本番の前夜
「…それであんた達は盾頭という人に合格ラインまで技を教えてもらって習得できたら次の八月にデビューするクルーズ船に乗ってイナズマ団と戦うっていうことになってるということね。それだけの修業してきたわけでしょう?保障はちゃんとできてるの?」三人が詳しくその話をして説明した後に工藤も詳しく聞き返した。
「練習を続けていれば、何とか忘れることなく技を繰り出すことができます。ただ何もしないで放っておくと別の話になりますが」葵は分かりやすく説得した。
「じゃあ練習をひたすら続けないとね。盾頭さんに稽古つけてもらって合格を頂けたんだから。ちゃんと任務を果たさないと…でも、その一方で何だか心配ね。大型クルーズ船に乗ってイナズマ団と戦うことになるなら、前回の爆破事件よりももっと深刻になってくるのは間違いなさそうね」工藤はだんだんと怖くなってきた。自分みたいに入院する目にあってきたらどうなってくるんだろうと何だか怖いことを想像してくるようになった。
「工藤先輩の気持ちもよく分かります。だけど、まだ十一番目のイナズマ団ですから、それより上の上級レベルの容疑者と戦う時がきた時なんかは弱音をはいている場合じゃないですよ。今度のイナズマ団は下級幹部最後の人物ですから強気でいかないと…」準司は今からでも修業の続きをしたくなった。
悪いことをするこの反社会勢力を撲滅させるためにもこの戦いに勝たなくてはいけないのだから。
「…そうね。私の頑張りも足りなかった理由もあったと思う。私があの時に十五番目のイナズマ団に勝たなきゃならなかったのに私が負けてどうすんのよ。私がバカだったわ。…本当は私が強くいなきゃならなかったのに、ごめん。三人も迷惑をかけたと思う。全員を守り抜くために全力で戦わなきゃならなかったのに、こんな形になってしまって…」
「工藤部長、自分をそこまで責めなくていいですよ。もうあの時の事件は解決できたんですから。確かにケガ人は多少出ましたけど、僕達大学のメンバー達は誰も死なずに済んだのですから。あの事件を機に自分達がもっと強くなればいいのですから」工藤の自責感を準司は慰めた。工藤があの時にイナズマ団に負けた悔しさを準司が受け止めてあげる代わりに、自分も盾頭に稽古つけてもらって修業してもらうようにとだんだん思うようになってきた。
「…そうね。まだ私は技の習得訓練を受けてないから、これからヴィジョン先生を通して修業をつけてもらわないとね。私は草のタイプだから、確か草の盾頭さんって…深島さんだっけ?深島さんに稽古をつけるように退院できた後にお願いしに行かないといけないわね」
工藤が草の盾頭の深島の名前が出た時、将吾は一瞬ドキッとした。工藤部長が深島さんの稽古をつけてもらうなら、何だか良い関係づくりになってくるかもしれないな。もし自分が深島さんと一対一で稽古をつけてもらえるならそれこそ夢物語だ。
「ちょっと、将吾。あんた、何か変な妄想してるんじゃないよね?…」
「いやいや、そんなことないよ…」
「嘘つき。あんたの顔にはっきり出てるわよ」
葵は将吾が深島のことを考えているのを見抜いてビシッと将吾に言った。
「ん?何の話?」工藤は気になった。
「ああ、いえいえ。松田君の問題だけのことなんで。工藤先輩は関係ないことなので…」
「そうです!工藤部長。あまり気になさらず」葵も将吾も将吾が深島のことが好きだということをあえて隠しておくようにした。
準司は二人に聞かなくても一体何の話か想像ついていた。固まったまま準司は冷や汗をかいていた。
「まあとりあえず工藤部長はまだ退院できないのでしたらあまり焦らずゆっくり治療して回復できることを願います。工藤部長の分まで僕達が次のクルーズ船の戦いで戦ってきますので」準司は工藤を慰めた。
「うん。そこまで声かけてくれるのは友達や知り合い以外で貴方達が初めてかもね。何か…ありがとね。素直にこうやって打ち明けるのが苦手だけど、ここまで声かけてくれるのは遠い昔の小学校の時以来かもね。恥ずかしいもあるけど」工藤は下を向いて頬を赤らめた。
「じゃあもう時間がきたと思うので、僕達これで失礼します。ありがとうございました」準司は丁寧に工藤に挨拶した。
「そう、もう帰る時間?…ここまで来てくれてありがとね。電車とバスで来なければいけないから複雑で大変だったでしょ?…」
「確かに、乗り換え多かったですね。バスに乗った時なんかは間違えないかなって思ってましたから」準司は頭抱えてあははと苦笑いしていた。
「じゃあ帰りも気をつけて帰ってよ。ここの緊急外来以外の医者も午後からは静かになるからね。なんせ今日は土曜日だから…」
「分かりました。丁寧にありがとうございます。それじゃあこの辺りで失礼します」工藤の説明で準司は感謝を述べた。
「私達も失礼します…」
「失礼します…」
「はい、気をつけて帰ってね」葵と将吾も準司に続いて工藤にお別れの挨拶をして部屋を出ると工藤も挨拶をしてベッドから見送った。
国立病院から外に出ると、夕日の光で綺麗に空は青くいい天気に満ちていた。午後四時の時間になっても昼みたいな景色で心地が良かった。
「工藤先輩があそこまで治ってるなら次の秋学期は大学に来れるかもしれないわね」近くのバス停に向かって三人が歩きながら葵は言った。
「でもまあ入院が原因で大学に行けなくなったのは仕方がないと思うし、春学期に行けなくなった授業は工藤先輩が四回生になってからでも取り返せると思うから心配はないと思うよ」準司は工藤を大丈夫と暗示をかけてあげたかのように言った。
「だとしたらさ、四回生になった時は就職活動をしないといけないだろ?授業に行けなくなった時間と両立しながら就職出来るのか?」将吾は逆に心配するようになった。
「それは工藤先輩がちゃんと考えて何とかするんじゃないか?確かに就職活動に支障きたすかもしれないけど頭良いと思うから大丈夫なんじゃない?」準司は気楽に言った。
「あっ、もうバス来たね」葵がそう言うと準司も将吾もバスの方に向いた。バスの運転手も冷静になりながら三人がバス停で待っているのを確認できると左の指示機を出してバスはゆっくりと止まった。
そしておよそ一時間後、私鉄とJRを乗り継いで自分達の大学の近くの駅に下車した。そこから慣れた歩きでいつも通学している道をたどっていき、自分のアパートに向かって帰り道を歩いていた。
「ねえ、クルーズ船にこれから乗る予定のみんなは今でも盾の修業してるんだよね?どこで修業してるのかな?」葵は気になっている疑問を二人に打ち明けた。
「ああ、そっかあ。俺達もそうだけど盾の修業をしているとなんか、近所迷惑になってしまわないかなあ?」将吾はその事でふと思いついた。
「じゃあさ、俺のアパートの近くで修業するってのはどうだ?もちろん、近所には聞こえないのと見えない程度に練習することを条件にな」準司はそうアイデアを提案した。
「えっ?…準司、本当にいいの?夜に修業の練習をしようとしたとしても、声で丸聞こえになったらそれこそ管理者の人に怒られたりしない?」葵は準司を気にかけた。
「大丈夫だよ。俺が何とか説得するからさ。あの人なら許してくれるかもな…」
「いや、準司。管理者だけじゃないぜ。お前んとこのアパートに住んでいる人達全員にも事情を説明しないと怒られないか?それでも許してくれるならいいけどよ」将吾も準司に気にかけた。
「うーん、願うしかないかもな。周りは住宅街だからちょっと狭いけど俺んとこのガレージしか場所がないからなあ。とりあえずやって見るしかないな」準司はだんだん自信がなくなってきたが、やるしかないと思っていた。
その頃の国立病院では、工藤は横になりながらテレビを見ていた。その時に準司達がこれから乗る「ヴィクトリア・プリンセス号」のCMや報道番組に度々映っている。
「これか…三人が言ってたヴィジョン先生達が次の任務に乗り込むのは…」ヴィジョン教授がこの巨大豪華クルーズ船に搭乗すると発表する前からCMでよく見かけているが、このことかとやっと思っていた。
何か嫌な予感がしてきたなと思っていたら、やはりこのクルーズ船でイナズマ団と戦うことになるんじゃないかと工藤は思っていた。
「でも待って、ヴィジョン先生は本当にこの船にイナズマ団が現れるのを予想してるの?もし違っていたとしたら…」工藤は小さく独り言をぶつぶつ言いながら不安を抱いていた。
「神威様、こちらは計画通りにできています」イナズマ団最後の下級幹部の黒井和希は部下達を連れて武器や不審物を床に置いたままボスに連絡をしていた。
「そうか。どうだ?黒井、順調か?」神威は一言聞いた。
「大丈夫ですよ。我々の計画を誰も止められませんからね」黒井は自信過剰だった。
「いいじゃないか?お前がこの計画をうまく成功させれば褒美を与えるつもりなんだから…いいか?黒井、お前は上級幹部の仲間入りになるのだ。うまく行けばちゃんとそのようにしてやる。他にも、新しい下級幹部の結成も考えているのだから、せいぜい頑張りたまえ」神威の褒美話に黒井はますます笑いが止まらなくなってきた。
「ありがとうございます!神威様のお答えに添えるよう頑張ります!ではこれで!…」
「おお、期待してるぞ…」
「はい!では失礼致します!」電話を切った後、黒井はワハハハと笑いが込み上げてきた。
「さあ、楽しい宴はここから始まるぜ!」黒井はまだまだ笑いが押さえきれなくなった。
夜七時。準司の家に葵と将吾が盾を左腕に取り付けて来てくれた。準司も盾を左腕に装着している。
「こんな時間に本当に大丈夫?ちゃんと許可得た?」葵は準司に肝心なことを聞いた。
「大丈夫だったよ。ここのアパートの人全員にもちゃんと言っておいたし」準司は何故か明るくなっていた。
「ほんとか、準司?仕事の帰りが遅い人もいるだろ?そういう場合はどうすんだよ?」将吾は細かく聞いた。
「その時に言えばいいだけだろ?大丈夫だよ。俺に任せておけって…さあ、修業始めよう」
準司の元気そうな気持ちに引っ張られそうに二人はスイッチを切り替えて技の特訓修業を思い出しながら三人は修業の練習を始めていった。




