いつかの危ないおじさん
お近くのドラッグストアのドラストキヨシへ。
さあ新展開を迎えるのか?
ここに来れば会えると言ってたが……
外なのかそれともやはり中へ入るのか?
ドラストの周りをポトポト歩いてると暴走トラックが横切る。
「危ねえだろお前ら! どこ見てるんだ! 」
人相の悪い荒れくれ者が睨みつける。
怖いなあ。こっち見ないでくれよ。ただのどこにでもいる旅行者じゃないか。
いや待てよ。おかしくないか……
警告はどうした? これだけ危険運転プラス暴言なら警告一つでは足りない。
「あんたねえ! 悪いのはそっちでしょう? 」
可愛い妖精さんは一歩も引かない。
「おい姉ちゃん! お前妖精だろ? いい度胸してるな」
あれやっぱりおかしい。これだけの暴言の応酬ならすぐにでも警告があっていい。
しかもドンドン累積されるはず。
警告も間に合わずに累積はあっと言う間に限界に達するはずがなぜか動きがない。
そもそもこの男の性格では一時間で刑務所行き。
だからこの人は今ここに存在し得ない。もうとっくに刑務所の中さ。
「あんたもね」
「へへへ…… そう言うことだな」
怖そうなおじさんだがただ口が悪いだけだそうだ。
第一世界の住民なら警告を受けることはないが。村人ってタイプでもないしな。
見た目は世界中を荒らし回る盗賊団の一員って感じだ。
優しい世界の住人には相応しくない。間違いなく異質な存在。
どう言う仕組みなのか分からないがなぜか存在を許されている。
それにしてもこれくらい口が悪いと…… 懐かしい。
この男を見ていると幼い頃に村に来ていたおじさんを思い出す。
最初は近所のおじさんだと思っていたけど違った。
母が良い噂を聞かないから近づくなと。
だからって俺たちはあまり気にすることはない。
よく俺たちの相手をしてくれたっけ。
女の子に手を出していつの間にかどこかへ行ってしまった。
両親は近づくなと言うが村の子供には人気が高かった。
女の子はなぜか嫌がっていたけど。
アンもとんでもない悪口を言っていた記憶がある。
あれ? よく見たら似てるな。そっくりだ。喋り方だって。
小さい頃だからな。そう感じるだけなのか? 念の為に確認するのも悪くない。
「あれおじさんじゃない? 」
「誰だお前? この俺様に生意気な口を利くのはよ! 」
いつの間にか遠いところへ行った人相の悪いおじさん。
女の子に異常に嫌われていたおじさん。
「おじさん俺だよ。うん…… 俺の名前は源右衛門」
「源右衛門? 知らねえな」
口の悪いおじさんは俺のことをすっかり忘れていた。
もうあの頃の面影もないしな。仕方ないか。
「俺が小さい時に村に来てたでしょう? 」
思い出して欲しい。
「知らねえ。俺はここ出身だからな。どこのガキか知らないがお家に帰りな! 」
おお。これは当時の口癖。やっぱりあのおじさんじゃないか。
「おじさん! 」
「だから知らねえって! 懐くなっての」
これ以上機嫌を損ねてはアンの居場所が分からなくなる。
ここは大人しくエクセルに任せよう。
おじさんだってそっちの方がいいだろうから。
へへへ……
ボウっとしてるところでエクセルに無理矢理引っ張られる。
「おいそこ! こそこそするなよな」
「ごめんなさい。さあ早く行って! 」
「分かってるよ。それじゃあな」
「待っておじさん…… 」
行ってしまった。
「何でだよエクセル? 」
「あの人は記憶を失ってる。たぶんここの人は皆そう」
「だったらあの人は俺の知り合い? 」
「恐らくね。趣味は分かる? 」
「うーん。女の子が異常に好きだったよ。それぐらいかな」
とんでもない親父だがそれも彼の個性…… な訳ないか。
「分かった。後で調べてみるわ」
エクセルはそれ以上何も言わなかった。
おじさんはドラストに何をしに来たのか?
「ありがとうございます」
「またよろしく」
そうか配送ドライバーだったのかこのおじさん。
「あれまだいたのかお前ら? 」
丁度いいタイミング。
お話を伺うことに。
「俺はこいつを知らないって。他を当たってくれ! 」
随分と嫌われたようだ。まあ昔の思い出なんか覚えてないよね。
「そうじゃない! あなたに聞きたいのは流浪の民のこと」
エクセルがいきなり本題に入る。
おじさんが何者かこの際どうでもいい。昔、我が村に来ていたかなど些細なこと。
それよりも今はアンの消息を掴むこと。
早く見つけたい。バラバラになった村人は今どこへ?
続く




