覚悟の部会
桐原達、上木達、工藤部長を抜いてそのメンバー達全員マスコミから必死に逃げて研究室に向かって走って行くとマスコミの人達は建物の中に入ることができずその手前で止まった。通りすがっていた女子大生や男子大学生三人や女子大生数人達も報道陣達が道保堂大学に来ていることにびっくりして、スマホで撮影したり思わず逃げたり感動してカメラを撮ったりしてますますお祭り騒ぎみたいになってきていた。
大学教授や大学のトップの人達だろうか、上の人達も何事かと慌てて止めに来て「止めてください、帰ってください!」と報道陣達に事情を聞いていた。
「事情につきましては後日お伝えしますのでとりあえずお帰りください!…」
「後日っていつなんですか?これも仕事なので帰れませんが」マスコミの人達も負けていなかった。
「ですからいきなりのこの騒ぎですので、急なことはすぐにはお答えできません!準備が出来次第にまたお伝えしますのでそれでいいでしょう?一体この騒ぎは何なのですか?…」
「大学側も聞いてないのですか?ヴィジョン教授の弟子達や関係者達がイナズマ団幹部二人を捕まえることに成功したという報道について知らないのですか?大学の皆さんは事の重大さは分かっていないのですか?」
「ヴィジョン教授ですか?」
「そうです!」
マスコミの人達の熱気は凄かった。イナズマ団幹部二人を捕まえたことに協力したという結果にマスコミの人達皆すぐにでも聞きたく張り切っている。
「その事についてはヴィジョン教授を連れてきてから話を後日に連絡致します。ですので今日の所はとりあえずお帰りいただけますようお願いします…」
「この日に一番重要な仕事を成し遂げたんでしょう?後日ってこの日のことをすぐにでも報道しなければイナズマ団撲滅に繋がらないと思います!それでも受け入れられないのでしょうか?」まだこの騒ぎは続いている。大学の責任者も呆れてどうすればいいか戸惑っている。ヴィジョン教授を呼んだ方がいいのか考えたがいきなりのこの騒ぎのためこの場から立ち去るわけにもいかなかった。と、その時だった。
「待って下さい!」後ろからヴィジョン教授の声が聞こえた。服も含め火災の消火を手伝っていたのか、顔も体全身も真っ黒になっていた。あまりの酷い格好だったので皆マスコミも大学関係者も「えっ?」という顔をしていた。
「ヴィジョン教授ですか?ちょうど良かった。イナズマ団幹部二人を捕まえたことについてお聞かせください!その格好はその場にいた証拠ですか?」マスコミはヴィジョン教授本人が来たことですごく興奮しながら次々質問した。
一方ヴィジョン教授の研究室の中は、文京区の高層ビルに行って救出とイナズマ団捕獲を行っていたグループと合流するため、江戸川区の高層ビルの救出チーム皆息がきれても小走りで研究室に向かっていた。
ようやくヴィジョン教授の研究室にたどり着いた。江戸川区の高層ビル爆破事件の救出とイナズマ団捕獲を終えて桐原や上木達が研究室に無事に入ってきたので文京区の高層ビル救出チームも「あっ、江戸川区のビルの救出チーム帰ってきた!良かった!」と皆一斉に桐原達に振り向き無事帰ってこれたことに安堵した。
「みんな帰ってこれたけど真っ黒になったな。俺たちもそうだけど…あれ?工藤部長は?」文京区の高層ビル救出チームの一人は工藤がいないことに気づいた。
そのことに桐原が説明した。
「実はね、私と上木君と工藤部長と三つに別れて消火活動したり、イナズマ団捕獲をしていて、途中で工藤部長が先頭になってイナズマ団捕獲に回ったんだけどそれが…」桐原は下を向いた。
「ん?どうした?」三回生の下田という文京区の高層ビル救出チームのリーダーの一人の男子が聞いた。
「イナズマ団幹部の一人の禳正人という男と戦ったみたいだけど負けて工藤部長は大怪我をして捕らえられたの。その禳という男を逮捕できた後に救急車に運ばれて今緊急治療を行っているの…」桐原がそう話すと皆誰も話すことができず黙ってしまった。皆一斉にシーンと静まり返っていた。
「部長が、大怪我を負ってる?それって大変なことになってるのか?」下田は心配になって聞いた。
「いや、そこまで大変な事態じゃないけど、ただイナズマ団にケガを負わされて酷い傷ができたみたいだけど、意識はあるからそこは大丈夫よ」桐原が説明すると他の皆は良かったとほっとした。一時はどうなるかと本気で思っていた。
「良かった。あまり怖いこと言えないけど大変だったらどうなっているのか不安が走ったよ。工藤部長だからイナズマ団と戦ってるとしたらいろんな秘策を立てて戦えてるかと思ってたけど、それもできなかったということか」下田は今回の爆破事件をおこした二人のイナズマ団幹部が一番下のランクだというのに工藤さえ勝てなかったことを知ってまだ捕まえていない残りのイナズマ団とそのボスと戦うとしたらこれからどうなっていくのか不安な顔色になってきた。
「ただ私達の班も、江戸川区の高層ビルの救出とイナズマ団捕獲をしていたけど火災に逃げ遅れて亡くなられた人達もいたの。あれは本当に可哀想だった。もう一息早く救出をしていたらと思うと本当に悔しくて…」
「桐原さん、それさっき話したじゃん。もうあれは本当に残念だったけど、みんなは悪くないって。だから俺たちはイナズマ団を必ず捕まえることに集中しただろ?」そばにいた上木はもう一度慰めた。
「そうか、そんなことがあったのか…それは確かに悔しいな。俺たちの文京区の高層ビル救出でも火災が酷かったけど、消火をしても火の勢いがすごかったから確かにこっちも同じ経験をしたな。あの火の煙で一酸化炭素中毒で倒れていた人達もいたから救急と消火は必然だったな…」
「そっちの文京区の高層ビルの方は皆全員無事だったのか?」桐原のチームにいた増田も聞いた。
「いや、残念なことがこっちにもおきた。…亡くなった人もいたのは嘘はつけない」文京区の高層ビルの救出チームのリーダーの一人、瀬戸川洋が事情を話した。
「まさか…その一酸化炭素中毒で…」
「ああ、それが原因だってその場にいた救急の人が言ってたな」増田が聞いたのを瀬戸川はそう返した。
そう話しているうちにカタンコトンと足音が聞こえてきた。たぶんヴィジョン教授とその他の皆全員の部員だろう、だんだんと駆け足で向かってきているのが分かる。
「ヴィジョン先生かな、とりあえず席に着こう」瀬戸川は桐原達にもそう慰めてあげるかのように片手で机に指図した。
桐原達はその通りに聞いて自分の机椅子に向かう時に丁度タイミングが重なるかのようにヴィジョン教授とその他の皆上の人達が入ってきた。工藤が不在の中で代わりに文京区の高層ビルの救出をしていた丸岡愛実が部長の席に座った。
「君ら本当に待たせたね。先程マスコミの人達が質問してきたため、記者会見を数日後に行うと私から発表した。イナズマ団幹部二人を捕まえたことに皆すごく盛り上がっている。私から発表したことでマスコミの皆は帰って行ったがまだ残ってカメラに向かって女性記者達がテレビと中継をしている」服も顔も研究室にいる皆全員ヴィジョン教授や辰准教授も含め真っ黒に炭がついている。
そして江戸川区の高層ビルの救出チーム皆が気づいたが、こっちの方もそうだが、向こうの文京区の高層ビル救出チームの数人達がここにいない。ということはその数人達は近くの病院に救急車で運ばれたんだろう。
「皆もお気付きかと思うが空席があるのが目立っているのが分かるだろう。文京区の高層ビル救出チームと江戸川区の高層ビル救出チーム両方ともイナズマ団によって怪我を負った者達だ。両方とも私から二人の盾頭を呼んで救出をお願いした。この二人がいなかったら君たちは危ない目にあっただろう」ヴィジョン教授は少し間が空いた。
「君らもここに帰ってこれたのは本当に良かった。私も文京区にいたから江戸川区の高層ビルの方はどうなっているのか心配していたが、帰還できたのは本当に良かったと思っている。…そしてその真逆のことも伝えておかないといけない」ヴィジョン教授はあの時の厳格な表情を再び顔に出した。
「これがイナズマ団との戦いなんだ。あの悪党はいつどこで何をしようとしているのか我々も情報がないため何をしてくるのか分からないのも事実だ。今回捕まえたこの二人は十四番目と十五番目の幹部だと言われている。実はイナズマ団の幹部の中で一番下の位だと言われている。つまり…」ヴィジョン教授の説明に皆も緊張感がますます出てきた。
「…それより上にいるイナズマ団はまだいくらでもいるということが分かる。一番上から一番下まで全員で十五人いるということも分かっている。その中で一番上の幹部はナンバー五からナンバー一の五人、残りのナンバー十からナンバー六は中間の位で五人がいることが分かる。そしてその下がナンバー十五からナンバー十一と分かる。そのうち十五番と十四番が欠けたため十三番から一番まで残っていることがこれで分かったのだ」最悪な事柄がヴィジョン教授から聞いていると真剣に聞いている人もいれば、顔が真っ青になってきた人もいれば、顔を下に向いた人達もいた。
「つまり私達は十三人の幹部とボスの神威の十四人を捕まえなければならないということだ。この人数はかなり多いと思うが、それでも覚悟を深めるしかないのだ。私は、最後にボスの神威と戦うのは必須になってくるだろう。あの者との因縁をここで絶ち切るために」ヴィジョン教授が大事な話をしていると夕日の灯りが雲が動いていくためにすごく照らされていた。夏の暑さも景色もあの時の過去の懐かしさを感じさせる。
「君たちも本当によく頑張った。残りのイナズマ団対策について前に見物しにバスで行ったあの時のように防衛技能訓練を続けてほしい。そして、新たに盾の様々な技を習得してもらう。それはまた後日連絡する。今は皆体を治す時だ。ゆっくり休んでくれ。私の記者会見は何も心配ない。テレビに映るがまあ見ていてくれ。…それじゃあ解散するとしよう」
ヴィジョン教授が解散を言っても帰っていく人は数人しかいなかった。やっぱりイナズマ団のことですごく気になっていたからだ。…それだけの人数の上、あの十四番と十五番でも強かったのが分かるのにそれ以上にもっと強いのがまだいるということだ。そのことを考えると椅子からほとんどの人達は立ち上がれなかった。
ほとんど絶望に近かった。どうやって倒すんだ?それだけ覚悟を深めないといけないのか?…もう少し時間がほしい。ほとんどの人がそう思っていた。
準司と将吾と葵は互いに向き合った。この高層ビル爆破事件の救出を経験して何かが強くなった気持ちもあれば次に備えなければならない覚悟もじわじわと感じてきていた。
「皆さんが回復できたら伏竜さんも言ってたように技を習得していかないといけないって言ってたよね?それがイナズマ団を倒す秘策ってこと?」葵は確認したくて聞いた。
「そういうことだな。タイプが分かったらその次にいろんな技を習得していかないとな」準司は復唱した。
「よほど体力も鍛えていかなきゃならないんじゃない?このクラブ、体育会系のクラブなのかもな」将吾も若干不安だったが他のクラブとは違って大変なことをやらないといけないことを工藤が厳しく言ってた理由がこれで分かったような気がしてきた。
準司はなぜか窓の向こうの景色を見ていた。何かこの夏の夕方の快晴を見て昔の小さかった頃の懐かしさに癒されていた。
夕日が沈みそうな時間にさしかかってきた。地下深い所にいくつかの部屋があり、その中でボスのお気に入りの豪華な部屋で次なるボスからの命令に従った最後の下級幹部となった黒井和希はボスの神威の前で座って深くお辞儀をしていた。
「さあ、時が来たようだ、黒井。お前の仕事は…皆殺しだ。イナズマ団の威厳を再び取り戻す時だ。それができればお前の位の昇格を保障して差し上げよう。そして、新たな下級幹部を設置してやる。お前のおかげで一つの仕事で二つの褒美が手に入る。一石二鳥じゃないか。今後の活躍を期待しているぞ。さあ、黒井。行きたまえ。あっ、それともう一つ忘れるなよ」黒井は立とうとした時、神威が忘れそうになったことを逃してはならないと止められた。
「あの青年のことだ。…三田原準司という男だ。黒井、分かっているな?」黒井はだんだんと笑みがこぼれもう一度正座し、直ぐ様お辞儀をした。
「神威様、その男子のことはこの黒井にお任せ下さい。必ずや私の罠に引っ掛かれるように工夫して参ります」黒井は頭を下げたまま神威に伝えた。
「おお、そうか。ならば行くがよい。その男子を捕まえてここに連れてくるもよい。それもできたら上級幹部の九番目にまで昇格をして差し上げよう」
「はっ、ありがとうございます!」黒井はもう一度正座しながら深くお辞儀をし、立った後も深々とお辞儀をしてから神威のお気に入りの部屋から外に出ていった。
外に出た黒井は黒井の部下の数十人に向かって命令を出した。
「いいかお前ら。たった今から神威様から新たな仕事を任せられた。次なる標的に向かい、神威様の言われた通りにできれば俺たちの昇格を保障してくださる。上級幹部に入れるのだ。皆も大いに励むがいい。それともう一つ、三田原準司という男を捕まえるかそれとも殺すか、その命令も下された。いいか、言われた通りに大いにやれ!」黒井がそう言うとしたっぱのイナズマ団数十人は大きく返事した。黒井はイナズマ団数十人を冷静にじっと見つめていた。
日が暮れそうになってきた時間、準司達三人は文京区の高層ビル救出に行っていた二回生の大田原先輩達三人と他の仲間達と帰り道を下っていた。準司達は救出しに行っていた江戸川区の高層ビルのことについて話していたり、大田原先輩達は文京区の高層ビルのことについて話していた。大田原先輩達も顔と服が真っ黒の炭だらけで事件が終わったことの喜びを語り合っていた。
通りすがっていた他の人達はヴィジョン教授の弟子達を見て何であんなに炭だらけになってるのかと「えっ!?」とびっくりして全員をじろじろ見ていた。
「まあ、今日という日はいろいろと大変だったな。ただイナズマ団の二人を捕まえられたのは一歩前に進んだって感じだな?」大田原は飲み会の続きの会話のように明るく話した。
「俺たちイナズマ団にやられそうになった時にギリギリになってあの花の盾頭という女性に助けられたから無事で済んだけど、他のみんなが可哀想だよな。イナズマ団に傷を負われたメンバーが今大丈夫か心配だな…」
「ちなみにその花の盾頭という女性の人は名前何ていうんですか?」珍しく葵が聞いた。
「ああ、名前?確かあの女性の名前は宮桜綾菜っていう名前だったな。ほとんど宮桜さんの活躍で消火と救出と捕獲全部やっていたから俺たちが逆に助けられてしまったな。俺たちも助けにいかないといけなかったのに何もできなかったな…」
「だよな。俺も消火を手伝ってたけどあの人尋常じゃないよな?慣れてるからかもしれないけどその場で治療を手伝ってたし、医者の人かな?」隣にいた桐林が聞いた。
「いや、あの雰囲気看護師の人じゃね?じゃないと医療専門だったらすごい治療をあの場所でやってるはずだろ?でもあの女性簡単な治療をしてたからそこまでの医者レベルじゃないかもな」その隣の須田も予想して話した。
「その花の盾頭さんは今どうしてるんですか?」今度は将吾が聞いた。
「いや分かんないな。俺たちのチームの中でイナズマ団に傷を負われた人は全員救急車に乗せられて国立病院に向かった後もう仕事に戻るのでと言って車で帰っていったぐらいしか見てないかな」大田原はその時のことを詳しく話した。
皆が黒焦げの炭だらけに皆はなりながら大田原先輩達三人のそばにいるだけで元気になれる話を聞いて明るくなるような気持ちに高まってきたような気分になったその時、準司は何か嫌な予感を感じとり自転車を急に止めた。
…何だろう?この不気味な嫌なこの予感。…まさか…。
「おい、準司。どうしたんだ?何かあったのか?」将吾が聞くと皆二回生達全員も葵も会話を止め準司に振り向いてじっと見つめていた。
「あっ、いや。何もないよ。…すみません、何か急に会話を止めたりして」準司は謝った。
「いや、全然大丈夫だよ。…それでさ…」大田原は続きの話をしてまた皆が元気になった。
準司は感じとっていた。まさかこの動き…イナズマ団の何かが動き出している。イナズマ団幹部の二人を捕まえたことからその報いなのかもしれない。油断をしてはいけない。奴はまた次にどこかで事件をおこすかもしれない。皆についていきながら声に出さず心の中でそっとそう思いながら夜の手前の景色の中で準司は自転車を押していった。




