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真の嫌者になりたくて!  作者: 箱好鐘
一章 血濡れ王子
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執事の反逆



「父様には悪いけれど、お小遣いをもう少し頂こう」


 そうほくそ笑んでしまうほどに気分が高揚していた僕は足早に父の書斎へと向かったのだった。


「失礼致します」


 扉をノックして部屋に入ると、誰一人としておらず、薄暗い部屋だけがそこにあった。窓から差し込む月明かりがぼんやりと部屋の中を照らし出す光景は神秘的な雰囲気すら感じられるほどだ。


 その明かりを頼りにゆっくりと歩を進め、僕は大きな書斎を強引に動かした。すると地下に作られた秘密の通路が現れたのだ。その道を進んで行くと、やがて扉が見えてきた。その扉のノブを捻ると鍵はかかっておらず、すんなりと開いた。



 その部屋の奥には魔剣やら聖杖などお宝が飾られているのだが、それがまた壮観で見応えがあるのだ。


 『録音のアーティファクト』や『カインズ流剣術の秘伝書』や『世界樹の雫』など使えそうなものは片っ端から巾着行きである。


 武器や防具は荷になるから入れない主義であるが……。


 最早、どこぞの盗賊であろう。そんな中でも奥に行けば一際目立つものが飾られており、ガラスケースの中に厳重に保管されている宝玉が目についた。


 これこそが我が家に伝わる家宝だ。その名を『カインズの魂玉』といい、かつて魔王を倒したパーティーの内の一人である英雄カインズの心臓を結晶化したものらしい。つまり僕のお爺ちゃんは相当デキるお人だったみたいだ。その宝玉を手に取って、懐の巾着にしまおうとした時、背後から声をかけられた。


「随分と楽しそうなことをしておりますね。エトラ坊ちゃん」


「その声は……」


 振り返るとそこにはルシウスが立っていた。しかも、不敵な笑みを浮かべながら。


「ルシウス、お前いつからそこにいた?」


「ずっと見てましたよ。最初から最後まで」


 どうやら最初からいたようだ。それにしても相変わらず気配を消すのが上手い奴だ。


「何が望みだ?」


 そう尋ねるとルシウスの口角が上がった気がした。


「望みは一つだけです。アカデミーを共にする執事を私以外の人間から選んでください」


 やはり狙いはそれだったか。そう思いつつ、こちらも笑みを浮かべる。


「断ると言ったら?」


「残念ですがこのことを告げ口させて頂きます」


「……脅迫するつもりか?」


「いえ、あくまでもお願いですよ」


 そう言って浮かべた笑顔からは何の感情も読み取ることができなかった。要するに脅しているのだと確信するに至ったわけだ。しかし──


「お断りだな」


 僕の返答を聞いた瞬間、ルシウスはやれやれといった具合に肩を竦めた。


「仕方ありません。では──」


「──僕がルシウスに対して何の用意もしていないと思ったら大間違いさ。もし先刻の決闘が僕による発端ではないということが明らかになった場合、真の元凶には父様や母様から処罰が下されるだろう。ルシウスもそう思わないか?」


「果たして、エトラ様が元凶ではないとどうして言えるのでしょう?」


「最も『君』が発端となった証拠ならある。それでも君はこの光景を告発するかい?」


「強がりはよしてください。探りでも入れて誘導尋問でもしようとしているのでしょう? それくらい分かっていますよ」


「もしそうじゃないとしたら……? 決定的な証拠があるとしたらどうする?」


 その瞬間、初めてルシウスの黒い瞳が揺らいだように見えた。だがそれも束の間のことで、すぐに平静を取り戻したようだ。


「何を言い出すかと思えば、そんな嘘を並べ立てて私を追い詰めようとしているつもりでしょうが、そうはいきませんよ。そもそもですが、たとえ私が仕組んだとして誰がそれを信じるのでしょう? 差し出がましいこととは思いますが、この屋敷の人間全てがエトラ様のことを信じていないばかりか、嫌っているのも事実です。対して私は何十年とこの家に仕えている執事でもありますし、信頼は厚いのです」


 確かに正論であるし、ここで引き下がるような執事でないことは自分自身が一番理解しているつもりだ。


「ですから、妙な詮索はおやめになってください。私としましては、ただ一言が欲しいだけなんですよ。アカデミーを共にする執事に私を選ばないと」



 僕は一体どこまで嫌われているのやら。


 ここまで主人に尽くしてくれる『理想』の執事がいるかね。


 もう何が何でも離したくないものだ。


 だから僕は最後の仕上げに入るとしよう。だって僕には先ほど手に入れたいい道具があるからね。


「分かったよルシウス。ならば最後に教えてくれないか? なぜ真面目で賢い君があの決闘を企てたのか」


「……なぜ私がそのような行動に出たのか、お教えすれば私めをこの伯爵家から連れ出さないと約束して頂けますか? 勿論、マナの誓いをかけて」


 マナの誓いときたか。マナの誓いとは己のマナホールに誓いを捧げることを意味し、裏切りが判明すれば契約者の命令を忠実に遂行することを余儀なくされる呪いである。簡単に言ってしまえば奴隷化ということだ。



 マナの誓いにもランクがあり、重いものもあれば軽いものもある。軽いものの場合は一生ではなく、一度の命令のみに限定されたりとか色々である。


「マナの誓いか。生憎と僕は誓うのは嫌いでね。そもそもその必要もなくなったのだ」


「……それはどういうことですか?」


「誓わずとも決定的な証拠が別にあると言ったではないか?」


「ならばそれをお見せ──」


「──ポチッとな」


『……なぜ私がそのような行動に出たのか、お教えすれば私めをこの伯爵家から連れ出さないと約束して頂けますか? 勿論、マナの誓いをかけて』


 録音のアーティファクトから流れる自分の声に動揺したのか、ルシウスは目を見開いたまま固まってしまった。そして僕は再び畳み掛けることにする。


「ルシウス、君は知っているかい? 証拠がなければ『作れば』いいんだよ。決定的な証拠を、ね?」


「こ、この悪魔め!」


「あーなんて甘美なる響きなんだ。これで僕と君は運命共同体になってしまったも同然だね。おっと、僕のこの行いを告げ口しようなんて考えない方がいいぞ? 別に僕は失うものがないどころか、メリットまでついてくるものだからね。逆に君はどうかな〜〜? あれれ〜〜?」


「く、ぐぬっ! あっ、貴方という人は! お願いします。エトラ様と共に行くということは死ねと言ってるようなものなのです」


「僕は君を絶対に逃さないから覚悟してね。じゃあまた後で〜愛しのルシウス」


 そう言い残して僕は部屋を出たのだった。その後のことは想像に任せるとしよう。ただ一つ言えそうなことがあるとすれば、僕が悪魔の微笑みを浮かべていたことだろう。



──ああ、愉快だ!!




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