辰和也准教授とヴィジョン勇一教授
下り道を歩いている最中に将吾は準司に聞いた。
「…なあ何で今言えないの?」
「何が?」
「今さっきの話だよ。もし何か関係があるなら目の前で言えば良かったのに」
「いきなり言ったとしても理解できなければ通じないだろ?」
「まあそうだけど大事な話ならあの人に隠す必要なんかないんじゃない?その中身は何なのかは俺も分からないけど」将吾がそう言っている時あることに気がついた。
「あっ…そういえば」
「ん?」
将吾は鞄の中から取り出した。
「しまったあ、葵に返すの忘れてた。前に貸してくれた授業ノートなんだけど」将吾は悔しがった。
「また今度にしたら?」準司は言った。
「いやでも…しょうがない、ライン電話入れよう」
「…ん?あれ?でないなあ。今日バイトないはずなのに」
将吾がおかしいなあと言うと準司も違和感に気づいた。
「…通じないの?」準司は聞いた。
「そうみたい。いつも電源入れてるらしいけどおかしいなあ」
そう言っているその時、後ろから男の声が聞こえた。
「おーい!そこの君たち!」
準司と将吾は後ろを振り向いた。怪しいサングラスかけた男を追いかけていた准教授だ。二人は会ったことはないが見かけたことはある。
この准教授は走り続けてハーハーと息が切れている。
「すまない、君たちに用があって…大変なことがおきているんだ」准教授は息を切れながら必死に話す。
「えっ?…何かあったんですか?」将吾が聞いた。
「すまないがもう一回大学に戻ってきてくれないか?君たちと関係があるんだ」
「えっ?本当ですか!?葵がイナズマ団に連れ去られたって?」将吾は准教授に質問した。准教授を先頭に三人は小走りしながら准教授の部屋に入った。時間は夜になる手前の薄暗い時間になっている。
「ああ、今さっき見たんだ。この目でな」准教授は鍵をあけて電気をつけながら言った。
「今すぐに警察に言った方が」将吾は冷や汗かきながら言った。
「わかってる。だがその前に君たちに言っておかなければならない」身長の小さいこの准教授は探し物を探しながらそう言った。
「えっ?それは何ですか?」将吾が答えた。
「…君たちは確かにまだ二十歳になっていないがこれだけは持っていってほしいんだ」
「持っていく?何を?」将吾は聞いた。
「失神拳銃と護身盾と防具あとそれから…」
「ん?何を言っているんですか?」準司が質問した。
「君たちの友達を助けるなら君たちもそこへ乗り込んで戦うしかない」准教授は覚悟をふりしぼってそう言った。
「えっ!?…ちょっと待ってください。俺たち…戦う?」
準司は焦って答えた。
「ああ、そうだ。イナズマ団を相手に」准教授は言った。
「ええええっ!?そんな俺たちが戦いにいかないといけないんですか!?」将吾はあまりの驚きに隠せず動揺した。
「他にも警察がのりに行くつもりだ。銃撃戦に備えて護身盾で身を守れば簡単に死なないはず」
「でも…下手したら」将吾は聞いた。
「下手したら?…死ぬんじゃない?」准教授は冗談に言った。
「えっ!?」
「いやそんな簡単に言わないでくださいよ」
二人は驚いてから準司は慌てて言い返した。
「ごめん、今の冗談だよ。護身盾と防具があればたまにあたったとしてもはねかえせるぐらい身を防ぐことができる。そのおかげで恐れることなく堂々と戦えるんだ」准教授は自信持って言いきれた。
「はあ…でもそれらの道具はどこに?」二人は顔を見合せながら将吾は聞いた。
「ここにある」准教授は開発したその失神拳銃と防具を二人に見せた。二つを二人にそれぞれ准教授は渡した。
「失神拳銃といって普通の銃は一撃くらって死ぬことになっているが、この拳銃は一撃くらうと気絶するようになっている。だからたとえ自分が相手に撃ったとしても相手が眠るだけで死にはしないんだよ」
「すげえ」準司は感動した。
「そして、これが防具。これがないと戦える余裕がない。これを服の中に取り付けておけば大丈夫だ」
防具は首まで覆われている。
「あっ…ありがとうございます」準司はお礼を言った。
「…ところで護身盾ってどこにあるんですか?それらしきものはなさそうですけど」将吾は質問した。
「実はだな、このことについても君たちに課題を付け足す感じだけど…ここにはないんだ」
「えっ?じゃあどこに?」将吾が聞いた。
「…ヴィジョン教授のところにある」准教授は答えた。
「えっ?…ヴィジョン教授ってあの教授のことですか?何か関係があるんですか?」準司はすかさず聞いた。
「ああ、そうなんだが今大学に戻ってなくて電話をかけても通じないんだ。一体どこに行ったんだか…あの人の許可がなければ…」
「どこにいるのか分からないんですか?今すぐ会えないんですか?」準司はあまりの期待に准教授の両肩に手をのせて揺らした。
「ああちょっと待って。落ち着け。私も探しているところなんだが…しょうがない、ついてきてくれ」
三人は小走りで階段を下ったり廊下を小走りしながら目的の場所へたどり着いた。準司と将吾は来たばかりの部屋に思い出していた。
「ここってヴィジョン教授の研究室じゃ?」将吾は言った。
「そうだよ。えっ?君たち知ってるの?」准教授は聞き返した。
「はい、今日の夕方に来たばかりなんです」将吾は説明した。
「相当解りづらかった?」
「そうでもなかったですけど」
「そっか」
将吾と話している最中に准教授は鍵を取り出した。
「ごめんなさい、教授、今はそうするべきなんで」
准教授は一度一礼してドアの鍵を開けた。
開けたと同時にすぐさまドアを開けて入った。
「ええと…どこだ?」
がさがさと物音たてている中でしばらくして准教授はようやく見つけた。
「あっ、あった!」
准教授は3つの護身盾を二人の前に持ってきた。よく見るといずれも丸い形になっている。
「これが、護身盾?」準司は聞いた。
「でも…何ですかこれ。ガラスみたいですけど」将吾も分からないことを聞いた。
「そのガラスみたいなものが身を守るための盾だ」
「えっ、でもこんなに小さいんですか?」準司は聞いた。
「ちょっと貸して」准教授は護身盾を持つと慣れた手つきで機械を動かした。するとガラスみたいなところが反時計回りに素早く回転し護身盾が大きくなった。
「おお、大きくなりましたね。回転しながら盾が大きくなるんですね」将吾は感心した。
「ここを押すだけで大きく広げたり、小さく縮むことができる。いつでも大きさが一緒のまま盾を持ち歩いていると疲れるだろ?」准教授は説明した。
「確かに…なるほど」準司は理解した。
「すげえ、ここまで計算して開発したなんて」将吾はまた感心した。
「さて、本題はここからだ。今入ったニュースで奴らは国立公園にある図書館で周りを監視しているらしい。奴らの目的は何なのか分からないけど一回生の女の子はその建物の中に閉じ込められてるみたいだ」准教授はいつの間にかスマホを片手に持ちながら二人に速報のニュースを見ながら二人に説明した。
「えっ!?閉じ込められてる?」準司は衝撃を受けた。
「そこでだ、奴らに見つからないようにこっそり入ってその一回生を助け出すんだ。奴らに見つかりそうまた見つかった場合失神銃で気絶させておけばいい」
「なるほど、気絶している隙間に葵を探し出せばいい」
準司は言い換えて理解した。
「君たちに申し訳ないがただ慎重に気をつけろ。ここまでで何か聞きたいことはある?」
准教授が聞くと将吾は真っ先に聞いた。
「別な意味ならですけど…先生は誰なんですか?」
「おっとすまない。忘れてたな。辰和也って名前だ。前まで教授だったけど今は准教授として勤めている」
辰准教授は説明すると準司も質問した。
「あの、僕からもですけど…僕ら二人が戦いにいくしかないって…先生はどういう意味でそんなことを?」
「また後で君たちに言うけど本当は何かしら関係があって言ったんだ。ヴィジョン先生もそうだし君たちもそうだし」
「関係があるって?」準司は聞いた。
「すまない。そのことは後で話そう。皆さんが集まってからの方がわかるから。俺も今すぐ警察に連絡してすぐさま現場まで向かうんで。あとそれと、俺の情報を受け取ってくれ」
辰准教授と二人はスマホを片手にラインのアプリを開いてお互い情報交換をした。
「君たちはこの護身盾と失神銃と防具をここでとりつけておこう。俺も3点セットを身に付けるから」
「辰先生も図書館に?」晨准教授が説明すると準司は聞いた。
「そうだよ。図書館の中に関係者や利用者がまだ残って立て籠っているはずだから俺も救出にいかないといけないからな。よし、とりつけ方今から教えるから」
三人が外に出るともう夜になっていた。三人は防具を身に付けて盾を左手に失神銃を右手に持つ格好になっていた。小走りで大学から外に出て国立公園にある図書館に行く途中で辰准教授は二人に向きを変え説明した。
「二人はこの道を走ってくれ、こっちの道の方が近道で早いから。それに図書館に行く時、裏側に回れるから奴らに見つからなくて済むぞ」
「そうなんですね、わかりました。辰先生はこっちの道に行かないんですか?」準司は質問した。
「そうだね、僕はあっちの道を通るよ。他にやることがあるからな。人質の解放の道筋をたどらなきゃならないし」辰准教授は説明した。
「大変ですね」将吾は言った。
「まあ二人には安全を考慮したいからな。」辰准教授は二人を慰めた。
「じゃあ先生は大丈夫なんですか?イナズマ団に見つけられたりしたら大変なんじゃ?」準司は心配して聞いた。
「それも秘策をたてておいてるから大丈夫だ。なるべく見つからないようにこっそり入って行くから」辰准教授は余裕を見せた。
「それじゃあ時間がきたな。二人も気をつけて行けよ。後で図書館の裏口に集合だ」
「はい、辰先生も気をつけて」準司は心配して言った。
「ああ、じゃあまた後で会おう」
「はい!」二人は返事した。
そして準司と将吾は左の道に、辰准教授は右の道にそれぞれ小走りで行った。
夜中の道を電灯が灯しているため何もいらずに済んだ。準司と将吾は辰准教授の言われた通りの道を小走りで走っていた。坂道を過ぎ去ると真っ直ぐに道路は通っていた。
「あの図書館に行くには、このまま真っ直ぐだったよな?」準司が将吾に聞くと将吾は返事をした。
小走りを続けて前を見ると赤いランプが光っていた。おそらくあれはパトカーだろう。警察官が二人立っている。
準司と将吾が走っているとようやく警察が気づいたようだ。
「おい、そこの二人、何をしてんだ?」
気づかれた時、準司と将吾は緊張が走った。
「うわ、やべえ警察だ」将吾は聞こえない程度でつぶやいた。
「すみません、俺たちここから先進まないといけないんです。通してもらえますか?」準司は危険も承知で警察官に言った。
「ここから先は立ち入り禁止になっている。ついさっきイナズマ団が現れて図書館を囲んでいる」一人の警察官が説明した。
「ええ、知ってます。だから助け出しに行かなきゃならないんです」準司もそう返した。
「何バカなこと言ってんだ?警察が慎重に動いているから警察に任せておけばいいじゃないか?」もう一人の立っていた警察官が怒った。
「ですが、中に同級生が…」
「待て!」
皆が一斉に振り向いた。身長が高く肩幅も広く鼻の高い男前な美男がこちらに向かって走ってきた。黒いボタン付きの襟付きの半袖に白いズボンに高額のしてそうなダイヤモンドの入った黒いベルトを身に付けていた。
待て!の言葉が英語で話したように聞こえた。
「ここで何事ですか?」今度は日本語だが、外国人が話しているような話し方だった。
「おお、これは世間で評判になっているヴィジョン勇一先生ではありませんか」
警察が話すと準司がつい口に出した。
「えっ!?ヴィジョン先生!?」
「教授、この者たちがこのエリアに入ろうとしているところを私たちが止めに入っているんですが…」
「先生、急なことですけど俺ヴィジョン先生に会いたかったんです。いろいろと話をしなければいけないと思って」準司は必死に説得したが、ヴィジョン教授の反応を待った。
「…誰だ君は?」
今度は英語でヴィジョン教授は話した。
「道保堂大学理学部サイエンス学科にいる三田原準司と言います」英語お構い無しに普通に日本語で準司は話した。
「ここに来て何のようだ?なぜここに来た?」ヴィジョン教授の英語についていけるかそばにいた将吾は心配して聞いた。
「中にいる同級生を助け出しにここに来ました」準司は説明した。
「…何?」ヴィジョン教授は英語で聞いた。
「俺の仲間です。学部も学科も同じで」準司は続けた。
「君が助けに行くのか?今どういう様子なのか分からないまま図書館に行くつもりなのか?」
「状況なら知ってます。前に辰准教授から武器を手渡されて…」
「武器を?…辰准教授に手渡された?」
「はい、この通り」
準司は両手を広げてヴィジョン教授に見せた。
するとヴィジョン教授は呆れた顔をしてため息をついた。
「あの先生も無茶なことを。イナズマ団を相手にして遊びに行くのと意味が違うんだぞ、ミスター三田原。今日になって急にイナズマ団が現れたという時に君たちが行くなど前代未聞だ」
「確かにおっしゃる通りだと思いますけど、今はそうするべきなんです。…先生、またお目にかかりたいですけど、ここだけは許してくれますか?」
準司が言い終わるとヴィジョン教授はうーんと言って暫く黙りこんだ。
「…その代わり奴らもそう簡単に甘く見てないぞ。君たちに戦闘能力があるのか知らないが、危険な状況にそれでも行こうとするのか?ミスター三田原」
「はい…でもそうするしかないんです。ただ…不安はありますけど」
ヴィジョン教授はまたうーんと言った。
「本当を言うなら警察に任せておくべきなんだが…図書館に警察も向かっているのですか?」警察にはヴィジョン教授は日本語で伝えた。
「はい、もちろんです。図書館の周りを囲んでいます」
ヴィジョン教授はうーんと考え込み暫くして口を開いた。
「…後で私も駆けつけに行く。だが警察に頼むようにはしろ。助ける気持ちは分からんではないが要領よく行けよ。どうしても中に入りたいならその武器を有効に使えるようにはしておけ。警察と共に中に入るように工夫をするのも忘れるな」
準司と将吾は、はい!と大きく頷いた。
「すまない、この二人を通してもらえますか?私が責任を持ちますから」ヴィジョン教授は警察に日本語で伝えた。警察二人は顔を見合わせてから「わかりました」と言った。
「二人とも気をつけて行け」ヴィジョン教授は日本語で準司と将吾に言った。
「はい、ありがとうございます!」準司が感謝を伝えた。ヴィジョン教授と警察二人が道をあけると二人はお辞儀をしてすぐさま走った。
ヴィジョン教授は暫くして二人を見据えた。