ハック暴走
風呂を終え仮眠も取って回復。
後は宿自慢の料理を頂くとしますか。
「おいハック起きろよ! 」
気持ちよさそうにイビキを掻いてるところを無理矢理起こす。
ちょっと可哀想だったかな。でも豪勢な食事が待ってるんだし早く起こさないと。
「あれ皆…… 俺どうしたんだ? 」
面目ねえといつになく真剣なハック。
「ハックは見たんだろ? 」
「俺たちを助けたのは誰か? いや俺も見てないや。意識が朦朧としてたしな。
ただ俺らを運んだんだから屈強な男に違いないさ」
「馬鹿ね。私が頼んでここの主人に運んでもらったの」
エクセルによりハックの推理は打ち砕かれる。
「ははは…… それなら早く言ってくれよな」
瀕死の俺たちを救った命の恩人の正体は分からないまま。
「皆さんお食事の用意が出来ましたよ」
主人が姿を見せる。
「はーい」
「まあいいか。細かいことはさ。それより飯だ飯だ! 」
いい加減なハック。
そう言えば俺も腹が減ったな。さあ喰うぞ!
お食事処には先にアプリンが。
「うおおお! 湯上りのアプリンとはこれは格別だぜ。ははは! 」
酔っぱらい親父のような下品な発言のハック。
俺は恥ずかしくてついて行けない。
「ちょっとそんなにジロジロ見ないで! 」
「いいじゃねえか減るもんじゃねえしよ」
もうダメだ。興奮したハックは我を失う。
ついには襲い掛かろうとするがアプリンの反撃に遭う。
ピンタではなくパンチ。
「へへへ…… やるな」
痛かったくせに負け惜しみを言う。
お風呂でひどい目に遭ったばかりなのに本当に懲りない奴だ。
反省中のハックを見ないようにしながらお食事を楽しむ。
「俺食っていい? 」
「良い訳ないでしょう! 大人しく反省してなさい! 」
エクセルは怒り心頭。アプリンもどうにか落ち着いたようだがまだ許せずにいる。
ハックは堪らず涎を垂らす。比喩ではなく本当に周りが迷惑になるほど。
うわ…… 涎を垂らすところは可哀想で見てられない。もう限界だろう。
お預けを喰らう情けないハック。
「ははは! お前何やってるんだ? 」
「正座してるぜ。何をやらかしたんだ兄ちゃん? 」
「このお兄ちゃん何で涎垂らしてるのママ? 」
「駄目! 見ちゃいけません! 馬鹿がうつります」
一人正座させられ涎を垂らすハックは注目の的。
面白がって何度も近づく者に心底嫌がる女性客など。
宿には老若男女問わずに多くの客がいる。
その中に俺たちを助けてくれた者がいるはずなんだが……
誰も名乗り出てはくれない。恥ずかしがり屋なのかな。
お肉が運ばれて限界を迎えたハックを許す。
これで奴も少しは反省しただろう。
「美味い! これは本当に美味いな! 」
ハックはそう言いながら大量の肉を平らげる。
遠慮も反省もする気がないらしい。
結局ハックが一番食べたかな?
アプリンは少食でエクセルはあの大きさにしては大食いだがそれでも少量。
俺も人の目が気になり集中出来なかった。
ハックが相変わらず恥ずかしい行動を取るから。
「そこに寝ないのハック! 」
もうただの保護者だよ。
「へへへ…… いいだろ? 気持ちいいんだから」
駄々をこねるハックに教育ママのエクセル。
「ゲン…… 」
アプリンが袖を引っ張る。
「どうしたの? 」
「ねえ庭に行って見ない」
妙に色っぽくあまりに大胆なアプリン。これは願ってもないチャンス。
エクセルがハックの世話に手を焼いてる隙をついて俺たちは外へ。
庭ぐらいなら危険はないだろう。
積極的なアプリン。これは何らかのご褒美がありそうだ。
いや…… 俺にはアンがいる。でも話ぐらい聞くのは仲間として当然だよな。
「ほらこっちに急いで! 」
そう言うといきなり手を掴む。
いや…… 本当に大胆なお方で。
「どうしたんだよアプリン? 」
「ほら見て大きな月」
どうやらアプリンは月が珍しいようだ。ははは…… そんなはずはないか。
「流れ星! 」
月明りと満天の星空。何と幻想的なんだろう。
そこに突如流れ星が降って来る。
「ゲン! 願いごとを! 」
嬉しさよりも義務的な感じで急かす。
「ああ…… もう行っちゃったじゃない! 」
真剣なアプリン。へへへ…… 可愛いな。
「そう言えばアプリンの趣味って何なの? 」
天文学が専門? それともただの旅行好き?
「旅行が趣味かな。でも家ではゲームを」
「ははは! 極端だな」
アウトドアとインドア。
楽しいのが好きなのは分かるが。
俺だって昔は似たようなものだった。あの三年前のモンスター襲来までは。
よく近くの村々をアンと回って遊んだっけ。
続く




