パパ
せっかくエクセルを制止したのにアプリンがけしかけたせいでハックが動く。
仕方ない。助けるとしよう。
最悪言葉の暴力を使ってでも。警告の累積も指導ももう怖くない。
「痛い! 何をしやがる! 」
ペドらしき男の右手に噛みつくハック。優秀な番犬だ。
パンパン
パンパン
手を叩いて制止させる。
だが聞く耳を持たないハックはなおも噛み続ける。
どうしちまったんだよハック?
「止めろハック! 止めろって! 」
仕方なく大声を出す。さすがの番犬ハックも反応する。
ハアハア
ハアハア
男は息を切らし抵抗するがハックの歯が喰い込んでいてなかなか取れない。
「だからもういいってハック! 」
うわああ!
異常事態に耐えきれずについに女の子が泣き出してしまう。驚いて? 恐怖から?
「パパに何をするの! 」
一番弱そうな者に喰ってかかる。
俺? 止めただけなんだけどな……
「パパって? 」
「パパ! パパ! 」
女の子の衝撃的な一言に言葉がない。
「パパってまさかあなた…… 」
エクセルは愕然とする。
「もしかしてあなたのパパなの? 」
女の子はなぜか答えない。これは裏に何かある?
「まさかパパって? あっちのパパ? 」
エクセルは歴史にも詳しい。
昔流行したスタイルがあったことを思い出したらしい。
その頃はもちろんモンスターに支配されておらず自由な社会だった。
そして今では信じられないような営みが。
「ああこんな小さな子が信じられない! 」
アプリンが涙を流しエクセルは叫ぶ。
「何だよお前たちはさっきから。俺の娘に手を出すんじゃねえ! 」
保護者ぶるがそれはあんただろとは口が裂けても言えない。
「ちょっと待って。確認です。お二人は親子? 正真正銘の親子? 」
エクセルが冷静に問いかける。さすがはエクセル。頼りになる。
アプリンはまだ涙を流してるしハックは制御不能。
俺は口下手だから…… って関係ないか。
「当たり前だろうが他に何がある? 」
さも当然と胸を張るが男の目撃談は相当なものだった。
そのすべてに危険な匂いがしていた。だからこその追跡。
「失礼しました。あなたが噂の小さい子大好きのペドさん? 」
思いっ切り失礼なエクセルの質問。
これでは教えてなどくれない。
これまでの努力も苦労も水の泡。
「好きって言うと語弊があるがまあ嫌いじゃないかな。ははは…… 」
証言を取る。
これでモンスターに告げ口をすれば明日には男は消えることになる。
そんな監視された恐ろしい世界。あまりにも現実離れした世界だ。
どうやらただの勘違い。または早とちりだったらしい。
これはもう誠心誠意謝るしかない。
「まったく人騒がせな連中だぜ」
「それはあんたでしょうが…… 」
「ああ? 何か言ったか? まあいいや。それで俺に何か用か? 」
口が滑ったが許してくれた。噂とはまったく違うも未だ不審人物のペド。
もしかするとこのペドさんに関してのみ良い人だったのかもしれない。
もちろん他のペドさんが居たとしてそいつらまで良いとは限らないが。
「あの…… 流浪の民についてご存じありませんか? 」
エクセルはドライだ。
「ああ知ってるよ。確か近くに洞窟があるだろ?
そこを抜けてすぐのところに家がある。そこに数人がお世話になってるって話だ。
ただの噂話に過ぎないがな。興味があるなら行ってみるといい」
ペド親子は山まで歩くそうだ。
少々不安だが女の子が認めたなら間違いないだろう。
かなり危険な人物だったけど見た目に反して優しいのかもしれない。
手を振り最後の挨拶。その時俯きがちなペドに怪しげな笑みが見えた気がした。
ペド親子と別れて教えてもらった洞窟へ。
洞窟見学。
ライトを片手に中を見て回る。
まず中へ入ったらライトをつける。
だがコウモリが苦手ならライトは放り投げるように。
洞窟における冒険者の心得と言うパンフレットが洞窟近くの茶屋に置かれていた。
ありがたく一枚。それによると第一関門はコウモリだそう。
光に敏感なコウモリが光を目がけて集団で襲ってくる。
ただその内どこかに行ってしまうので我慢する。
そもそも気にならないなら進んでもよいと。
パンフレットには地図も。
「やはりこれではダメみたい」
大雑把すぎる地図。
外に繋がる経路が消えてしまっている。
これではどうすることも出来ずにお手上げ。
「どうする? 」
「出直しましょう。恐らく地図もこの洞窟に詳しい人も見つかるはず。
焦らずにゆっくりよ。それがベスト」
「いや俺はこのまま突き進んだ方がいいと思うが」
「私に従えないの? 」
「そうじゃないけどよ…… 」
エクセルとハックが言い争いを始めいつの間にか険悪なムードに。
続く




