将吾、誘惑の苦悩
弟子達全員が隠されたバス停に向かっていき、三回生から順に並んで行った。国際ターミナルにあるバスが留まっているようなあの感じに以前と同じ観光バスみたいな大学のバス三台が一列に並んで待機していた。
「では以前と同じように三回生から順に一台目のバスに乗って行って下さい!」あの掛け声と違う聞き慣れていない女子の大声が響いていた。
…そういえば、工藤部長はまだ入院している最中なんだろうか?すっかり工藤部長のことを忘れていた。それに他の上級生達もあれからどうしたんだろう?
もしまだ入院している最中なら欠席している人達はこれから行われる技覚えの訓練はどうするつもりなのか?また後日に教わるのだろうか?何だかこっちも見舞いに行きたいぐらい心配だ。
前と同じように準司達一回生は一番後ろに着かなければならない為、三列目のバスに向かった。防衛技能訓練の為に行った時のこの前は一番後ろの二回生、一回生は少し小さいバスに乗って移動していたが、今回は三台とも同じ観光バスのような大型バスのため座席は非常に初めて乗ったバスより快適になっているんじゃないかと見ただけで何となく分かる。大学のバスは観光バスと同じく大きくて窓も高い所にあって準司達の高さから見えなかったが、おそらく大型バスだから中は広いのだろう。
三回生から一回生全員が各三台のバスに乗っていったが、だらだらと乗っていくことなくさっさと乗っていった。あの二つの高層ビル爆破事件で経験したあの事を決して忘れていないからだろう。上級生達も気が引き締まっている。二度とあのような事件がおきてはならないために。
準司達が乗る大学バスもさっさと乗っていき準司もその後を追った。ようやくバスに乗って奥へと進むとやっぱり予想してた通りだった。もう普通の高速バスに乗っているレベルではなかった。まるでホテルみたいな高級の座席で窓も綺麗で大きく、その座席の椅子に座ったらゆったりと寛げるような贅沢な感じになっている。窓のカーテンも真新しい高級な生地に仕上がっていてこれも一流ホテルのカーテンから持ってきたのかというぐらい日差しを遮る時に非常に便利にできている。
準司達三人は前から三列目の席に座ったが準司は左の席に、将吾と葵は右の席に隣同士に座ることにした。
「うわあ、凄い。前に乗っていた時のバスと全然違うじゃん。高速バスに乗ってるみたいね。こんな贅沢な椅子で寝られるって何かいいかも」葵は端の席に座ってふかふかしている椅子に手を置いてみて椅子の座り心地を楽しんでいた。
「だいぶ金かかったのかなぁ。中の部屋も今のアレンジにしたぐらい凄い綺麗だよな。ホントどれぐらいしたんだろう?ね?」準司は右に向いて葵か将吾に聞こうとしたら将吾はまたふわふわしているのが分かった。
「…将吾、大丈夫か?まさか…葵、もしかしてこれ…」
「うん、そのまさかかもね」準司と葵は冷や汗をかきはじめた。
「将吾、将吾!…可愛い女性なら他の人もいるじゃないか。な?宮桜さんも意外と美人だったろ?深島さんも確かに美人だけどそんなことでふわふわしてたら技覚えの訓練苦しくなるぞ…」
「ああ、そうだよ準司!俺仕方がないんだよ。技覚えどころじゃないのは分かってる。でもさ、深島さんのあの顔立ち、とってもべっぴんさんじゃん。あんな可愛い女性と出会えたら妄想膨らむぞ。俺の使い手が草で深島さんも草だし、俺…あの人に恋しようかな?…」
「ああ将吾!駄目だあ!」準司は将吾の肩を揺すぶったが将吾は顔が赤くなってきた。まずい、本気で草盾頭に好きになっている。
「葵、こういう場合どうしたらいい?…」
「いやぁ、私に聞かれてもねえ。うーん。…じゃあさ、深島さんの誘惑に勝てたら私達二人が将吾の好きなグルメ奢るってのはどう?確か将吾、ラーメン好きだったよね?あのラーメン屋さんでご馳走するってのはどう?」葵は将吾が恋より食事が好きだという面もあるためこれなら深島さんへの恋する気持ちが消えると思っていた。すると、将吾の目がハートから一気に覚めた。
「えっ、いいの?葵。濃厚味噌ラーメンセット食べに行っていいってこと!?」将吾はすごい圧で葵にのしかかった。
「ああ、うん、ちゃんと奢ってあげるから。ね?」葵は冷や汗かきながら説得させてあげた。
「よっしゃあああ、ありがとう。準司も奢ってくれるんだよな?…」
「ああ、えっと…うんもちろん奢るよ」準司も冷や汗さらにかいていた。
「分かった。二人とも約束な。技覚えの修業済んだらラーメンご馳走な!」将吾は気持ちがラーメンに変わった。準司と葵はふーっと胸を撫で下ろし何とかなったと安堵した。
「準司、何とかなったね…」
「うん、そうだね。やっぱりあの時から目が覚めてなかったんだね。一度恋に落ちたら後戻りが効かなくなるからね」二人がそう言うと将吾は今度はラーメンに夢中になって目はラーメンになっている。
ようやく副部長でリーダーを担当する丸岡愛実が三台目のバスに乗ってきた。出発の時なのだろう。
「はい、皆さん。工藤部長がまだ入院している最中なので副部長である私が代わりに担当させていただきます、副部長の丸岡愛実と申します。宜しくお願いします」確か高層ビル爆破事件解決から帰還した時に工藤部長がいない代わりに担当していたあの女性だ。小柄でまだ可愛い方だ。
「前回の訓練所に行く途中にしなければならないこと覚えていますでしょうか?バスのカーテンを閉めることと、目隠しをして全く見えないようにすることと、そしてヘッドフォンをして完全に聞こえないようにすることのこの三つを守ることでしたね?大丈夫ですか?」丸岡副部長は前から後ろへ全員を見渡した。
「それではまず窓際に座っている人は全員カーテンを閉めてください。カーテンを閉め終わった後は必ず外に覗いたりするのは止めてくださいね。もしそんなことをしたりして見かけたら退部処分になるのを何度も言いますが覚悟しておいてください。退部処分にされたくないなら私の言ったことを守ってください。では今から目隠しとヘッドフォンを渡していきますので手に取っていってください」丸岡はかごごと目隠しとヘッドフォンを両サイドに渡していきながら前に進んでいった。まるで航空機内のキャビンアテンダントみたいな渡し方になっている。
準司はすぐさま左側のカーテンを完全に見えないように閉めた後に目隠しとヘッドフォンを丸岡から受け取った。そして、準司達三人はすぐに目隠ししてヘッドフォンを耳にかざし全く聞こえないことを確認した。
全員が二つを取り付けていったことを丸岡が確認するとまた前の方に戻ってもう一度確認するために全員に話し出した。
「私から最後の伝言を伝えておきますが、少しヘッドフォンをずらして聞いてください。前に行った時もそうでしたが、着いた時から盾の製造、実験、訓練という順の三つのエリアを渡ったかと思います。今回は訓練だけの予定になっておりますので、訓練所がどこなのか忘れた人でも案内人または盾頭の人が誘導してくれると思います。ですので、迷うことはないので安心して稽古に集中してください」もう時間がきたことを丸岡は腕時計を見て次に進むことにした。
「それではもう時間がきましたのでカーテンは閉じたまま、目隠しは着くまで外さないこと、ヘッドフォンも着くまで外さないことのこの三つを必ず守ってください。では今から出発しますので私は一番前のバスに乗ってきますのでまた向こうに着いたらまたここのバスまで来ますので私が来るまで待っておいてください。では今から出発します」運転手さん、お願いしますと丸岡が運転手にそう言って外に出たのが聞こえていた。準司はヘッドフォンを再び耳にしっかりと取りつけた。何にも聞こえなかった。
ただ、盾頭が案内しにくると丸岡が言っていた時に将吾がどんな反応したのかが何か気になった。ここから先は周りの音を聞いたりや景色を眺めるのは禁じられているが少しだけ将吾の方にそっと目隠しを少しだけ開けてみた。将吾のあの姿はまさか…将吾は上を向いて何か考え事をしている。まさか逆戻りしたのか、それともラーメンに夢中か。修業をしに行く時だというのにこっちも集中するのができなくなってきた。本当ならそこまで気にしなくていいのに何故か将吾が心配になってきた。準司は目隠しで完全に隠し、しばらくして三台目のバスが動き出した。




