消えたハック
囚われのハックは何と流浪の民だった。
帰りたいと言うハックに同行し流浪の民の住処へ向かうことに。
これでハニードロップもバニードロップも不要。男と取引する必要もなくなった。
翌朝。事態は急展開を迎える。
「あれハックは? 」
昨夜仲間になったハックの姿がどこにも見当たらない。
まさか逃げたのか? でもなぜ? 仲間のところに連れて行く約束だったのに。
「お風呂じゃない? 」
妖精さんも今起きたところで今朝は姿を見てないと話す。
「いないよ。何か嫌な予感がするんだよね俺」
「気のせいでしょう。その辺にいるわよ」
自信満々のエクセル。彼女の予想ではすぐに見つかると舐めてかかる。
俺だってそう思いたいけど奴の素性は知れないし信用も出来ない。
トラブル発生。
「あれ? 俺のワードフォルダーがなくなってる」
バックの中にしまったワードフォルダーがどこにも。その中には暴言カードが。
あれ? ノーマル暴言カードはバックの中に散らばってる。
なぜかレアカードだけがなくなっている状況。
くそ! レアカードだけ抜き残りを捨てやがった。
まさかあの野郎が盗んでいきやがったか?
まったく本当に油断ならない奴だな。
恩を仇で返すとは良い度胸してる。
裏切ったのか? まさか奴は最初から俺たちを裏切るつもりで?
そうだとすれば悪意を持ってわざと近づいたことになる。
縛られていたのも演技? すっかり騙された。
もしこれで悪気がなかったら狂ってることになる。
「ハック! ハック! ハック! 」
「大丈夫。落ち着いて。あれ…… ちょっとどこよ! 」
エンゼルカードがどこにも見当たらないと主張する。
お支払い可能なエンゼルカードがなければ何も買えない。
いきなり大貧民へと転落する。
「やっぱり逃げたんだろう。早く探さなくちゃ。まだ遠くに行ってないさ」
「あのガキ! ふざけやがって! 」
冷静さを失った妖精さんは似つかわしくない暴言を吐き窓から出てってしまった。
主人公の俺を残して探しに出てしまう。
俺も追いかけるべきだろうが生憎暴言カードがない。
もしこんな時にモンスターに遭遇すれば打つ手なし。
お亡くなりになってしまう。
モンスターもそこまでバカじゃないから瀕死で許してくれる場合も。
とは言え最悪を想定するのが立派な冒険者だろう。
だからここは自重する。部屋で待機だ。
待てよ…… 血の気が引く。
まだ宿代を払ってない。しかもチップだってまだだ。
昨日調子に乗って多めにチップをあげる約束していたんだっけ。
もちろんエンゼルカードから払うつもりだったけど。
ああ、あんなこと言わなければ良かった。
これはもうガムでいいかな…… 俺も宿で一人切り。
きっと分かってくれるよね。
いや待てよ。夢だったかな。うーんどっちだろう?
もう一度寝てみるか?
もし俺まで探しに向かったら食い逃げではなく眠り逃げだ。
寝てる間に無意識で逃げてしまえばギリギリ許される。
ただ寝たふりで薄目を開けて逃走を図れば罪に問われる。
重大犯罪だ。もし捕まればアンを探すどころではない。
くそ! ここから一歩も出れない。
しかも清算も出来ない。手詰まりだ。
ふう…… どうしよう? ここはゆっくり……
現実逃避するしかない。
おやすみなさい。
再び横になる。ただ横になる分には文句ないだろ。
後はチップを要求された場合だがこれはもう寝たふりしかない。
ノックされても無視するしかない。
さあ寝るぞ!
昨夜はハックに占領されていて使えなかったが今は違う。
くそ! 汗臭くてしょうがないな。昨日しっかり洗わなかったな?
あのハッカーめ。助けた恩を忘れて盗みを働くとは最低だぜ。
人間の屑だ。
人の優しさに付け込んで仕掛けてきやがる。
エクセルは疑いもしなかったが結局真っ黒だったじゃないか。
ホワイトハッカーならまだ許せるがブラックハッカーなら躊躇しない。
刑務所にぶち込んでやる。
あああ…… これじゃちっとも寝れない。
現実逃避もままならない。
エクセルはもう捕まえてくれたかな?
ただ帰りを待つ勇者であった。
言の葉村の勇者・言右衛門。
結局三度寝して目を覚ます。
現在時刻は十一時半。もう間もなく昼飯だ。
取引の時刻が迫っている。今のところ何一つ出来てない。
ハニードロップは神父だか牧師だかに奪われたし。
もう無理だろうな。
くそ! 早くエクセル戻ってきてくれないかな。
お腹が空いて立ち上がれそうにない。
早く戻って来て!
願いが通じたのか扉が開く。
「エクセル! 」
だが期待の妖精エクセルは姿を見せない。
代わりに悪名高きハッカーが笑顔で戻って来た。
続く




