聞き終えた帰り道
合格者だけに豪華大型クルーズ船のチケットが全員に行き渡ると、最後にヴィジョン教授が気を引き締める意味を込めて真剣に学生達に伝えた。
「これで二度目の捕獲作戦に挑むが、油断は禁物だ。その十一番目と呼ばれたイナズマ団の男はそれ以下だった下級幹部より手強い奴かも分からない。土曜日に習った技修業を思い出してその十一番目の男を捕まえることだ。合格者皆、敵の攻撃に襲われることのないことを祈る。気を強くして引き締めて必ずその十一番目というイナズマ団ボスに勝つことを考えることだ。いいな?」ヴィジョン教授の勧告に皆は気が引き締まった。
「…八月のデビューまでまだ時間がある。暇をつくらないようにしておくことも忘れるな」ヴィジョン教授はふと思いだし忘れそうなことを言い忘れそうなところでギリギリ覚えていたので危なかった。
「ああ、もう一息で忘れるところだった。ここにいる水の盾頭の伏竜君と炎の盾頭の灯田原君がいるわけも私から説明しよう。実はこの二人もヴィクトリアプリンセス号に搭乗するつもりだ。イナズマ団十一番目との決戦に二人も参戦してくれる。中を隅々歩き渡って不審物が仕掛けてあるか、それはどこにあるのか、何か不穏なことがおきるかを客人になりすましながら警察と連携して捜索してくれる。合格者の皆もこの二人が総大将になってくれるから二人の指示に従いながらイナズマ団確保に努めなさい」ヴィジョン教授がそう紹介すると合格者達は二人の方に向いて軽くお辞儀をした。二人も軽くお辞儀をした。
「じゃあ合格者諸君、もう帰っていい。盾を大事にしておくようにすることと忘れないようにすることも忘れるな。では、解散してもいい。不合格者はここに残りなさい」ヴィジョン教授がそう言って教卓から降りると合格者全員は各自解散して帰って行った。準司達四人もすぐに会議室から出口に向かっていった。
一瞬、準司は先輩の宮岡達数人がまだ席に座っているのが見えた。
ああ、やっぱり合格まで行けなかったんだな。準司は宮岡達数人を見ながらそう思い出口に向かって、研究室をあとにしようとした時、いつの間にか辰准教授がぼーっと立っていた。帰ろうとしたその時準司は思わずすぐに挨拶を交わした。
「あっ、辰先生。お久しぶりです!…」
「ん?おお、三田原君じゃないか!あれ以来しばらくは会ってなかったよな?」辰准教授も思わずいきなりの再会で驚いていた。ただ嬉しい気持ちの方が強かった。
「先生、二人もここに…」準司は将吾と葵を止めてあげた。
「ああ、松田君に浅倉さんじゃないか。君たちも久しぶりじゃないか?三田原君と同じしばらく会えてなかったよな?」辰准教授は両手で二人をちょんちょんと肩を叩いてあげた。
「あっ、辰先生。お久しぶりです…」
「お久しぶりです、先生」葵も将吾も辰准教授に挨拶した。
「もう帰れるということは、先の技修業試験で合格したということか?良かったじゃないか、君たち三人もやっぱり持ってるじゃないか。実力と運ってやつか?」辰准教授は褒めたたえた。
「でももう君たちはここにいなくていい時間だ。早く帰った方がいい。この後は不合格者達の反省会をするから君たちは関係ない。さあ、もう帰っていいよ」辰准教授がそう言うと、三人は分かりましたと返事して研究室から出ようとした時にまた辰准教授に帰る挨拶をした。
「じゃあ辰先生、これで失礼します。あっ、一つ忘れてたんですが、辰先生も大型クルーズ船に乗る予定なんですか?」準司は一応念のために聞いた。
「ああ、俺か?俺も乗る予定にしてるよ。これ、ヴィクトリアプリンセス号の乗車券だろ?」辰准教授は合格者にヴィジョン教授から渡された搭乗券を見せた。全く同じだということを証明できた。
「じゃあ辰先生も心の準備が必要ですね…」準司がそう言った。
「ああ、必ず捕まえないとな。それが俺たちの任務だ。君たちも心の準備と技を確認しておくようにしなさい。じゃあそういうわけで、ヴィクトリアプリンセス号デビュー記念当日にまた会おう…」
「はい!またお会いしましょう!」準司は挨拶した。
「よし、じゃあ帰ってくれ…」
「はい、ではお疲れさまです…」
「お疲れ様です!」二人も挨拶した。
「おう、お疲れ」互いがそう挨拶して準司達は辰准教授と別れ、研究室から出ていった。
準司が駐輪場で固定していた自転車を解放して、待っていた二人と合流して夕暮れの道を辿りながら三人で話したいことを話し合った。
「そっかあ、次の任務は大型クルーズ船の中なのか…確かにCMで何回も見てたけどあのクルーズ船本当にでかいよな?あのでかい船の中を端から端まで監視しなければならないのかな?」想像を膨らませながら将吾は聞いた。
「私達だけじゃ足りないのは先輩の指摘通りね。警察を総動員して人数を増やすようにヴィジョン先生がお願いしに行ったんだと思うよ。でも総動員するならすごい人数が必要かもしれないよね」葵も想像しながら話した。
「そうだな。まあでも、ヴィジョン先生の言ってることが当たってるとしたらすごいカリスマだろうし、前から聞いていた話でヴィジョン先生はすごい頭が良い人だからこの人に会いに行きなさいって楢崎さんからも言われたことがあるから、俺はどこまでもヴィジョン先生を信じてるさ」準司はここまで豪華大型クルーズ船のチケットを皆の分まで買ったのだからまさかヴィジョン教授が外すはずがないと自転車を押しながら思っていた。
「あっ…そういえば、あの人今どうしてるんだろう?」準司はふと思いだし自転車ごと止めて立ち止まった。
「えっ?…どうしたの?」葵は聞いた。
「ほら、あの人だよ。工藤部長のことだよ。イナズマ団に大怪我されてからどうしてるんだろうなあって…」
「ああ、あの人のことか?確かに入院したっていう話からしばらく考えもしなかったな。それにあのビル爆破事件で被害にあった工藤部長以外他の人達も確か今まで部会にいてたっけ?」将吾はそういえばとだんだん思い出してきた。葵も「あっ!」と声がもれてしまった。
「ホントだ!被害にあった皆さんって部会に戻ってきたのかさえすっかり忘れてたかも。…今も思うんだけど、何でそんな大事なことを忘れてたんだろう?」葵は口がポカンと開いたままになっていた。
「気づかなかったけど、もしまだ入院してるなら俺達、お見舞いしに行ってもいいのかな?もちろん、先生達に聞かないといけないもあるけど」準司は心優しくなってきた。
「確かに先生達に聞かないといけないかもな。ヴィジョン先生に聞いていいのか、辰先生に聞いた方がいいのか?」将吾は腕を組みながらどうしたらいいか考えていた。
「…今日は帰りなさいって言われたしな、ラインで連絡するしかないよなあ。それぐらいは返答してくれるだろう」準司は自転車を押しながらそう言った。
「正直、こんなこと考えてるのって私たちだけかもしれないよね。工藤部長と仲のいい人達が言うのなら分かるけど…本当に私たちも工藤部長のところに行っていいのかなあ?何か私たちだけで行くっていうのも変よね…」
「そうだよなあ…やっぱり工藤部長のところに行くのはやめた方がいいんじゃない?見舞いは工藤部長と仲のいい人達がしてくれると思うから、俺たちが行くのも工藤部長からしたら嫌がるかもしれないと思うぜ…」葵と将吾はあきらめ感がだんだん強くなってきた。
「いや、だったら俺だけで工藤さんのところに行く…」
「えっ!?」準司が微動だにしない気持ちでそう話すと二人はびっくりした。
「準司一人で行くってすごい気まずいと思うぞ。それより大型クルーズ船のことに集中した方がいいと思うし…」
「そ、そうだよ準司。私たち目の前のことに集中した方がいいと思うし、余計なことをあまりしなくてもいいんじゃない?ね?」二人は準司の次にしようとする予感を感じていたのでブレーキをかけようとしたくなった。
しかし、準司は止まらなかった。
「工藤部長も俺たちの一員だ。傷ついた人を無視して大型クルーズ船に乗り込むなど俺にはできないからな。うん、やっぱり俺は優しい温かい男だ」準司は張り切っていた。それを聞いて二人はあちゃあと呆れてしまった。
「明日でもいいじゃん。ヴィジョン先生か辰先生に俺がラインを送るから返信が来たら二人にも知らせるよ…」
「準司、あんたどれだけお人良しなの?」準司の勢いに葵は素直に心の中から漏れてしまった。将吾も仕方ないと準司についていくことにした。




