流浪の民
ようやく夢師の話を聞けると思ったのに。
夢を聞かれたのでつい自らの願望を語ってしまう。
間抜けすぎる。これでは俺はいい笑い者。
何がアンと結婚したいだよ。何が海賊王になるだよな。
馬鹿みたいじゃないか俺? 他にも願望を口にした気もするが……
まあいいか。夢。夢と。
「ウサギに追いかけられる夢を見ました」
「ああそれは失敗に終わるサインだよ。
いいかいよく聞いておくれ。まず己の精神をコントロールするんだ。
それから慎重にことを進めるんだ。間違っても一直線に行くんじゃないよ」
「はあそれだけですか…… 」
「待った! もう少し詳しく聞かせてくれないかい。一昨日は何を見た? 」
「夢ですか…… うーん」
「そうじゃないよ! 印象に残ったものだよ」
「印象に? それだったら野生のシカかな。村に迷い込んで大慌て」
「まあいいよ。それで昨日は? 」
「もちろんウサギです! 」
嫌になるほどのウサギ、ウサギでうんざり。
「ほう…… それで今日は? 」
「まだ昼前で…… 変な人もいたけど一番印象的なのはやはりあなた」
「ははは! 私と来たかい。まあいいさ」
これが本当に夢占いとどう関係するんだ?
「ではもう一度復習してごらん」
そう言われたら従うしかない。
「一昨日は? 」
「一昨日はシカ。昨日はウサギ。今日はあなた」
「もう少しだけ感情を込めてごらん」
「一昨日はシカが。昨日はウサギ…… 今日はあなた! 」
「うん。可愛くなったよ。よしこれで一人前のバニーガールさ」
「違うって! アンの居場所だって! 」
「それは今日これから出会う人物が握ってる」
「はああ…… 」
「いいかい? 諦めちゃいけないよ! もうすぐだ! もうすぐ! 」
意外にもちゃんとしていて拍子抜けした。ただ精神論だった気もする。
良い人なのかもしれないがどうも信用できない。
その見た目とでっぷりした腹とこの偽物の壺が印象を悪くしている。
あと喋り方。それに悪ふざけも。
「ああん? 何か言ったかい? まあいいや。お代は…… 」
エンゼルカードでお支払い。
「壺はいいのかい? 幸運が付くよ? 」
「結構です」
エクセルは表情一つ変えない。
まあ妖精だからな。当然か。
俺一人だったら三千万のやつを買わされていただろう。
それくらい押しに弱い田舎者さ。自覚はあるんだよね。
「そうだ。これはサービスだよ。流浪の民を知ってるかい?
彼らは家を持たず各地を転々としてる。
お前の探してる者たちも流浪の民と共に旅してるのかもしれない。
噂に過ぎないが覚えておくといい」
流浪の民。一か所に数ヶ月もしないでどこかへ。
噂レベルとは言え貴重な情報を得る。
続いて向かうのは礼拝堂。
神に祈りを捧げる施設。
もちろん年中無休で中には入れる。
ただ許可を取る必要がある。
大きな庭を抜けると神父だか牧師だかが姿を見せる。
「合言葉をどうぞ」
この世界の住民なら当たり前の合言葉。
「エクセル頼む! 」
ここは世話好きの妖精に任せることに。
「ごめんなさい。あなたは試されてるの。
だから助けてあげられない。今までの経験から合言葉を導き出して」
しょうがない。近くの者にでも聞いてくるか。
「待って! 無駄なことは止めなさい! 誰もあなたに協力する者はいない。
よその者に合言葉を漏らすはずないでしょう? 」
まさか試されるとは……
「合言葉をお願いします」
どうやら本当に通してくれなさそう。
うーん。これはピンチ。
「神のご加護を」
「無礼者! たかが人間が何を抜かす! 」
怒らせてしまったらしい。
「おいエクセル行こうぜ。こんなところ興味ないんだ」
だがエクセルは微動だにせず。
俺が合言葉を答えるまで粘るらしい。
よく考えれば怒ったとは言え言葉の暴力で対抗するとは酷い。
「これは警告ではないのか? 」
「たかが人間ではありませんからね。この聖人は許されるのです」
もう苦労ばかり掛けさせられる。
くそ! どいつもこいつもふざけやがって!
「合言葉をお願いします」
「ご注文はウサギですか? 」
この世界に来て一番聞いた言葉。
これが合言葉になるとは到底思えないが一応念のため。
「ファイナルアンサー? 」
「ああ。早くしろ! 」
「よろしい。あなたをこの世界の住人と認めよう。
どうぞ中へお入りください」
礼拝堂を案内してもらう。
続く




