私は知らない
自分の席に戻り、今後どうするか少し考えることにする。
「恋人か……」
思わず頭が痛くなる。恋人? この私が? フリだとしても私の初恋人枠奪われるのは癪に触る。
どうすればいいのか、頭を抱えずにはいられない。
「どうしたの花恋ちゃん?」
「どうしたのじゃないよ。手紙捨ててる噂広まって一安心かと思いきや今度は告白ラッシュだよ。毎日毎日、全く勘弁してよ」
「くうちん顔は良いからね〜。毎日大変だね〜」
「あんたは顔すら知らない段階で好きになったあげく勝手にキスしたくせに」
悠優はちょうどお茶を飲んだタイミングだったせいか思いっきり咽せていた。
「悠優ちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫〜。くうちん! 他の人に聞こえたらどうするの⁉︎」
「もういっその事バレてしまえ。バレて私の告白ラッシュを終わらせてよ。……そうだよ、別に私が隠しておく必要ないじゃん」
パッと顔を上げると、そこには怖い笑顔を浮かべた悠優がいた。
「くうちん、ゆーゆに本気で怒られたい?」
今度は頭を抱えるのではなく机に伏して腕で顔周りを囲って自分の世界に閉じこもる。
決して悠優が怖かったわけじゃない。面倒事は避けたいだけ。嘘じゃないから。
しばらく暗闇の中で過ごしていると、手が冷たい感触に覆われた。
「冷たい。なんで怜は毎回毎回私に触れてくるの。ちょっとは自重しなよ」
「洗っているから綺麗だよ」
手をぱっと広げてまだ若干湿っている手を見せびらかしてきた。
「そういう意味じゃない。わざわざ私に触るなって言ってるの」
「どうして?」
「それ言うならなんで怜は私に触るのって話になる」
「花恋に触れるとドキドキするのに安心するから」
思わず開いた口が塞がらなかった。
私はどう反応すればいいのか、ただでさえ告白ラッシュで悩んでいるというのに。
「怜ちゃん、それ、告白……」
「……?」
自覚がないから余計にタチが悪い。
「くうちん、モテモテだね……どうする?」
二人も中々に悩んでいるのだろう。自覚させてあげるべきなのか否かを。
普通の人間ならこの発言をきっかけに自覚させる事は安易な事だろうが、相手が怜となると難易度がグッと跳ね上がる。
別に私はどちらでもいいのではあるのだけれど、怜は妙にズレているところがあるし、無駄に行動力があったりするから、ちゃんと教えないと後々私に何かしらの不利益を起こす可能性もないとはいえない。
未だに怜の事才色兼備だと思っている人は多いし。
ただのコミュ障のポンコツだというのに。
そもそも、怜の声が静かなのに対し教室は騒がしいから今回は周りに聞こえていないのであって、そうでない時に怜がぽろっと今みたいな事を発言したら勘違いしている人たちによって面倒な事を引き起こされるのが分かりきっている。
未だに怜単推しには割と敵視されているし。あそこほんとやばい。優華と悠優すらずっと敵視していたし。そんなに怜を孤高の存在にしたいのかと思うよ。
優華と悠優の場合はもしポロッと零しても自分達でどうにか抑えられる事はできるし、二人のファンも怜ファンよりは常識持っているからそこまで面倒な事にはならない。
怜は馬鹿正直なのもあって燃料投下にしかならないし、絶対自分のファンを黙らせたりしないから苦労するのはこっちになる。
…………いいや、何かあったら二人に任せよう。そうしよう。
そもそも告白って決まったわけじゃないし大丈夫でしょう。
それよりも告白ラッシュをどうにかしないと。
記念すべき百話ですね。初期の頃と比べて読んでくれる人がかなり増えて作者としては嬉しい限りです。
たまに初期の話を読み返したりするのですが、花恋の性格が初期より悪くなっている気がします。どうしてモテているんですかね、分からなくなりました。
花恋も恋に落ちたら性格がマシになるんですかね、その時にならないと分かりませんが。
今後とも花恋の変化と恋愛状況を見守っていただければと思います。