解放! 恐るべきシンの実
再び山を登り始める。
「ねえもう目を瞑ったらどう? 」
まずは解放すべきものは解放して元に戻るよう促すエクセル。
仮に女体化してもすぐに目を瞑ればいいと言うが簡単じゃない。
それが不可能なのは分かり切っている。出来るなら苦労しないさ。
今全力で己をコントロールしている。
鳥のさえずりに山の木々の美しさ、命の水の尊さ。
それらに比べれば己の欲望など些細なもの。
心を落ち着かせ透き通った眼で見れば決して迷うことはない。
煩悩は誰にでもある。その煩悩を退散しなければ元の自分を取り戻せやしない。
「なあ煩悩を抑える実か薬はないのか? 」
「そんな都合のいいのある訳ないでしょう! 」
呆れるエクセルにしがみつくといつの間にか裸に。
あれ…… どうしたんだ?
「ほらあなたは欲望を抑えきれない。もう諦めなさい! 」
「だったら俺の頭を叩いてくれ。そうしたらきっと…… 」
「ああ煩悩退散ね。でも百八回打たないと効果がない。やってみる? 」
「えっと…… 」
「それはそれは痛いわよ。人間では耐えられるかどうか」
脅しをかけやる気を削ぐ妖精さん。さすがにこれでは選べない。
「どうする? 打ってみる? それとも目を瞑る? 」
目を瞑れば確かに見えないのだから妄想が実体になることはないだろう。
だが登山するのに目を使わなければそれこそ命取りに。
エクセルはその時だけと言うが登山と並行して行うのはあまりにリスクが高い。
せっかくだがどちらも選ぶつもりはない。
俺は大丈夫。精神力は備わってる方だ…… そう思ってるだけだけどね。
村では邪な心を取り除き聖人として敬われた…… 気がする。
だから今回だって自分の力で何とかしたい…… もちろん手助け歓迎。
「解決することは難しいがこれも試練だと思って耐えるよ」
「分かったわ。もう何も言わない」
まったく…… エクセルは心配し過ぎなんだよな。
俺がそんなに節操が無い訳がない。
誰かれ構わずに追いかけ回すタイプに見えるか?
「俺を信じろ! 」
「そう…… 分かった。もう一度だけあなたを信じてみる」
「よし行こう! 」
どうにか三合目まで到達。
いくらお近くにある山だからってここまでくれば登山客は僅か。
これからは何も起きなければいいのだ。
簡単じゃないか。少なくても難しい気はしない。
「おお! 君たち凄いなこんなところまで。がんばれよ」
趣味の登山を楽しんでる団体さんと遭遇。彼らは明らかに人間だろう。
だがそうやって何度騙されたか……
「あんたたち人間か? 本当に人間か? 」
あまりに失礼な発言に怒りを買う。
「ちょっと…… 」
ゴタゴタしてるうちに女体化が進行。
いつの間にか可愛らしい少女に変化してしまう。
これは脳のいたずら。目に見えてるものはただの思い込みによるもの。
目さえ瞑っていれば変化は起きない。
綺麗なお姉さんだって可愛い女の子だって姿を見せない。
いくら言われても止められるものと止められないものがある。
俺は精神修行してきた経験から他の者よりも多少惑わされない自信はあった。
だが目の前に見える者は明らかな美少女の団体さんだ。
俺がいくら違うと否定しようと遅い。
もう逃れられない。
それだけシンの実の効果は絶大だ。
ただの人間である俺は受け入れるしかない。
いやああ!
ついに始まってしまった。
俺は無意識のうちに解放してしまう。
ただその力が弱いおかげで彼女たちを傷つけることはなかった。
バラバラにすることもなかった。
僅かばかりの人間として感情が残ってる。
ビリビリに引き裂かれた服。
登山用の重装備だろうと関係なくすべてを取り除く。
それが俺の願望なのかはまだ分からない。
ただコントロール出来てないだけなような気もする。
重症ではあるがまだ心だけは何とか保ってられる状態。
だがその心も引き裂かれたものを見ればたちまち……
「止めろ! 俺は見たくない! 」
「だったら目を瞑ればいいでしょう! 見ても大丈夫だけどね」
エクセルがまた無理な注文を付ける。
それが出来るなら苦労しない。
我慢して我慢してどうにか自分を抑えている。
もはやこれ以上どうすることも。
うおおお!
あれ? 見えないや。
またしてもライトニングで肝心な部分が隠れる。
さすがはエクセル。用意周到なことで。
ふふふ…… 余計なことしやがって。
ようやく落ち着いたと思ったら今度は反撃に遭う。
「何するのよ! 」
そう言って頬を張る女たち。
連続ビンタ攻撃で撃沈。
うう……
もはや言葉にならない。
避けることも許されない。
俺が一体何をしたって言うんだ?
こうして女体化した者たちは姿を消す。
まったくついてないぜ。
地獄だか天国だかの登山旅は終わりが見えない。
続く




