ブルーラビット
シャボン玉に包まれて幻想世界に旅立ち、今戻って来た。
「分かったよ。ならこのシャボン玉は一体何なんだよ? 」
「まあ一種の幻覚装置ね。あなたの心の弱いところを突いてくる厄介なものよ。
やる気がなくなると大変だから急いでシャボン玉から逃げるの」
エクセルの的確な判断によって浴びる量は僅か。
徐々に元気な心を取り戻した。
「では教えてね。あなたは今シャボン玉で何を見たの? 」
「知るかよそんなこと! 」
頬が紅潮するのが分かる。大したことじゃないし第一恥ずかしい。
こんな妄想をいくら妖精でも語るのは恥ずかしいし勇気がいること。
でも…… 幻覚などに俺は負けない。克服するんだ。
「大丈夫。これは予知夢でもあるんだから。しっかり向き合いなさい」
まるでしっかり者の姉のようで頭が上がらない。
そう言えば口調も俺を馬鹿にしてるようだし。
エクセル姉さん……
今すぐ甘えたい欲求に駆られるがあの大きさでは無理か。
「信じていいのか? 」
「いいから早く教えて! 」
有無を言わせない迫力がある。
ああ妖精さんのイメージが悪化する。
「妖精さん。実は俺見たんだ! 」
「はいはい。何を見たって言うの? 教えて」
「碧い…… いや白っぽいウサギを」
「白い? 碧い? どっちなの? 」
どうでもいい細かいことを聞いて来やがる。
「最初は青に感じたんだ。でもその内白くなって…… 」
色の変化が何か関係あるのだろうか? 些細なこと。違いなどあるのか?
「それは恐らく色がまだ定まる前に認識してしまったみたい。
青かもしれないし白かもしれない。でもそれ以外だって考えられる」
エクセルは難しい話をして混乱させる。
まだ味方と決まった訳ではない。
全幅の信頼を置くのは早い。
いつ裏切られてもいいように妖精としてまたはただの無感情のものとして扱う。
案内役は案内役でしかない。
まだ二人には絆がない。
そう言ったのはもうちょっと時間を掛けるのがいいだろう。
「とにかく寂しそうで死にそうなウサギだったのは覚えてる。いやもう忘れたな」
実際ウサギだったかさえあやふやだった。下手な絵だった気がする。
「よく思い出して! 」
「子供が描いたみたいなウサギだな」
「ふふふ…… ごめんなさい。人によって変わるものよ。
絵の上手い人はそれこそ写真のように影だって完璧。
どこに出しても恥ずかしくない仕上がり具合。
下手な人はそれなりに仕上がりになってるはず。
あなたの捉え方次第。そんなに落ち込まなくてもいいわ」
慰めてくれるがそれは俺の絵が下手くそだと言ってるようなもの。
はっきり言ってくれないかな。俺そしたら画家は諦めるのに。
「駄目かな? 」
「まだ成長途中。じっくり百年も掛ければそこそこの絵も描けるようになる。
浮かんだイメージだってはっきりする」
「百年? 冗談だろ? 笑えないよ」
文句を言う。だがはいはいと流される。
妖精にとって百年は短いらしい。ついさっきの出来事だと捉えてるらしい。
「私はあなたに比べれば長生きな方。それは私の体が小さいから。
それでいてしっかり食料もあるしね。怖いのは妖精病ぐらい。
私たち種族としては千年妖精に分類される。こんな難しい話分からないでしょう。
とにかくあなたたちの十倍は生きると考えてくれればいい。
大先輩だと思って構わない。ただ人間ではないからそこは間違えないでね」
自分のことをペラペラと。
「なあ仲間はいるのか? お前だけじゃないんだろ? 」
鋭い質問に困惑気味の大先輩のエクセル。
「そうね。もちろん妖精にも故郷がある。私たちの故郷はずっと遠くの山。
人間の足では決して辿り着けない場所。興味あるなら連れて行ってもいい。
あなたには任務がある。それに何年も前に妖精病が蔓延し何人が生き残ってるか。
案内役の子たちはいるから絶滅の心配はない……
おっと余計なお喋りはこれくらいにしてイメージを探るわよ」
自分から勝手に語りだしたんだけどな。
「待ってくれ。俺も君に伝えたいことがある。俺には弟がいる。
可愛くはなく至って普通だ。俺が失敗すれば今度は弟の番だろう。
アンの為にも弟の為にもこの任務必ず成功させたい。
だから全面協力を頼む。今はそれくらいしか…… 」
こうして二人はお互いの秘密を共有する関係となった。
続く