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聖水伝説

『ご注文はウサギ…… 』

合言葉をどうにか捻りだし認められる。

さあここまでしたんだから必ず手掛かりを見つけなくては。


礼拝堂の中へ。

透明な液体が注がれた聖杯を手に男が説く。

「この聖水は神と通じるもので力の源とされています。

これを飲み干せばあなたは神と一体になれるのです」

得体のしれない物質を聖水と称して分け与える。

これで奇跡が起きるなら一杯と言わずに二杯も三杯も。

もちろん信じてなどいないがこれもアンの為。

勢いよく飲み干す。

さあ上手く取り入ってアンの情報を得るんだ。


「結構なお味で」

本来ただの水のはずだから甘く感じるのは危険な気が。

薄いジュースだと思って飲み干した。

「どうでしょう? 」

「甘くてカルキ臭いよ。おかわりは遠慮します」

正直な感想を述べる。

うん…… 怒ってる? 手に力が入っている様子。

本来ならエクセルが対応すればいいのだが相変わらずやる気のない妖精。

俺にすべてを任せるなよな。

どうもここに来てからエクセルの様子がおかしい。

おしとやかと言うか大人しいと言うか。

借りて来た猫? ああ借りて来た妖精か。

それにしても俺はここに何しに来たんだ?

「そう言うことではありません! 神とお話になれましたか? 」

えらい剣幕の男。さすがに神の前で嘘は吐けない。

「ははは…… 全然ダメみたいですね」

「ふふふ…… そうでしょう。そうでしょう。無理をなさらずに。

私が何十年も掛けてやっとたどり着いた境地。

たかが観光客のあなたが近づけるはずがないのです」

まるで勝ち誇ったかのように。意外にも大人げない。

怒らせ過ぎたかな。これは完全に冷静さを失っている。

仕方ない。思う存分勝利の余韻に浸らせればいいさ。

へへへ…… 俺って大人だな。


「いいですか言右衛門さん…… 」

神との接触こそが奇跡だとそう述べる。

「大変なんですね」

「もう少し真剣に願います! 」

真面目に聞いてるつもりがどうしても軽く見えてしまう。また怒らせてしまった?

怒る気持ちは分かるけど本当にわざとじゃないんだ。

「大変ですって? 良いですか。あなたは何も分かっていない!

それでは神の側には置いておけません! 残念ですが立ち去りなさい! 」

興奮する男。いやそんな話をしに来たんじゃないけどな……

「待ってください! 改心しました。たぶん。どうかお話をお聞かせください」

言葉使いを直し素直な心で向き合う。

「よろしい。それでよいのです。ではもう一度初めからやり直しましょう。

あなたの非礼はなかったことにします」

これはラッキー。


「合言葉をお願いします」

「ご注文はウサギですか? 」

「よろしい。ではこの聖水を飲み干してください」

また繰り返す。何度でも繰り返す。

それが救うと言うことらしい。

この第一世界はまだ何も知らないがそれなりの文化や宗教があって不思議はない。

「実に清々しい気分です」

「どうです神は感じられそうですか? 」

「いえまだまだ。自分などまだ修行が足りていない半人前」

「ようやく己を知れたようですね。では着いてきてください」

案内を受ける。


「こちらが礼拝室です。いつでもお寄りくださいね。

神は見ております。いつも見ております」

悪いが礼拝室に用はない。

「続いてこちらが相談室です。悩みごと等があればいつでも。

せっかくなので話を聞いてもらうことに。


まずは流浪の民について。

「ああそのような不幸な民が存在することは聞いております。

ですが今どこにいるかと問われても私どもでは力不足……

いえ…… 分かりました。その手のことに詳しいものを紹介しましょう。

一時間後にドラストに来ていただけますか? 」

何とも不思議な話だが行くしかない。もはや迷う余地などない。

礼拝堂を後にする。


「うんよく我慢したわね。文句言わずに言葉使いも完璧。どうしたの? 」

エクセルは褒め称えるが人として当然のこと。何も不思議はないさ。

「改心したんだよ。心を入れ替えたって訳さ」

「えっ…… 」

いきなりエクセルがバグった。

「どうした? 俺なんか変だった? おかしなこと言った? 」

言葉を失って固まってるエクセルを元の世界に戻す。

「エクセル! エクセル! 」

「改心って言葉はまずいと思う。勘違いするかもしれないわ」

それは考え過ぎだが確かにあれほど頑なだったのに随分協力的になった気がする。

まさか……


「次に会う時は気をつけなさい。熱心な信者だと思われたかもしれないわよ」

別に悪いことじゃないが…… まあもう会うこともないだろう。


                   続く

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