サッカ(群体ではない)
「だ~か~ら~、こいつまがりなりにも頭脳労働専門なんだから、ここで攻勢に転じるのはどう見ても悪手だろ? この組織に軸足置かなきゃいけない理由があるわけでもなし、敵をやり過ごすなり逃げるなりして別の所で再登場させろよ」
「これ以上登場するもんが増えると俺が制御できなくなるんだって! だからとりあえず見せ場作ってんの! 一応付け焼刃だけど戦わせる理由とかも作ってんの!」
「戦隊もので追い詰められた敵幹部がとりあえず巨大化して襲って来る理由が分かった気がした」
「さては3つ以上の組織が同時に動くと制御不能になるな?」
「どうすればいいっすかね先輩?」
「分かんねぇ」
「そうそうある事じゃないからな」
「三つ巴以上の戦いが発生してる戦国時代とかの歴史小説をいくつか学習すれば多少は引き出し増えるんじゃね?」
「あれはあれで連合してた二勢力が空中分解したとか敵の敵に味方するとかのパターンが多いからな」
「そういうパターンを何通りか持ってればいいんじゃないかと」
「それやるためにはかなり緻密な設定が必要だぞ。歴史上あった出来事をモデルに、複数組み合わせた方がいい」
「それ歴史勉強しなきゃいけない奴じゃないですかー」
合同同好研究部。ある中学で規定人数を割ってしまった同好会や研究会が集まって合同同好研究部という形で存続しているふわふわ寄せ集めの同好会集団である。
基本的に雑な知識で雑語りしたりとぐだぐだだべっている。
「そもそもこの話、VRゲームに向いてなくない?」
「特に見返りもないのにプレイヤーが真剣過ぎる」
「死亡時キャラロストならこれでもいいんじゃね? それか現実の死に直結するデスゲーム化」
「ええ~~ちょくちょく負けさせる予定だから全ロストや死亡は困るんですけど」
「ファンタジーとVRゲーム、似た設定にもできるけど、それぞれ持ち味があるんだよな。ファンタジーは命かかってるから真剣に取り組んで当然。一方でVRは再挑戦前提でゲームが設計されてるから負けてもいい。
そういう点では死亡やキャラロストは舞台がゲームである利点が生かしにくい」
「ファンタジー世界で生活するなら他人との交流は当たり前だけど、攻略の利点があるならまだしもNPCモブを人間扱いしたら変な人だしね」
「実現してないから異常扱いされてるだけで、無茶苦茶リアルなNPCができたら普通に人間として接しちゃうんじゃないかな。
今でさえ実際の戦場で軍人さんがドローンに愛着を持つって話あるし。ファンタジー世界とリアルなゲームの真剣度はそこまで違いは無いと思うよ」
「昔から愛馬とか愛車とかあるからな」
「この設定だと、キャラロストするゲームで実時間48時間以内に味方とかに蘇生されればセーフみたいな設定にしとけば? 蘇生前に再ログインしちゃうと死亡扱いになって別キャラ作らされるとか」
「それ死体回収して蘇生できないようにする奴出てくるだろ。戦争モノなんだから」
「そーいう専門ギルドありそう」
「死体取り返しに来た奴を返り討ちにする戦法ありそう」
「蘇生後すぐにログインした方が有利だからリア友が居るアカウントが有利になるんじゃなかろうか」
「ログアウトしないと外部と連絡とれないんじゃね?」
「エントランス入場まではセーフとかにして、通信手段の有無のアドバンテージ潰せば?」
眠そうな目で一同を見ていた合同同好研究部副部長早矢。完全な興味本位で尋ねた。
「小説とか書くの?」
「気恥ずかしいんで見せるのは勘弁してください」
「……無理に見ようとは思わないけど」
「うちの部活はサブカル研はじめ元創作系の部活の人も多いんだけど、創作に関係ない活動の人も多いから部費で印刷ってわけにもいかないんだよねぇ」
言いながら部長美夏原が辺りを見回した。
みんながみんな好き勝手なことをやっている部活である。
「じゃあ皆は普段どこに作品発表してるの? ウェブ上?」
「あー……まぁ」
「まぁ大抵は人に見せようとするから全年齢利用OKの投稿サイトとかを利用してるな」
「俺のアカウントは教えてもいいけど、このサイトってフォローフォロワーが表示されちゃうから俺のアカウントが知られると芋づる式にこいつのアカウントも推定できる」
「あ、変な流行とかがよく起こってるサイトだ」
「教えちゃったんですか?! 先輩!?」
「ログインしてないない見せたのトップ画面だけ。登録アカウント数百万越え、活動アカウント数十万越えの巨大サイトだぞ。副部長が変に勘がいいとは言っても特定は無理だろ」
「それはフラグっすよ!」
「いや別に特定しようとか思ってないから。それに、多分流行に乗れないからランキングとかには入らないタイプでしょ?」
「ほらぁ! 何か早くも俺の位置取り把握し始めてる!」
「いや、このサイトの流行の作品をアニメで見たけど、もっとライトな感じだったから。今皆が言ってた感じのタイプの作品じゃないなって」
「いいんですよランキングに載らなくっても。見て楽しんでくれる人が居れば。評価とか感想は二の次。もらえれば儲けもんぐらいで」
「感想とかもらったりすると嬉しいの?」
「嬉しいんじゃね? 俺はもらったことないけど」
「某はもらった感想は返事返してますぞ。やっぱ嬉しいものですな」
「やっぱ嬉しいんだ?」
「人によるな。続き待ってますだけだと命令されてるみたいで不愉快とか、具体的な良し悪しの感想じゃないなら馴れ合い目的みたいで不愉快とか」
「いきなり褒めとダメ出しするのもハードル高いと思いますけど!?」
「だから人によって違うっての。Not for meだって賛否あるし」
「まぁ作者に面と向かって「俺向きの作品ではない」って言ったら傍から見ても何様だよって感じるわな。お前用じゃねーよ馬鹿じゃねーのみたいな」
「Not for meってファンが他人に作品紹介する時のための感想じゃなかったの? 「犬が死ぬ場面があるから自分は見れないけど」、みたいな感じで」
「とにかく感想もらっといて返さないのは不誠実だと思います!!」
「返事しないのは事情があることもござるよ?」
「まぁ色々な事情で返さないはあるよね」
「知ってる範囲だと「何で自分には返事してくれないの?」って粘着されてるとか、殴り返すと開示請求する時に不利になるから一律で黙ってるとか」
「何でそんな治安悪い所に居るんだよ。ブロックしろよ」
「反応するともっとめんどくさくなる事が多いからな。それ以上行ったら次は警察沙汰だし」
「先制ブロック用の釣り堀だと思ってくれって宣言して感想欄放置してる人も居たな。尖った作風でそこそこ人気だから荒れコメントが多い」
「『連載中は絶対もらった感想見ない』って決めてる先輩が居たでござるな」
「何で??」
「昔その先輩、ある作品について考察を流してたら作者の人からお返事もらったでござる。
かなりモブに近い脇役に関する考察だったんで、作者の人も深く考えてなくて、先輩の考察を採用したらしいんでござる」
「読者冥利に尽きるんじゃないの?」
「そういう人も居るでござろうな、でも先輩は自分のせいで作品にノイズが入ったとしか思えなかったそうでござる」
「言っちゃなんだけど、読者にしてみれば「このモブキャラの事なんてどうでもいい」って作者から突き付けられたんだからな」
「ええ~?そんなもん??」
「感じ方は人それぞれだろうよ。それこそ嬉しいって人もいるんじゃないか? 反対に快く思えない人も居るってだけ」
「特定の読者層は文句を言わずに離れるとよく聞きますな。色々言いたいが自分の意見が入るのもまた解釈違いって理由で黙ってる人は結構いますぞ」
「まー……それ以来、その先輩は少なくとも連載中は絶対感想見ないようになったでござる。自分と同じ感性の人に不誠実にしたくないんでござるな。で、いまだ連載が続いてるので多分まだ感想見てないでござる」
「返事返さない方が不誠実だと思います!!」
「その人と同じ感性だったら感想欄に展開予想とか書かないと思うけどな。ただその先輩の動きも分からないでもない。
ついでに言うと商業系では、先の展開予想とかグッズ化アイデアとかを書かれると、後々に「自分のアイデアを使っただろう」って因縁付けてくる事があるんで没になったり作者側から訴訟を起こしたりする事があると聞いた。
消費者側にもリテラシーが求められる時代だ」
「……いろんな受け取り方があるんだなぁ……」
「当たり前。まさか作家って名前の群体だなんて思ってないでしょ」
「普通はそんな事態には遭遇しないけどな。合わなかったら傷つく前にさっさと見切りをつけて別の人に感想送った方がいい。公に見える感想欄を使うってよっぽど勇気が必要だろうに」
「安心して感想書いて欲しい!! 俺に!!」
「俺、読者になろうか?」
「身内の工作はご遠慮ください!!!」
「知り合い同士で評価し合うと不正とみなされてアカウント停止されるサイトとかもあるよ」
「へー」
 




