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真っ赤な偽物

腹を満たした巨大ムカデの後を追う。

ノロノロ歩くものだからつい追い抜いてしまいそうになる。

腹が膨れ動きも緩慢に。これなら襲われる心配はないだろう。

だからと言って無防備に近づけば餌食となる。

仕方なくノロノロ運転の後を歩く。


ポツポツ

ポツポツ

雨が降って来た。

砂漠に雨が降るなんて珍しい光景。

今は乾季だと勝手に思い込んでいたがどうやら雨季らしい。

いやそう言うものでもないのかもしれないが。

俺たちの世界の常識が通用しないとんでもない世界。まともじゃない。

雨が一滴落ちるとどこからともなくヘンテコな生物が姿を見せる。

荒涼とした砂漠に命の輝きが戻る。

雨は徐々に強まりついにはスコールへと変わる。

ところどころに水たまりが出来て行く。

これが本来のこの世界の姿なのだろう。


「あれどこに行った? 」

ムカデが姿を消す。スコールで視界が悪化し跡も消える。

うん…… あの洞窟みたいなのは何だろう?

「ストップ! 隠れて! 」

いきなり言われてもどうすることも出来ない。

このままではまた立ち尽くすことになる。

「隠れるってどこに? ここは砂漠の真ん中なんだぞ。無理言うな! 」

「それでも何とかする! ほら砂に身を隠しなさい! 」

「いや…… 冗談でしょう? 」

「急いで! 」

仕方なく今ムカデが這ったであろうところに伏せる。

そこへ無慈悲にも砂を投入するエクセル。

どうにか姿を消すことが出来た。息が出来ないので首だけ出す。

まるでカメのよう。


一人二人…… 合計で五人。

男たちが姿を見せた。どうやら彼らが神父と取引をした者で間違いない。

今出て行って話をつけてやりたいがエクセルが慎重と言うか弱気なんだよね。

取り敢えず様子を窺うことに。


「おい! 準備は良いな? 」

「へい! 抜かりはありやせんぜ」

何かしている。こんな雨の時にわざわざ?

「よしバケツに水を満たせ! 」

うん? どうやらこの水が必要らしい。

一体水とハニードロップで何を作ろうとしてるんだ?

「よしそれくらいでいい。戻るぞ! 」

奴らは後ろを気にすることもなくテントに入っていった。


「さあ行くわよ! 」

慎重に近づき中の様子を探る。

うわ……

巨大ムカデの肉が転がっていた。

サイズから言ってまだ子供。

肉に色を塗り始めた。

どう言うことだ?

「これはおそらくハニードロップと水を混ぜたものよ。全身に塗ってるみたい」

エクセルの解説は分かりやすいがそれがどうしたと言う感想しかない。


「これは? 」

「モンスターミートとして売り出すつもりじゃない」

「モンスターミート? 」

「まさかね。話には聞いてたけれど現実とは。これは巨大ムカデ肉でしょう? 」

「ああ…… あまり見たくはないが恐らく」

「モンスターミートはその名の通りモンスターの肉からできている。

伝説では不老長寿と聞く。でもたぶん長生きできる程度。

モンスターミートを食せば不老長寿の力が手に入るは大げさよ」

噂を一蹴するエクセル。


「だったらこの巨大ムカデにもその力が? 」

「ないでしょうね。でも民は簡単に騙される。

これをモンスターミートとして売り出せば物凄い儲けになる。

それこそ信じられないほどの儲けになる。奴らは人間の屑よ。

あの量を捌けば一瞬で大金持。何人であろうと関係ない。

それが伝説のモンスターミート。でもこれは違う。真っ赤な偽物」

「でも信じればもしかしたら…… 」

「ダメ! 確かにモンスターミートはその手の効果があるのは間違いない。

でもこのムカデ肉は違う。まったくの別物。美味しいけれど脳を溶かす。

それも少しずつ日が経つにつれて。進行が遅いものだから誰も気づかずに廃人に」

「うわ…… 恐ろしいなんてもんじゃないな! 」


「頭のいい人は普通に。普通の人は馬鹿に。馬鹿な人は大馬鹿に。

大馬鹿な人はもっと馬鹿に。早く中和剤を飲ませなければすぐに廃人に。

一ヶ月も経てば手の施しようがない。もし毎日摂取すれば三日で死亡する代物。

もちろんあれだけ高価なものだから誰も三日も連続して食べれないんだけどね。

なぜ私が知ってるかと言うと以前案内した異人が隠れてそのムカデ肉を食べてた。

三日後に叫び出したらすぐに亡くなったわ。頭にかなりのダメージがあるみたい。

あの人が特殊だった可能性も。でも他にも亡くなったって聞く。気をつけるのね」


呑気にモンスターミートのお話をしてる時ではない。

だがもう少し耳を傾けるのも悪くない。


                続く

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