再会
図書館襲撃事件から一ヶ月が経った。警察はイナズマ団をまた捕まえられなかった責任からイナズマ団対策本部室にさらに人員を増やし一刻も早くイナズマ団のアジトはどこかを徹底に探し、追及の強化を図った。報道記者達はイナズマ団の襲撃が関連する記事を並べ立て、新聞や電子掲示板に掲載し、事の騒ぎはさらにエスカレートしていることを知らしめていた。この事件をきっかけに道保堂大学も学生全員に教授達から強い注意喚起を呼び掛け、イナズマ団を見かけたりまたは出くわしたりしたらすぐに110番と教授達に知らせるようにと注意した。
道保堂大学の学生達はいつもの通りに授業に出席し今のところ何事もなく普通に生活が送れていたのだが、学生達もイナズマ団のことについてスマホを見ながら話をしていたり事の深刻さを皆で話し合ったりとイナズマ団に対する警戒を高めていた。
ある学生達は「マジでここらに来たら大変だよな」とかまたある女子大生は「襲撃された図書館ってこの近くでしょう?めっちゃやばくない?」とか「これじゃ外出るのに出られなくて怖いんだけど」など不安があちこちと飛び交っている。
授業に出席していた準司もいつもの通りに何の変わりもなく元の生活を送っていた。あの一ヶ月前のことは頭から離れられないし、葵は今入院先で大丈夫だろうかと脳裏に浮かんでくるし授業を受けながらいろいろと何かしら忙しく感じていた。
二時限目の授業が終わると準司はいち早く食堂に向かった。いつもの通りにメニューを選び、お支払いをして長机に持っていって着席をしそこから食べ始めた。
準司が食事に集中している途中に誰かが声をかけてきた。
「準司、ここいいか?」ふと顔を上げると将吾が食事のおぼんを持って立っていた。
「おお、いいよ」と準司は口に加えたまま返事をした。
将吾は準司と向かい合わせに座って食事を食べ始めようとしたところ、いろいろ話したい気持ちがわいてきて準司に話しかけた。
「準司、ここ最近どう?日常的な様子について」将吾は準司に気を遣って言った。
「相変わらずだな。森島先生の課題レポートまだ完成してないし、宿題やってても追いついてないしな」準司はいつものことだけの様子を言った。
「そっか…宿題するの何だか億劫になってきたよな。一ヶ月前の事件からみんな怖がって鬱になりかけてる人たちがいるぐらいだからな」将吾はそう言いながら初めて料理を口にした。
「…そういえば準司、葵のことだけど、もう退院が決まったみたいだよ」将吾がそう言うと準司は箸を止めた。
「えっ、そうなの?」準司は聞いた。
「うん、完全に回復してるし、リハビリ続けてやっと自然と歩けるようになったって言ってた。意識も元の通りになってるらしいよ」
一ヶ月前、葵は辰准教授と一緒に救急車に乗って近くの国立病院に着いてからいろんなことの手続きをしていた。その日から入院が決まり手続きは辰准教授がしていて何があったのかの説明や葵の両親を始め家族に連絡し事情を説明していたりして朝方まで続いていた。
後日に葵の両親が直ぐ様病院にお見舞いに心配して駆けつけに来てくれていたが、葵の具合はその時まだ回復していなかったため大変なドタバタ劇場だった。そこから治療を続けて頭にできた傷の治療からリハビリまで少しずつ治療を続けていた。
「それでいつ退院するって言ってた?」準司は聞いた。
「明日に退院だってさ」将吾は言った。
「良かった。葵が完全に回復したというのはやっぱり強い証拠だな。空手で鍛えたもあるかもな」準司は言った。
「まあ、それもあるよな」将吾は返答した。
「じゃあ明日に退院なら見舞いの準備だけでもしよっか」準司は言った。
「見舞いは声かけだけでいいんじゃないか?」将吾はそう言った。
三時限目、四時限目の授業が終わって二人はそのまま寄り道せずに自宅に帰ろうと帰り道をたどっていた。準司は自転車を押しながら将吾の歩くペースにあわせて歩いていた。
「まさかまたこんな時にイナズマ団が出てくるってことはないよな?」将吾は冗談交じりに準司に聞いた。
「いや、それはないと思うよ。あの一ヶ月前の事件からまたそんな早くに現れるというのはおかしいからな。安心していいんじゃないか」準司は気楽に言った。
「ふーん、一体いつどこで現れるか分かんないから怖いよな。警察でも捕まえられないぐらいだからさ、どうすればいいかわかんないよな…そういえばこんなこと準司に聞いていいかわかんないけど、なんで神威って奴準司の名前を知ってたんだ?それに準司の父さんって…」将吾がそう聞くと準司はびくっとした。
「将吾、それも後になって話していいか?」準司は申し訳なく言った。
「そっか、すまんな」将吾は話さなかったことにしたようにすぐに話を終わらせた。
「…辰先生もヴィジョン先生も一体今どうしてるんだろう?一ヶ月前から全く会ってなかったっけ?」将吾は準司に聞いた。
「そういえばそうだよな。確か盾の開発を続けてるって聞いてたような…。辰先生は病院に救急車に乗って同席してから何をしてたか聞いてないしな」準司はそう言った。
「葵が明日退院するから葵に会ってから久しぶりにヴィジョン先生の研究室に行くってどうだ?」将吾は準司に提案した。
「そうだな、でもちょっと待って。退院してからそんなにすぐ大学に来るの?」準司は将吾に聞いた。
「退院したらすぐに大学に行くって聞いたけどな。もう一度葵に連絡してみるか?」将吾は聞き返した。
「うん、そうしてくれ」準司は言った。
「たぶんだけど、退院する時は葵の家族も病院に行くからそれが終わったら来るかもしれないな」
将吾はそう言っていると同時に葵にラインを送った。
準司と将吾はそれぞれの分かれ道にたどり着いた。
「じゃあ準司、気をつけて帰れよ」将吾は帰りの挨拶をした。
「ああ、将吾もな。葵がいつのタイミングで大学に会えるか聞いておいてよな。それができたらラインしてくれ」準司は自転車を止めて将吾に聞いた。
「ああ、分かった。じゃあまたな」
「うん、またな」
二人はそう言ってそれぞれの帰り道に沿って帰っていった。準司は一人になった時から自転車に乗ってこぎながら走っていった。
翌日。将吾からのラインの知らせが前日にきて準司はその時間通りに自転車で大学に着いた。いつものロビーがある1号館に向かってガラスばりの大きいドアを開けて中に入ると、フリースペースのところの手前に将吾が着席していた。準司は押忍と手を上げて挨拶すると将吾も手を上げて挨拶した。
「葵はどう返事してる?」準司は将吾に聞いた。
「頭の後ろに傷口が酷かったけど、今はもう完治したみたいだよ。先ほど退院したらしくてこっちに向かってるって葵が言ってた」将吾は準司にスマホでラインを見せながら言った。
「良かった。それならもう安心だな。葵は空手二段の持ち主だから回復するのは早いよな」準司は言った。
「葵は男勝りなところがあるからな。気が強いのは助かった証拠だろうな」将吾は葵を褒めた。
「あれってそうじゃない?葵じゃないか?」将吾は準司に聞いた。
「ああ、葵が帰ってきたな」準司は扉の先を見つめながら将吾に言った。
葵が扉を開けると準司と将吾はゆっくりと手を上げてふった。葵は二人が目の前にいることが分かると手を振り返した。袖の短い桜色のTシャツに青いショートパンツをはいた姿で来ていた。
「良かった。退院おめでとう、調子はどう?」準司は葵に聞いた。
「この通り、全部治ったよ。診察して包帯とっても大丈夫だって言われたし普通に生活できるってなったし大丈夫よ。頭の治療が長引いたけど、もう大丈夫だから。二人も体調はどう?」葵は二人を心配して聞いた。
「俺は大丈夫だよ。辰先生がいなかったら大変だったけどな」準司はそう返した。
「俺も無事さ、準司の意見と一緒だな」将吾はそう言った。
「良かった…あの時いきなりイナズマ団に囲まれて襲われたから本当怖かったよ。あんなことに巻き込まれたの初めてだったから死ぬかと思った」葵は二人に事情を説明した。
「そっか、それは大変だったな。そんな怖かった中でよく耐えたな。本当に良かった」準司は葵を慰めた。
「うん、ありがとう。…あっ、そう言えば準司、前に言ってたあのこと何を言おうとしたの?」葵は思い出したことを準司に聞いた。
「えっ?」
「ほら、前にあのメガネかけた女性に怒られた後帰宅してた途中に課題みたいなことがあってそう言ったんだって言ってたじゃん。あれ何のことだったのかわからないんだけど。それにまた後で話すって言ってたからそのこと詳しく聞けないの?」葵がそう聞くと準司は少しの間沈黙した。とうとうみんなに言う時がきたなと準司は心底そう思った。
「…分かった、そうだったな。じゃあそのこと話すから、二人とも俺の話聞いてくれよ。葵も椅子に座ったら?」準司が葵にそう言うと葵はうんと言って隣の椅子に座ると準司は過去にあった話を二人に打ち解け始めた。
その頃、ヴィジョン教授の研究室に辰准教授が訪れていた。一ヶ月前のことについて勝手に学生二人を連れて教授が大事に保管していた盾を持ち歩いたことをこの時期になってヴィジョン教授に謝りに来ていた。
実はこの一ヶ月の間、辰准教授がヴィジョン教授に謝りに行こうとしていたが、ヴィジョン教授から「暫く会わないようにさせてくれ」と言われ謝りに行こうとしても会わせてくれなかったのだ。辰准教授は相当怒ってるんじゃないかと不安で仕方なかったが一ヶ月後にようやくヴィジョン教授から許しの言葉が出たためこの通りに話をさせてくれた。
「恐れながらヴィジョン先生、勝手に防具を身に付けて図書館に行ったことについて謝らせてください。…本当に申し訳ありませんでした」辰准教授はヴィジョン教授に深々と頭を下げ謝罪した。
「…先生、謝罪については確かに受け止めます。今回無事で済んだのは良かったんですがもしその時にやられていたら大変な事態になっていたのかもしれなかったんですよ。その学生二人と一緒に乗り込むなどどれだけ危険だったか」
「はい…申し訳ありませんでした」辰准教授はますます元気がなくなってきた。
「…まあいきなり出てきたイナズマ団というのもありましたからね。ところで連れ去られた一人の大学生を勇敢に助け出した辰先生達三人に学長本人が特別賞を授与したいと言っていたのはご存知ですか?」
「えっ?」辰准教授はっと頭を上げた。
「警察と一緒に協力したしイナズマ団から身を守ることが非常に困難なのに大学生を救出できたことはこれは本当に奇跡なことなんですよ」
「…はい」
「学長と警察のリーダー一人が明日の午後一時に学長室で待ってるって…その情報はあなたのもとにこの後届くそうですよ」
「えっ?…あっ…ありがとうございます!」辰准教授は深々と頭を下げた。
ヴィジョン教授と辰准教授と話をしていたその時どんどんどんと激しくドアを叩く音が響いた。
「はい!…誰だ」ヴィジョン教授が呼び掛けると向こうから「先生!先生!」と大声で言っているのが聞こえた。
そしてドアが開くと二人がじゃれあってるのが見えた。
「先生!またこの子達三人がここへ来てるんですけど…何度言っても言うこと聞いてなくて!」メガネかけた先輩の女子大生がヴィジョン教授に大声で言いながら入ってくる人を止めようと必死になっていた。
「三人が…ここに来てる?」ヴィジョン教授は何のことか分からず聞いた。
「先生!ヴィジョン先生!俺前に会った三田原準司です!またお目にかかりたくて!」準司はメガネかけた先輩の女子大生を押しながら大声で言った。
「ちょっといい加減にして!関係ないのにここから出ていって!」メガネかけた女子大生も負けてなかった。
「本当に話がしたくて!」
「もういい加減にして!」
メガネかけた女子大生は準司を追い出そうとするが準司は中に入りたがって二人はじゃれあっている。
「ミス工藤、落ち着きなさい。前に会った君のことか?」ヴィジョン教授は準司を見て一ヶ月前に会ったことを思い出していた。
「先生!この人前にも見たんです。遊び半分で来たつもりの人です!」メガネかけた女子大生はさらにヴィジョン教授に訴えた。
「いいえ、訳があって来たんですって!」準司は必死にメガネの女子大生を抑えた。
「工藤!いい加減落ち着きなさい!その子について知ってるから通しなさい!」
「えっ?」ヴィジョン教授は工藤というメガネの女子大生にキレるとようやく落ち着き、メガネかけたその工藤という人は急に力が抜けてぽかんとしてホゲっとした顔をして立ち尽くしていた。準司達三人はヴィジョン教授の研究室に入りヴィジョン教授のところに向かって行った。
辰准教授は三人をヴィジョン教授と向き合わせようと窓側に移動し三人達を見守った。
「君たち今は大丈夫か?」ヴィジョン教授は三人を心配して聞いた。
「はい、浅倉さんも無事回復して退院したので大丈夫です。みんな元気に戻れてこの通りです」準司は将吾と葵に見せて無事だと見せた。
「それは良かった」ヴィジョン教授はほっとした。
「先生…もちろんここは認められた人達でしか入れないのは分かっています。でも僕はどうしても先生に伝えなくてはならないためにここに来ました」準司は本心を言うことに覚悟が決まった。
「君が私に伝えたいことがあるためにここに来たと?」ヴィジョン教授は確認して聞いた。
「はい、話が長くなりますけどいいですか?」準司は腹をくくった。
「ああ、いいよ」ヴィジョン教授は準司に話を聞くことを許した。皆は何も言わず二人が話をすることに集中して固唾を呑んで見守った。工藤という女子大生は何のことか分からずとりあえず聞くことにしようと黙って立っていた。
「僕が六歳の時、父親は二十七歳で…大学を卒業した後、セキュリティ会社に勤めていました。その時にヴィジョン先生も同じ会社として勤めていたそうなんですね。その時にイナズマ団という組織ができて二年でしたからあの連続殺人事件が出回った時期でした。そんな時に僕の父親もイナズマ団に殺されたんです」
「…殺された?」ヴィジョン教授は聞いた。
「はい。だから僕はイナズマ団のことが許せなくてずっとイナズマ団のありかを探し続けていました。…本当の僕の役目はイナズマ団を捕まえてこれ以上の悪いことを止めるためにヴィジョン先生の弟子になろうと誓いました。そこで僕はヴィジョン先生に弟子になることを願ってここに来ました。お願いです。ヴィジョン先生の弟子にさせてください。お願いします」準司は深々と頭を下げた。葵と将吾はじっとしていて、辰准教授はずっと見守り続けていた。
「君が…三田原さんの息子ということか?」ヴィジョン教授は聞いた。
「…はい」準司は返事した。
「なるほど…そのために私の門下生として入りたいと」ヴィジョン教授はさらに聞いた。
「…はい、弟子にさせてください」準司は返答した。
「君はまだ一回生なのか?」
「はい、一回生です」準司はまた返答した。
「ここはイナズマ団を突き止めるために様々にあらゆることをやっている。一回生の者はまだ二十歳以下のため入ることは許されていない。それでも自分の命を覚悟にしてまで私のところに入りたいと?」ヴィジョン教授は真剣にそこまでの覚悟があるか大げさだが準司に聞いた。
「はい、確かに二十歳以下の者はまだ入れない事情があるのは分かっています。ですが、僕はある人と約束を交わしました」
「約束を交わした?」ヴィジョン教授は聞いた。
「…楢崎寛樹という人物はご存じですか?」準司はヴィジョン教授に聞いた。
「…なぜその名前を知っている?」ヴィジョン教授は思いもよらないことを聞き準司に聞いた。
「このことも話が長くなりますが、いいですか?」
「ああ、構わない」