表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/201

ドラスト

情報収集を終えカフェを後にする。

それしても人が少ないな。まさか警戒されてるとか?


「ああ君。いいところを紹介しよう」

いつの間にか怪しげな勧誘のおじさんが現れた。

「天国に一番近いと言われる場所があるんだ」

勧誘は俺を騙せると思って必死に食らいつく。

いくら俺が田舎者だからってそれはないよ。


「君。話だけでも聞いてくれないか? 」

しつこい。どこにそんな都合のいい場所があると言うのだろう。

おかしくて涙が出る。


「とにかく話を聞いてくれ! そこには伝説の鳥もいるしカメウサギもいる。

それから竜もいるぞ。捕まえて龍田揚げにして喰うのがいい。

もちろん今のは冗談だから。伝説の竜は貴重で捕まえるのは禁止されている。

それに人間の手では捕まえられないさ。

何でも竜探しに出た若者が帰ってこなかったって話だよ」


畳みかける勧誘のおじさん。もう無理なんだからそれ以上は止めた方がいい。

だがお構いなしに続ける。

ふざけやがってもう我慢の限界。

怒りで反応してしまう。だが体が動くことはなかった。

「では興味あったらわが社にお越しください」

そう言うと名刺を渡してどこかに行ってしまった。

とんだ迷惑おじさんだ。


「大丈夫だった? もうトロいんだから」

いつの間にかどこかに消えていたエクセル。

俺が勧誘の魔の手に引っかかるのを遠くから窺っていた。そんな気さえする。


「どうして助けてくれないんだよ? 」

「ごめんなさい。でも基本的に町にいる方は悪い人間じゃない。

妖精である私は彼らを排除できない。だから逃げるしかない。

これもこの世界を保つため。理解してくれたかしら? 」

いい加減なことを抜かす。


「俺が田舎者だからって強引に勧誘して来たぞ。しつこかったんだからな。

それからなぜか体が動かなかった」

暴力沙汰を起こさずに済んだがなぜ体が凍り付いたかのように硬いのか?

それだけでも解決しなければ今後が思いやられる。


「ああようやく気づいたみたいね。そうこの世界は平和なの。

暴力はおろか言葉の暴力さえ厳しく取り締まる。

それはこの世界だけでなく全世界共通。もちろん町を離れればその縛りもない。

言葉の暴力は解禁。ただそれもモンスターのみ。人間には向かない。

こうやって世界は平和に保たれてる」

二言目には平和、平和。どこが平和なのだろう?


もう少しで勧誘の魔の手に。

「でもさあ…… 」

「文句ばっかり言ってないで次に行くわよ! 」


優しくない妖精さんがドラッグストアへ案内。

通称ドラスタ。そこの最大手キヨシ。

「薬を買っておくといい。モンスターには厄介なのが多いから」

言われるまま毒消しと栄養剤とエナジードリンクにマスクを購入。

いつ何に使うのか教えてくれない。まあいいか。


「ポイントカード作りますか? 」

全世界でチェーン展開してるのでお得だそうだ。

面倒くさいので俺はいいと言うのにエクセルが勝手に。

まあいいか。


「ほら聞きたいことがあるんでしょう? 」

エクセルはやはり俺に聞くように迫る。

初めてのお使いじゃないんだけどな。

「はいどのようなことでしょうか? クレカ作ります? 」

商売上手の店員さん。ここには綺麗な店員しか存在しないから落ち着かない。

もう少し幅あってもいいはずなのに。さっきから可愛い娘か綺麗な娘しかいない。

俺には目の毒なんだけどな。

言の葉村にいるようなおばちゃんとか居ないのかよ。

そのせいでつい軽くなってしまう。


「一緒に旅をしないかい? 」

これが限界だ。どうしても余計なことを聞いてしまう。昔からの癖。

分かってるはずなのに俺にやらせるから結果……

ビンタを一発喰らう羽目になる。


あれ暴力のない平和な世界はどうしたのだろう?

「ああ店の人を怒らせたらダメでしょう。あなたはお客様じゃないの。ただの客。

あなたに売ってあげてるんですよ。そこを間違えないでね」

変な理屈で上手く丸め込まれた気がする。


「あの…… ウサギ置いてませんか? 」

「はいウサギ用のエサでしたら油揚げの横にあるかと」

ちなみに油揚げはキツネのエサだそうだ。

ただそう言うと怒る人がいるのでお食事と表記されているらしい。

「違います。ウサギを求めてるんです」

「ご注文はウサギですか? 」

「ああ! さっきからそう言ってるだろ姉ちゃん! 」

つい近所の酔っぱらいのような暴言を吐いてしまった。

酔うとこれだか……


「ひいい…… ご注文はウサギですか…… 」

駄目だこれは。情報は得られなかった。

ただ彼女が言いたかっただけな気がする。

いや違う。俺が言わせたかっただけな気がする。


                続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ