根性の披露技
「三回生のお二人はもう覚えられましたか?」伏竜のパソコンを使ってさっき見た動画をもう一度再生して自分の盾の舞を披露できてるか実際に踊りながら四人とも確かめている時に二回生の霧林は三回生に聞いた。
「分からんな。何回も見ながら練習しないと覚えられないかな」増田は言った。
「私はもうちょいかな?だけどくるりと回るのがかなり難しいのは分かるね」桐原はだんだんと息がハアハアときれてきそうだった。桐原でさえ息がきれるぐらいだから相当体力と気力を使う技なんだと見ただけで準司は思った。これは大変だ。
でもこれで大変というなら、七の技から上の技はもっと大変かもしれない。桐原の言う通り回りながら盾で攻撃を防ぎ止めることを言っているのだろう、確かに体で動かすのが難しいと分かる。もし背後からもしくは違う角度から攻撃が降ってかかってきた時にいち早く防ぎ止められるのかも試されているかのような修業だということも分かる。体力と気力を最大限に活かしてここまで盾を振りかざすのは正直大変だ。これではこの盾の舞だけでなく六の技を習得できるかさえ時間内に間に合うかが大変不安だ。それにまだ四の技や五の技の習得をしている人達がようやく六の技と盾の舞を習得しようとしたらモチベーションが持つのか想像するだけで怖くなってきた。
もし、自分も含めて全員が六の技まで達成できなかったらその後どうなるんだろうか?修業時間が終わるのは午後五時、それまであと四時間は切っている。おそらく皆のあのペースのままで修業していたら六の技まで習得するのは無理だろう。
準司達四人は真剣にこれでもかと真面目になって伏竜のパソコンの「盾の舞」を見ながらだんだんとようやく慣れてきたというところでほんの少しだけだが何とかコツを掴んでくるようになってきた。クーラーがしっかりと行き届いている上水分補給のための飲料水を置いているため熱中症対策の問題はないが皆は汗でびっしょりだった。ここまでくるのにこんなに息がきれる程きついのはメンタル的に大丈夫か心配だった。伏竜はどういう流れであんな涼しい顔しながら盾の舞の技を披露できるのか、まずそれを知りたい気持ちだ。目の前の盾の舞の修業で汗をかきながら準司は思った。
どれぐらい時間が経ったのかさえ四人は全く知らない中で修業を続けていたので一瞬、伏竜のことをよぎった。あの人数に技を教えたり見ていたりしているからおそらくしばらくは戻ってこないだろう。
準司はそう思っていたその時、伏竜を先頭に十数人の上級生達が中に入ってきた。おそらくこの流れは五の技をようやく習得できたということだろう。良かった。無事通過できたんだな。それにこの人数だから、まだ他の人達が五の技まで達成できていない人達がいたとしてもすごい人数だ。この後どうなるんだろうかと心配していたがこれだけの人達が六の技を今から覚えるタイミングなら何とか間に合うのかもしれない。
「ようこそと言いたいところだが、先の四人は今のところどうだ?盾の舞は完成できたか?」伏竜は後から来た人達がこれだけ五の技を達成できたことに安堵していたが、四人の顔を見て顔色が変わった。
「練習はしているんですが、なかなか難しくて…四人とも苦戦していますかね…」桐原は冷や汗をかき始めた。
「時間は四時間を切っているタイミングで六の技を完成してほしいところだったんだが、皆もこうして後から中へ入れたというのにまだ苦戦していては対イナズマ団戦は厳しくなるだろうな。だがどうだ桐原、コツは掴めてはいるんじゃないのか?」伏竜は無茶に質問した。
「そうですね。ただわずかですが、コツが掴めてきたかなと思ってます…」
「そうか、じゃあ桐原、君から盾の舞を皆の前であの動画と同じような披露をしてくれ。あの機械を動かすから全部のボールを盾で弾き返してくれ」じゃあ皆、桐原に注目!と言って伏竜はさっきの機械に向かいスイッチを入れにいった。
「桐原、もう一度この機械の中に入って盾の舞を披露しよう」伏竜がそう言うと桐原は緊張感が一気に高まって言う通りに機械に向かった。まずい、まだ完成できていないんですけど…と桐原は心で呟いていた。
「初めてでまだ見たことがない人のためにまた俺からも技を披露するが、六の技を『空間の慈雨』という名前になっている。この技を達成することで応用の技でもあるからある程度イナズマ団と戦えるレベルにはなっている。しかし、六の技を完全に習得するのが難しい場合のために『盾の舞』という技がある。この技も六の技とよく似てはいるが、この技は攻撃するための技ではなく防御力を各段に高めるための技だ。攻撃ができないのが『盾の舞』、防御を高めて攻撃もできるのが『空間の慈雨』というこの違いを覚えておくようにしておけ。ちなみにこの『盾の舞』は水だけでなく他のタイプも使うことができる。では桐原、心の準備だけはしておいてくれ」伏竜が説明を終わると、桐原は今ここと盾をしっかり握って心の準備を高めた。
あの動画で見たあの舞を思い出せ。あの和の音楽に沿って舞を披露しながらどの方角からもきた玉を全て弾き返したではないか。あの人は一体誰なのかは知らないけど、できているなら私もできるはず。ここまできて汗をかきながらでも覚えて練習したじゃないか。自信を出して。…さあ、前に一歩踏み出せ。
桐原は目をつぶりながら盾を構えながら一極集中を高めた。これができれば、応用の技の習得に近づける。というか、盾の舞さえマスターできれば六の技もできることになるから、何も恐れることはない。…よし、行け。私。
「伏竜さん、覚悟はできました。ボールの準備お願いします!」桐原は覚悟が決まってきた。恐れないことを忘れないように軸をしっかりと固めた。
「よし、じゃあ桐原、今の動画を見たあの舞を思い出してその通りに舞を披露しろ。それが『盾の舞』だ。自信もって技を引き出せ。では行くぞ」伏竜は機械のスイッチをオンにした。機械はウイーンと音が上がって行くとここに来たばかりの皆は真剣になって桐原に注目した。
そして時間がそんなに間もないその時、ボールが飛び始めた。桐原は音で感知して左から飛んできたボールをうまく弾き返した。そしてまたボールが飛んでくるとその右からきたボールもうまく盾で弾き返した。どれも素早い速さで飛んできたが、しっかりと桐原は集中力を極めてボールを弾き返した。
三つ目のボールが飛んできた。今度は左後ろだ。何も訓練していない上で飛んで来たらおそらく防ぐことができない多少は難しいレベルだ。
しかし、桐原は違っていた。しっかりと周りの空気を読んでいる。桐原は素早く感じ取っていた。左後ろからきた素早いボールを桐原は左後ろに向いて盾で完全に防ぎ止めた。
皆は「おー!」と声が上がった。
「桐原、そのまま集中を続けろ。その集中力でここからも次々とボールが飛んでくるから保つようにはしろ」伏竜が説明すると桐原は目をつぶりながら集中力を高めた。次こそ大量のボールが飛んでくる。そんな時こそ盾の舞を使う時だ。しっかりと覚えられている自信はある。大丈夫、次も外さないぞ。
そして桐原の予想通り、ボールが一秒ごとに周囲から適当に飛んできた。桐原は強気になってあの舞を思い出して一周しながら周囲から飛んでくるボールを盾で次々と弾き返していった。全く何一つ桐原にボールがぶつかってくることがなくなった。
見ていた皆はさらに歓声があがり、「すげえ」とか「うまくできてんじゃん」とかだんだん明るくなり始めた。これが盾の舞なのか。
まだまだボールが次々と飛んでくる。それでも舞を披露しながら桐原は次々と飛んできたボール一周全てを盾で弾き返していった。確かに舞を踊っているように見える。桐原は盾の舞の技を完成できた。
「よし、桐原、機械を止めるからしばらくしておけ」伏竜は機械をオフにした。そしてだんだん機械が止まっていき、しばらくして止まった。
「桐原、それだ。それが、盾の舞という技だ。よくできたな。合格だ。これができたなら後は六の技『空間の慈雨』も楽にできるはずだ。よく頑張った。後は六の技に修業してくれ…」
「ありがとうございます!」桐原は機械の中で感謝を伝え、そして機械から外に出ると見ていた皆は自然と拍手が沸きおこった。このおかげで皆もやる気が漲ってきた。
中でも桐原にすごく拍手しながら褒めたたえていた準司は桐原に駆け寄っていった。




