眠れない夜に
チーム・パイソンズは仲良く一緒にお寝んね。
横になって三十分。
無神経で旅疲れのハックが脱落。
イビキを掻き掛け布団を剥ぐ。
さすがにこれでは風邪を引いてしまう。掛け直すもすぐに剥いでしまう。
本当に小さな子供のようなハック。だがちっとも可愛くない。
ハックに構っていると不思議と眠気が取れて行く。
まあ大丈夫だろ。俺だってハックほどではないが疲れてる。すぐに夢の世界さ。
それから三十分。寝れない。
どうしてしまったんだろう? 眠いはずなのに眠れない。
目を瞑っても眠れない。だからって目を開けばいいと言うものでもない。
これは明日にまで響く由々しき事態。
冒険者である以上どこでもすぐ眠れなくていけない。ハックのように。
でも俺はそこまで無神経じゃじゃないしな。
ハックのイビキはどんどんひどくなっていく。
これでは眠れるものも眠れない。
おかしいな。故郷では気にならなかったのになぜ?
やはり一緒に風呂と眠るのがダメだったようで興奮と緊張で眠れやしない。
アプリン…… ダメだ二人とも寝息を立ててる。
まったく冗談じゃない。俺一人寝遅れた。
うう…… こんな時に限ってトイレに行きたくなる。もう限界だ。
「ハック! ハックってば! 」
踏んづけて起こすしかないかな。
妖精さんお願いです。一緒にトイレに。
強く念じるが決して気づくことはない。
当然か。もういいよ。一人でトイレ行くもん。
ふう…… 気持ちいい。さあ戻ろう。
あれ開かない? どうしたんだ? どれだけ強く押しても開かない。
勘違いかな? 試しに後ろに引いてみるがやはり開きはしない。
横に無理矢理引いてみるがもちろん動きはしない。
もう何が何やら意味不明。
ドンドン
ドンドン
尋常ではないノック音が。これは開けたら殺されるぞ。
「大丈夫ですかお客さん? そのドア壊れていて開かなくなる場合があるんです」
「早く言ってよ! 」
「書いてありますよ」
危うく閉じ込められそうになるが気を利かせた仲居さんによって救出される。
どうにか脱出成功。
これだから夜のトイレは嫌なんだ。もういいや。済んだことだしな。
さあ寝るとしますか。
あれやはり興奮状態で眠れない。
お風呂と同部屋の興奮は治まってもトイレに閉じ込められた恐怖はそのまま。
どうしよう? 怖くて寝れない。
これはもうあの方法に頼るしかなさそうだな。
よし羊を数えよう。
羊が二百…… 五百……
第一世界で盗掘隊のおじさんがこんな風に眠れず朝まで数えていたな。
俺も同じ運命を辿るのか? それだけは絶対に嫌だ。
だが気にすればするほど深みに嵌っていく。
ああ俺はどうしたらいいのだろう?
真っ暗闇に俺一人取り残されてる。そんな感じがする。
「大丈夫ゲン? 」
妖精は異変に気づいたらしい。大先輩の千年美魔女妖精エクセル。
素顔だけは決して見てはいけないそんな気がする。
食われるとかそんなレベル。
「あなた失礼なこと思ってない? 」
「いやそんなことはないよお姉ちゃん」
つい年上のしっかり者の妖精に親しみを込めつい。本来はお婆ちゃんだけどね。
ただの言い間違いに近いがまあいいじゃないか。
なぜか一言も発しない妖精さん。恥ずかしい? 訳ないよね。
「もうバカなんだから! 」
返ってきた反応がこれだから苦労が絶えない。
俺って基本的に舐められてる?
「もう笑わせないでよ。そうださっきのお風呂の秘密を教えてあげる」
無理矢理話を変えようと必死な妖精さん。可愛いと少しだけ思う。
「秘密? 何の話? 」
「あなた混浴だって大興奮したでしょう? 」
「いや…… 違うと言えば嘘になるけどさ…… 違う」
「残念なことに真っ暗で何も見えなかった? 」
「ああ本当に苦労したんだぜ。満足に体さえ洗えないんだからな」
この辺では闇風呂などと呼ばれて人気があるようだが俺には非常に迷惑な話。
きれい好きなんだから俺は。体の隅々まで洗いたいタイプさ。
いくら故郷が山奥の田舎だとしてもその辺のこだわりはある。
「ふふふ…… 私たち女性用の脱衣所にはねメガネがあったの。
それを掛ければよく見える訳」
勝ち誇ったようにエクセルが振り返る。
「ちょっと待ってよ! だったら何で男の方には? 」
「それはトラブルになるからでしょうね」
「だったら二人は俺たちのすべてを見たのか? 」
「そんな言い方…… 悪いけどそういうことね。まあこれは秘密なんだけどね」
エクセルは眠れない俺の為に面白い話を聞かせてくれた。
でもこれでは逆に興奮して眠れない。それくらい分かって欲しいな。
「二人だけずるいよ! 俺たちだって見たかったのに! 」
「いやそれは不可能。メガネは女性専用。男性の扱いは雑だと思っていい。
だからこそしっかり手を取ってあげたでしょう? 」
最初はな。でも上がる時はアプリンのお世話に。嬉しいんだか悲しんだか。
罪悪感からか言い訳気味の妖精さんに怒りが爆発する。
「もういいよ! エクセルの馬鹿! 」
布団を被るが寝れるはずもなく皆の寝息を聞く羽目に。
結局四時過ぎに眠ったらしい。
続く




