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雑~にテーブルマナーの歴史考

「よく中世のヨーロッパにはフォーク無いっていうけどさ」

「うん」

「じゃあ昔のテーブルマナーってどんなんだったの?」


 合同同好研究部。ある中学で規定人数を割ってしまった同好会や研究会が集まって合同同好研究部という形で存続しているふわふわ寄せ集めの同好会集団である。

 基本的に雑な知識で雑語りしたりとぐだぐだだべっているので、誰か知ってる人が答えてくれそうな気がする部活である。


「一応その時代に書かれたテーブルマナーの本はあるらしいけど、当時だと常識過ぎてすっ飛ばされてる記述とかがあって再現が大変な所があるらしい」

「日本とか東洋はどうなんだろ?」

「東洋はよく知らんけど中国は周代には既にいろんな作法や決まりがあったみたいだ。孔子の挙げる徳目の一つが礼だしな。

 日本は13世紀頃には現代に近いマナーはあった様だ」

「食器を手に持って食べるのは日本独自文化らしいよ。昔は膳が無かったから食器を置いたままだと不都合だったって説」


「でも昔の日本、よく分からん箸マナーとかあるから本当に分からん。立て箸がセーフだった可能性がある。食事風景を描いた絵に残ってるらしい」

「ご飯に刺す奴?」

「そう」

「えー?」

「今だとちょっと考えられない」


「でもご飯に箸を刺すのは中国でもマナー違反っぽいんだけど。調べた感じだと、多分日本と同じで亡くなった人のご飯を山盛りにして箸を刺してお供えする」

「どっちなんだよ」

「特定の禁止事項と死者を結び付けるのが同時多発するとも思えないから、中国から来た時には既にマナー違反だったんじゃないか?」


「ちらっと調べた限り箸のマナー違反は中国とある程度一致してるっぽいかな。

 食器を叩く、不揃いの箸を置く、人を指す、振り回す、料理をかき混ぜる、料理に刺す、箸を舐めたり噛んだりする、っていうのは中国でもマナー違反に当たる。

 これらがいつ出来たかが問題だけど、普通に考えれば文化を輸入した日本も中国のルールに準拠してるんじゃないかな」

「じゃあ昔の食事風景の絵で箸をご飯に刺してんのは?」

「庶民らしい無作法さを描いてるとかだったりしない? 落語で蕎麦をすするのはマナーとかにあまり頓着しない人物像を描写するため説があるのと似たような感じ」


「不揃いの箸を置かないは初めて聞いた。揃ってるのが当たり前過ぎて気付かなかったけど」

「棺を構成する板は縦横で長短混じるからそれを連想させて縁起が悪いからダメって説があるらしい」

「連想ゲーム過ぎるだろ。前から思ってたけどマナー講師ってノイローゼか何かか?」

「不揃いだと使いづらいし失礼っていうのを直球で指摘するのも失礼みたいな考えじゃないだろうか?」

「その気遣いは分かりにく過ぎる」

「エピソード記憶の方が残りやすいっていうのも利用してる気がする」

「箸で食器を叩いちゃいけないのは物乞いを連想するからっていう説と蟲毒の呪法を連想するからっていう説を聞いたことがある」

「蟲毒は連想せんだろ、当時だとやったらマジで怒られる厭魅だぞ。見る機会無いだろ」

「多分食事中に不快になるような言動をマナー違反にするのに適当な理屈をつけた」

「てことはヨーロッパも食器が増えるたびにマナーが増えてった感じ?」


「フォークはイタリアに11世紀にはあった様だ。でも当時は二又で今みたいに使いやすくなかったらしい。結局現代の様な使い方をされるようになるのはイタリアで16、17世紀頃、ヨーロッパに浸透するのは18、19世紀頃の様だ」

「西洋のスプーンも割と後で14、15世紀頃だってさ。ギリ中世。当時は高級品で、一般的に使われるようになったのは多分17世紀頃」

「何でそんな時代に? 東洋のレンゲとかは結構昔からあるよね?」

「西洋のスプーン、金属製だから量産が難しかったんじゃね?」

「平安時代の匙も金属製みたいだけど?」

「ローマ帝国時代には西洋もスプーン使ってて一度途絶えたらしい」

「日本の匙も室町時代あたりに一度食卓から消えてるみたいだぞ。薬の計量とかに使われる程度だった様だ」

「そう言われると何気なく使ってる食器、意外と作るのがめんどくさそうな気がしてきた」

「箸が万能すぎる」

「お椀から直接液体を飲む作法はかなり珍しいらしい。日本はお椀を手で持つ前提があったからかもね」


「フランスは17世紀、ルイ14世の時にエチケットが定められたみたいだけど、フォークは使用してない」

「カトラリー一式が定着したのは19世紀頃の様だ」

「そうなると中世西洋は?」


「先に言ったように検証困難な部分が多いらしいから、いくつかのサイトを参考に推測すると―……

 まずフィンガーボウルで手を洗う。

 置いてあるナプキンは手や口元を拭うためのもの。

 料理が大皿で運ばれてくる。

 左手で自分の分をとる。

 ナイフで一口大に切る。

 親指、人差し指、中指でつまんで共用の調味料を付けて食べる」


「手巻き寿司っぽい。具材自分で切ってるけど」

「手巻き寿司が文化になって極限まで洗練されたらこんな感じ?」

「なるほど、それだとフォークを渡されても戸惑うかもね、寿司を焼き串で食べろって言われるようなもんでしょ」


「ちなみに調味料は二度漬け禁止」

「急に大阪の串カツ屋さんがフェードインしてきた」

「まぁ古今東西問わずソースを共用してるなら二度漬けはやめた方がいいな。衛生面から見ても」


「調味料をとるのはナイフの先でっていう説もあるみたいだけど」

「バターナイフ?」


「スプーンは用意されていた様だ。金属製が多くて貴重品だから持って行かれないように毎回数を確認したとか。ナイフは12世紀頃までは肉とかを切り分けるナイフが一つ置かれてて、15世紀頃は各自持参」

「ナイフ持参なの?」

「ナイフに関しては自衛のために会食に持ち込んでいい最低限の武器という側面もあったらしい」

「茶の湯の扇子みたいなもんか」

「茶道の扇子ってそういうもんなの??」


「戦国時代の茶道って暗殺をしないさせないために色々考えられてる作法と空間だったらしいんだよね。あれこれ細かく決まってるのって不意打ちをできないように、毒を入れられないようにっていう想定もあるらしいんだ。

 それがどれくらい効果があったのかは不明だけど、殺伐とした戦国時代にほぼ唯一腹を割って話し合いができる場所、っていうことで心安らげる場所がなく荒んでた戦国武将に、落ち着きがあって斬新かつ高級感あふれる千利休の侘茶が受けたと」

「鎌倉武士とか足利将軍とか偉い人達がやってたセレブの集いだけど、一流茶人が提唱する作法を覚えれば生え抜き大名も参加できると」

「そう言われると何か見え方が変わるな。でも茶道の扇子が護身用ナイフの代わりねぇ………」

「鉄扇術で調べると扇で相手の武器をいなしたりしてるから、そういう想定だったんじゃないかな」

「一方ヨーロッパでは手持ちのナイフでたまに刃傷沙汰になったんで主催側が先が丸まったナイフを用意するようになったとか何とか」


「そう考えると箸をご飯に刺さないルール、暗殺防止として出来たんじゃないかって気もするな。

 箸に毒を塗ってご飯に突っ込まれてたら気付きにくいだろうし除去しにくいだろうし」

「衛生面からも不安がある。きちんと洗えてるか分からない箸を、腸内で増殖する菌の至適温度に近いだろうホコホコご飯に刺しておくっていうのは」

「確かに」

「そうなると、日本の庶民だったら地べたに置いた方が不潔になりそうな時はご飯に刺したんじゃね?」

「ああ、なるほど」


「ていうかさ。手で掴める食事って事はヨーロッパの料理って全部冷製ってこと?」

「……確かにそうなるか? アツアツだと手で持てないもんな」

「大丈夫なのか中世ヨーロッパの人、あの辺ほとんど北海道より北だぞ。体温まるのか?」

「え、ヨーロッパって涼しい印象はあったけど、もしかして大体北海道みたいな感じと思った方がいいの?」

「メキシコ湾流の影響でちょっとだけ温かくなってる」

「へー」

「……もしかして西洋の人が心持ち食事に淡白なのって、体を温めるのに向いてる料理が少なかった………?」


「そのためのパイじゃね?」

「なるほど!」

「中華まんも中身アツアツだけど辛うじて手で持てるもんな」


「何かパイに関しては長時間オーブンで焼くからカッチカチになって外側外さなきゃいけなかったとかいう話がある」

「何で小麦粉の本場なのに饅頭系が発達しねーんだ」

「オーブンで蒸し器を使うのが難しいのでは?」


「中国は寒食節からの反動で寒食禁止令が徹底したせいで蒸し料理が広まったんじゃなかろうか?」

「寒食、何?」

「はっきりは分からないけど古代中国では冬の間、料理に火を使わずに過ごすという習慣があったんだそうだ。燃料の節約とかかもね。

 寒食節の時期はまちまちで、冬至の前後数日から長いと100日近く、それで体調崩して死人が大勢出たんで為政者がちょくちょく禁止令を出したと。

 それで温かいまま食卓に出せる料理が工夫されたんじゃないだろうか」

「一方で17世紀頃の英国にもpastyというでっかい焼き餃子みたいなのがあって鉱山労働者の弁当兼ホッカイロみたいになってたっぽいので、実は似たようなものはあったんじゃないかと思う」

「なるほど?」




「ところで話変わるけどさ。ナイフの綴りってknifeで、昔はkの音も発音してたらしいじゃん。

 クナイの語源と関係あったりする?」

「それ、意外とよく言われてるけど………15世紀以前だとカニーフみたいな発音だったんじゃないかって言われてるから、英語圏と直接の関係は無いんじゃないかな?」

「蟹の方が音が近い…」

「でもknifeの語源はゲルマン祖語って言われてて、ゲルマン祖語はインド・ヨーロッパ祖語からきてるらしいから………もしそっちの方に語源があるなら、忍者の祖先は大昔に日本に渡ってきた諜報技術を持った人とかだったかもね」

「諜報技術って忍者以外にあったの?」

「諜報機関が組織されたのは割と最近の印象だけど、その前身は世界中にあったんじゃないかな。古代中国や古代インド、ローマ帝国にも諜報技術はあったみたい。隠密活動をする組織が名前を広く知られてたらちょっと問題だったのかもね」

「………じゃあもしかして名前を知られてる忍者って、実は世界の隠密組織の中ではへっぽこなのか……?」

「忍者に関しては意図的に奇想天外な印象を与えて、肝心の活動を煙に巻くことにしたって説もあるけどね」

「まぁ確かに「新宿で忍者見た」って言われても何かの催し物としか思わないな」


「世界ご当地隠密組織、歴史と絡めて誰か創作して欲しい。見たい」

「世界ご当地忍者……」

「創作するものなのかそれは」

「戦国時代に活躍した忍者が江戸時代にエンタメ化してたりする事を考えると、あながち間違いじゃない気がする」

「忍者が世界的に有名になったのも海外の超有名映画シリーズのせいだしな」


 話題が大きくズレていくのも合同同好研究部ではよくある。


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