こんな世界は嫌だ!
神父の言葉はもう俺たちには届かない。
あれだけ非道な仕打ちをしておきながらどうにかなると本気で思ってるのか?
神父の忠告を無視し彼が辿った道を逆走する。
運良く足跡がまだ残っていた。
もう少ししたらその跡も砂嵐で消えてしまうだろう。
「あそこに…… 」
目立たないよう妖精は飛ぶのを控える。
「何だあれは? 」
醜い姿の化け物。
砂に埋もれて全体像は把握できないが恐らくムカデ。
しかも信じられないほどの大きさの巨大ムカデ。
最悪なことに一匹ではない。少なくても五匹はいる。
化け物がここを住み家にしてるらしい。
「これはモンスターなのか? 」
もしモンスターなら倒し方は心得ている。でもあまり戦いたくないんですけど……
「ううん。これはただの化け物。言葉の暴力では効果ない。
下手すれば逆効果になる。ここは気づかれないように逃げて」
言われなくたってそうする。
この世界がおかしくなったのは三年前。
モンスターの襲来により人間は共存を余儀なくされた。
奴らは言葉の暴力に弱くブラックワードで一発。
だがエクセルの話によればこの化け物は古代から生き延びてきた種。
果てない砂漠の奥の奥に生存していた可能性もある。
もちろんモンスターが襲来した時に持ってきたペットかもしれないが。
とにかく退治するしかない。
だが一体どうやって……
ムカデの弱点は何だったかな? やっぱり火か? それとも水? 氷?
「なあライトニングを使ってみろよ」
「バカ言わないで! あれは気休め。効くはずがないでしょう! 」
うわあ…… せっかくの俺の意見を完全否定しやがった。
「だったらどうするんだよ? 手はあるのか? 」
恐怖と気持ち悪さにより限界。もう自分では考えられない。妖精さんに丸投げ。
「逃げるのよ。それしかないでしょう? 振り向いたらすぐに走りなさい! 」
「ちょっと待ってくれ…… 俺まだ心の準備が…… 」
「もう情けない。今カウントするから」
三、二、一、ゴー!
出遅れる。ゴーで振り向くはずなのにフライングして先に行きやがった。
まったく逃げ足の速い妖精だこと。
少しはこっちの心配をしてくれよな。
さっきから暑さなのか疲れなのか恐怖からなのか足が思うように動かない。
こんな時に情けない。だが気にせず酷使すれば完全に動けなく恐れも。
シャアア!
どこからか不気味な音を出す化け物。威嚇でもしてるのか?
もうこんなことしてる時じゃないんだけどな。
ゆっくり振り返る。
シャアア!
ギャアアア!
あれ様子がおかしい。うわ……
「ほらボケっとしない! ついてきなさいよ! 」
「大丈夫だけど…… おええ…… 大丈夫じゃない」
ガリガリ
ガリガリ
巨大ムカデは共食いを始めた。
見てるだけで吐き気がする。
せめて焼けよな。美味しくないだろ。
「共食いね…… この砂漠には極端に食糧が少ないから。
そもそも獲物になるような肉が存在しない。それを補うにはどうすると思う? 」
エクセルは恐ろしいことを言い始めた。
まさか共食い文化はどの種にも存在するのか?
妖精も…… まさか人間も……
「エクセル! エクセル! 」
「最後までよく見てなさい! 腹を満たしたムカデがどうなるのか」
クレイジーな妖精さんに言葉がない。
共食いは決して強い者が勝つのではない。
先に始めた方が勝つ。
要するにタイミングを見計らって仲間を襲う。
ここでは獲物はもちろん仲間でさえも餌となる。
そんな弱肉強食の世界。甘いものじゃない。
空腹を満たすとはそういうことだとレクチャーを受ける。
「ほら動き出したわよ」
「おい近づき過ぎだぞ! 喰われちまうって! 」
「大丈夫。何の為に共食いしたと思うの? 」
そんなこと知る訳がないし考えたくもない。
俺にはどうでもいい。どうでもいいんだ。
この世界にやって来てようやく慣れてきたと思ったらこれだもんな。
神父は裏切るし化け物はいるわ共食いまで始めるし。
俺はもうこんな世界は嫌だ
アンも村の仲間もハーレムも居ないこんな世界に生きてられない。
「どうしたの? 傷ついた? どの世界だって似たようなものよ」
エクセルの冷静さがうすら寒い。笑みさえ見える。
お前だって裏切られたばかりじゃないか? なぜだ? なぜなんだ?
「何も考えてはダメ。今はここを乗り切ることだけを考えなさい! 」
さすがはナビゲーター。感心するよ。
巨大ムカデはゆっくり巣の方へ戻っていく。
おえええ!
ダメだ思い出しただけで吐き気がする。
あのガリガリと言う音が頭から離れない。
もう地獄だよ。
砂漠を直進。
巨大ムカデを追いかけること十分。
お食事を終えたムカデはノロノロと歩いている。
危うく追い抜くところだった。
そう言えば他のムカデはどうしたんだろう?
全部食われちまったのか? いや想像するのはよそう。
続く




