六の技の壁
「すまんな。痛かったか?」伏竜は桐原に聞いた。
「まあ…正直…確かに…はい」桐原は痛みに耐えたかったが体のいうことがきかなかった。
「悪いな、こうなってしまってよ。先程の三田原も経験しているから本人も痛がっていたのは確かだからな。でも前もって言っておく。これが、六の技を習得するための修業なんだ。この壁を乗り越えなければ六の技を習得できたことにならない。すまないがその覚悟は持っておかないといけない。この厳しさに乗り越えれば後は上手く技を繰り出せる。…君はしばらく見物しておいてくれ。じゃあ次は、君か?増田,
機械の中に入れ」伏竜が次に指名したのは増田だ。この三回生の男子も高層ビル爆破事件で桐原リーダーのチームの一人としてイナズマ団の確保と怪我人の救助に取り組んでいた一人だ。
「入ったか?…」
「はい、入りました」増田龍太は盾を構えて緊張感を保った。
「じゃあ機械のスイッチを入れる。覚悟を決めてくれ」そして伏竜は機械のスイッチを入れて、ウイーンという開始の合図の音が鳴り響いた。そして数秒後にボールが前から飛んできた。増田はしっかり見極めて盾で素早く防いだ。
「気を引くんじゃないぞ。次も集中しろ」伏竜は機械の方を見ずに増田の動きをじーっと見続けていた。慣れた手つきで伏竜は機械を押した。ボールが左、右と飛んできても増田は見破ってしっかり二つのボールを弾き返した。
「まだまだ。その調子で左右や上、後ろもしっかり見ろ」伏竜が喝を入れると増田はさらに集中力を高めた。今度は難易度がさらに高くなった。前、左、後ろとボールが飛んできた。前、左のボールを防げたが後ろからボールが飛んできたことを知らず、増田は後ろの背中におもいっきりぶつかった。すごい激痛が増田に襲い掛かった。
「増田、引っ掛かったか?今言ったと思うが後ろもしっかり見ろと言ったはずだ。一周三六〇度を見渡すのを忘れるな。さあまだまだボールが飛んでくるぞ」一体何回のボールが飛んできたのかさえ見抜けないぐらいの数が一斉に飛んできた。増田は防げたり、ボールに当たったりと半分できて半分防げなかった。
ぶつかった衝撃がすごく体中に響いた。
「仕方ない。増田、機械止めるから機械から出ろ」伏竜は機械のスイッチをもう一度押し機械の作動を止めた。ウイーンと今度は終わりの合図が鳴り響いた。
増田は背中と腹を両手で抑えながら機械の中から出てきた。
「まあ、最初はそんなもんだ。当たってしまうのは仕方がない。いきなり難しいことをやらすわけにはいかないからな。まあ、君は過去に運動していたことあるのか?」伏竜は聞いた。
「はい、バスケットボールをやってました」増田は激痛に耐えながら言った。
「そうか。運動していたならもう少しで練習を積み重ねれば六の技が完成できるかもしれないな。君もしばらくいい。見物しておいてくれ」伏竜が手で誘導すると増田はその場まで行きしばらくその場の床に座って体をいたわった。
「では次行くとする。霧林、こっちに来い」最後になった二回生の霧林は緊張を持ちながら冷静になって機械の方に歩いた。そろそろと霧林が機械の中に入っていくと緊張感がそれまでなかったのに急に高まってきた。
「どうだ?霧林、その機械に入った気持ちは?」伏竜は霧林に珍しく聞いた。
「あの時の防衛技能訓練を思い出します。あの時も緊張はしていましたが、ここでも緊張感が出てきています…」
「そうだろ?あの時は基礎的な訓練だったことを忘れないでほしいな。こことはまだ全然マシな訓練だ。ところが、ここは技覚えの訓練だからあの訓練でひざまついているならここでの修業もやってられないからな。そこはしっかりと覚えていくようにはしろ。いいな?」
「はい」霧林は素直に返事した。緊張感が保ったままでいる様子の上で霧林はあまりの緊張で固まったままだった。その様子を伏竜は見逃していなかった。少しその固まったままの気持ちを緩めようと霧林に声をかけた。
「霧林、ちょっとしばらく時間を稼ぐようにはするから周りをちょっと見てごらん」伏竜の言われた通りに霧林は気を緩めて後ろを振り向いたり、上を見たり、下を見下げたりして一周三六〇度をしばらく見渡した。
「周りにある穴が空いているようなその機械がボールが飛んでくる機械だ。どこから飛んでくるのかはこっちしか知らないようにしてある。俺が機械を操るが気にせずにボールを全て盾で防ぐようにするだけ集中してくれ。ここまで何か質問とかあるか?」伏竜は優しく声をかけるかのように霧林に聞いた。
「いえ、何もありません。ただ…何だか怖いです…」
「まあ確かにそうだよな。飛んでくるボールはぶつかった時どんなに痛いかを想像するだけでも怖いよな。分からなくはない。しかし、言っておくがぶつかってもいいという度胸があれば何も怖くはなくなる。最初は皆そうだ。俺もこの機械に初めて触れた時、初めて試してみた時は確かにボールにぶつかって痛い目にあったこともあったからな。最初はそうだった。でもそれでも技を覚えたいためにボールにぶつかってまでしても耐えながらだんだんと慣れてきてそしてやっと全てのボールを盾で防ぐことができるようになった。だから、この難局を乗り越えれば後は何も怖くなくなる。その為の修業でもある。最初は怖いのは分かる。でもその痛みを存分味わえ。…よし、どうだ?心の準備はできたか?」伏竜は霧林を慰めたように優しく話しかけた。
「伏竜師匠、覚悟はできました。分かりました、ぶつかる覚悟を決めてこの修業に向き合います」霧林は本当は怖い気持ちがある中で覚悟を決めた。
「そうか。よし、じゃあ機械にスイッチを入れるぞ。盾を構えてくれ」伏竜がそう言うと霧林は言われた通りに盾を構えて周りの空気をしっかり読むようにして目の前に集中した。
そして伏竜は機械のスイッチをオンにした。もう機械の開始の音が皆が慣れると霧林はもうやるしかないと待ち構えた。
一球目のテニスボールが前の穴から速いスピードで出てきた。霧林も素早く盾を構えそしてボールを弾き返した。霧林はだんだんと自信がつき始めた。
「よし…霧林、まだまだボールが飛んでくるぞ。甘く見てはいけない。どこから飛んでくるのか分からなくても怖がってはいけない。さっき言ったようにまずはボールにぶつかってもいいという度胸を持つこと。さあ、集中力を極めろ」霧林はもう怖くならなくてもいいと腹をくくった。
二つ目のボールが左から出てきた。すぐさま霧林は左をすぐ向いて盾で弾き返し完全に防げた。
「おお、ここまではよくできたな。だがここからも油断してはいけない。後ろも来るだろうし、斜め後ろもしくは斜め前から来るのかもしれない。それも予測しながら盾で受け止めなければいけない。言ってる間にまた出てくるぞ、集中しな」伏竜は今度はプレッシャーをかけ始めた。霧林も伏竜の様子が変わったことが感じとった。ここからが本番だ。そう思っているうちに後ろからボールが飛んできた。左後ろの穴から出てきたが、霧林は全く気付いていなかった。霧林はまさかとタイミングが遅れて後ろを振り向いたが遅かった。思いっきり左腕にぶつかった。激痛が走った。そしてまた別のところからボールが飛んできた。右斜め前からボールが飛んできたが、そこは素早く右手で左腕を抑えながら盾で弾き返した。さっきのは成功した。
この後、霧林は左腕だけでなく右足や頭や首にボールにぶつかり盾で防ぐことができなかった。伏竜がもういいと言われ機械から降りろと言われてその通りに霧林は機械から降りた。そして伏竜の前まで行って何を言われるかを待った。少し長い間が空いたが、ようやく伏竜は口を開いた。
「ぶつかったり、防げたりと君もいろいろだったな。どうだ?この訓練を受けて」伏竜は聞くと霧林は少し心が折れそうだった。
「本当にボールにぶつかるとすごく痛くなるんですね」霧林は聞いた。
「激痛が走ったのは確かに苦痛だが、これを乗り越えなければ六の技を習得できない。まあ君も初めてこの修業を受けたから仕方がない。次に教えることを言うから続けてここに残ってくれ。じゃあ元の場所に戻れ」霧林がその通りにすると伏竜は機械の隣に置いてある椅子から立ち上がり四人の前に来た。
「じゃあ四人とも、ちょっと立ってくれるかな?」伏竜はそう指示すると準司を含め四人とも床から立ち上がり伏竜の前に立った。
「防衛技能訓練を受けたのが初めてだったと思うが、これでは六の技を習得できないと思うので今からある技を教えようと思う。これを習得できればおそらくだがだいぶボールに当たる確率が少なくなると思う。その技というのは…」伏竜が言おうとすると四人は真剣な顔になって伏竜を見つめた。




