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真の嫌者になりたくて!  作者: 箱好鐘
一章 血濡れ王子
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アベリア魔法大国


「ここがアベリア魔法大国だ。凄いだろう?」


 僕たちの目の前には、巨大な建造物が聳え立っていた。白を基調とした円形の外壁に、青色のラインが入った大きな塔がそびえ立っている。そして、その中央には巨大な穴が空いており、そこからは夥しい量のマナが噴き出している様子が見て取れた。どうやら、あれがこの魔法大国アベリアを象徴する『マナホール』のようだ。


「あの穴は何のためのものでしょうか?」


「ん? ああ、あれはマナを供給するためのパイプで、人で言うマナの道筋のようなものだ」


「とても……壊し甲斐がありますね……」


「ん? 何と言った?」


 僕は誤魔化すようにして笑って見せた。ロイシュレインは少し訝しげな表情をしていたが、すぐに笑顔を取り戻すと僕に手を差し伸べてきた。



「僕はね。我が祖国のことをとても誇らしく思っているんだ」


 そう言って笑う彼の顔はとても晴れやかなものだった。僕たちはかなり高い所にいるようだが、それでもなお眼下に広がる魔法大国を眺めながらロイシュレインとともに歩くこととなったのだった。


 道中、杖に乗って空中散歩を楽しんでいる人々をたくさん見かけたが、それもそうだろう。この魔法大国はその名の如く、沢山の島や小島が浮遊しており、その上に建造された国なのだ。だから移動方法もテレポートか空中浮遊しかなく、魔法技術が発展しているのは当然の帰結である。


 言うなれば空に浮かぶ国と形容すべきだろうか。そんなことを考えていると、いつの間にか僕たちは巨大な門の前に到着していた。


「ここがアカデミーさ。さあ、中へ入ろうじゃないか」


 僕は頷いてから扉を潜ったのだった。門の先には立派な建物が並んでおり、そのどれもが白色で統一されているようだった。そしてその先に見えるのは大きな城のような形をした建築物であった。それは遠目からでも存在感を示しており、まさにアカデミーですらこの規模であるからにして大国だということを如実に物語っていた。


「エトラさまぁぁああ」


 聞き慣れた声がしたのでそちらを向くと、ルシウスが僕の元に走り寄ってきた。


「今までどこにいたんですかぁ!! 探しましたよぉ! 何か問題を起こしていないのか心配で心配で!!」


「お前は僕の母親か」


「だって、エトラ様ったら本当に突拍子もないことをしでかすんですもの……」


 そう言ってしゅんとするルシウスだったが、次の瞬間には顔を綻ばせて僕に抱き着いてきた。他者から見ると、なんて仲良しなんだ、というような微笑ましい光景に見えるだろうが、実際にはルシウスが僕のことを嫌いと知っている身としてはなんとも言えない気持ちになるものだ。


「ははッ、彼が付き人かね? 随分と仲が良いものだな」


「貴方様は?」


「彼は僕に道案内をしてくれたロイだ」


「なんと! ロイ様がエトラ様をここまで送り届けてくださったのですね。ありがとうございます」


「いやいや、私も久しぶりに話が出来て楽しかったよ」


 そう言ってロイシュレインはにこやかに笑っていた。そんな彼を見た僕は少し違和感を覚えたのだが、その正体はすぐに判明した。彼のマナの流れに乱れが生じていたのだ。


「それにしても豪胆な人間だな。ますます気にいった! カインズの血統を受け継ぐ者よ。また会おう!」


 それだけ言うと、ロイシュレインはその場から消え去ってしまった。移動した、あるいは一瞬で違う場所に転移するなど、もはや常軌を逸していると言える。しかもそれを平然とやってみせるとは、一体どれほどの経験を積んでいるのだろうか? 


 もしかすると、僕以上の実力を持っているのかもしれない。まあ今はそんなことどうでも良いか。


「ささっ、エトラ様。アカデミーの入学手続きを済ませてしまいましょう」


「そうだな」


 僕らは建物の中に入ると受付に向かった。そこにはたくさんの人たちが並んでいたが、この僕が列の後ろに並ぶなどあり得ないことであるからして、当然後ろに並んでいる奴らは僕を奇異の目で見てくるわけだがそんなことは関係ないのだ。僕は僕のしたいことをするだけであり、そこに遠慮などという無駄なものは存在しないのである。


「あのエトラ様。私たちは貴族専用の窓口ではなく、一般専用からになりまして……」


「なんだと? あんなにも人が多いというのにか?」


「……はい。申し訳ありません。ですが、規則ですので」


「チッ、仕方ないな。さっさと終わらせるぞ」


 僕がそう呟くと、ルシウスはホッとしたような表情を見せたが、残念ながらそれは勘違いというものだ。


 むしろ、僕のこの感情は加速し、怒りの感情へと昇華されていく。


「僕の行く手を阻むことは万死に値する。どけ、愚民ども。覇道を歩む僕の前に立ちはだかるな」


 そんな僕の発言に周囲の人間は騒めき立ったのだが、当の僕は全く意に介さず堂々とした立ち振る舞いを見せるつけるのだった。


「エトラさまぁ……もうお願いですってばぁ……。事あるごとに問題を起こさないと気が済まないのですか……」


 ルシウスはもう既に半泣き状態であったが、そんなことを気にするような僕ではないし、何よりもこの程度のことで泣いているようじゃ、今後に苦労するのは目に見えている。


「おいお前。さっきは貴族専用のところで手続きをしようとしていたようだが、どこの家の者だ?」


 突然話しかけられたためそちらの方を見やると、数人の男たちが僕らを取り囲むようにして立っていた。服装を見る限り、貴族の類なのだろう。


 彼らは僕とルシウスを舐め回すように観察すると、ニヤニヤとした笑みを浮かべ始めた。


「平民のくせに貴族専用の受付手続きをしようとするとは不敬にも程があるぞ。しかも堂々と貴族を追い越した上に、今度は一般の人にまで巻き込む始末ときた。こんな礼儀知らずは初めてお目にかかったぜ。調子に乗るなよ?」


「まったく、最近のアカデミーにくる平民は常識も知らねぇのか? いや、知ってはいても守る気はさらさらないってところか。付き人といい、身なりだけは一丁前にかっこつけやがって」


 彼らの口ぶりを聞いて、おおよその察しがついた。大方、こいつらは身分を盾に威張り散らしたいだけの小物だということだ。


 そんな奴らに絡まれるというのは不快極まりないことではあるが、それよりも僕の感情を揺さぶったのは別の事柄であった。それは、この嫌悪の嵐とも言うべきなのか、この胸の心地よさは何なのだろうか。


「あの人は終わったね。同族同士仲良くやってほしいわね」


「自業自得だよねー。よりによってあの悪ガキ共に目をつけられるなんて」


「威張ってたし逆にスカッとするわねー」


 辺りを見やると、大半の人間から負のオーラが漂ってくることが分かった。ここにいれば無限に強くなれる気がして仕方ならない。それが例え根拠のない錯覚だとしても、今の僕にとってはそれこそが真実に他ならないのだ。


──だから僕は目の前のこいつらに『本物』とは何かを見せてやることにした。


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