二人分の汗が合わさり、ふやけてしまうかと思った。