ウサギの耳
ウサギナイト。
これは思っても見ない収穫。
「グッズが欲しかったらどうぞ。あそこでウサギの耳を販売してるよ。
お客さんみたいに待ちきれない人用にウサギの耳。キラキラの可愛いのだ」
マスターは夢の世界へと誘おうと必死。
何て商売上手な人だろう。つい喰いついてしまう。
「これを耳に? 」
「そうだよ。彼女にプレゼントしてもいいし自分用もあり。
この耳をつければ心も体も可愛らしいバニーガール。
変装にももってこいだよ。ここにしかない限定品さ。持ってけ泥棒! 」
この店限定のレアアイテムを強く推す。
クロージングは完璧。
うーん。どうしような……
「そうだ。これはウサギナイト用だけど持ってるだけでも幸福を運ぶ一品だ。
非売品だから値段はつかないけど実は貴重なんだ。プライスレスって奴だね。
もしかしたらこれを必要としてる者が世界のどこかにいるかもしれない。
そんな人が現れないとも限らないだろ?
それから捨ててはダメだよ。ウサギナイトではこの耳が招待状の代わりだからね。
失くしたり忘れたりしないようにね」
バーのマスターは俺が子供だと思っていい加減なこと言って強引に売りつける。
だがその子供に売るのはどうだ?
まあ今は小学生でも結婚できるからこんなおかしな話になるんだろうけどね。
信用していいものか判断に迷う。
それにしてもサラダバーだけでなくウサギの耳まで。どんなバーだよ。
エクセルの紹介するバーは変わってるな。
せっかくだから購入しようかな。
「あのウサギの耳を下さい」
笑顔を振りまくバニーガール。
出来たら彼女の着けているその耳が欲しいんだけどな。無理だろうけどさ。
それから身に着けてる服も出来たら。へへへ…… その下も。
心の声が漏れないようにごまかす。
「ちょっともう! いやらしいんだから」
どうやらエクセルには聞こえたらしい。
まあ妖精にはどうでもいい話だろう。
「両耳でよろしいですか? 」
取り敢えず装着してみる。
何となく可愛い女の子になった気がする。
「どうエクセル? 」
「ノーコメントで」
どうやら微妙らしい。
それとも可愛すぎて負けたと思って嫉妬してるとか?
ただウサギの耳をつけただけで気分がこうも高揚するなんて思ってもみなかった。
「お客様? 」
「両方お願いします」
片方では後悔しそうだ。さあこれでウサギナイトへ。
「ご注文はウサギですか? 」
お約束のやり取りをする。これ本当にいる?
「だからそうだって言ってるだろ! 」
つい繰り返すものだから我慢しきれずに……
これではただの爺じゃないか。
「累積②」
まずいどこからともなく声がする。
「またかよ。なあエクセル頼むよ」
さあまた助けてもらおうかな。へへへ…… 俺には有能な妖精がいる。
「もうダメ! 受け入れなさい! 」
「何だと! ふざけるなこの…… 」
おっとこれ以上はダメだ。学習能力は高い方だぜ。
「はい? 何か言った? 」
妖精さんに睨みつけられる。
怖いなあまったく。仕方ないか受け入れるとしよう。
これ以上ごねればまた警告されてしまう。
それでは今後に影響が出かねない。
笑顔で繰り返す女性。
「ご注文はウサギですか? 」
笑顔継続中のバニーガール。さすがはプロ。
「はい。ウサギを下さい」
こうしてレアアイテムのウサギの耳を手に入れた。
余計な出費だったかな。
食事もアイテムも揃った。
お酒も出来れば…… それよりもそろそろ寝るか。
「もう休もうぜ」
「待って! 肝心なものを忘れてる」
エクセルが忘れていたとは珍しい。
「肝心なもの? 明日で良くないか? 」
もう飯も食ったし眠いんだよね。何を考えてるんだこの妖精はよ。
欠伸が止まらないのに引っ張られていく。
「へいらっしゃい! かばん屋だよ。好きなの選んで行ってね」
明らかに怪しい店。かばん屋って何だ?
「おいおやじ! かばんって何だよ? 」
「お客様それ以上はお止めください。警告されますよ」
くそまたかよ。この世界の奴は二言目には警告警告だ。
俺はカスハラ世界一さ。もう俺を止められない。
誰だろうと俺を止められない。
「俺が何をしたってんだよ? ただ分かんないから聞いてるだけじゃないか。
もうイライラするな! 」
「あなたね…… 」
エクセルに呆れられる。
続く




