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真の嫌者になりたくて!  作者: 箱好鐘
三章 悪人の悪人による悪人のための聖戦
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狂気の証明は悪魔すら超える



「──ぽちっとな」


 全てを壊滅させてやろう。


 そう固く心に誓いながら、僕は『起動中』のアイテムへと更にマナを流し込んだのだった。



『この神殿の地下には世界で唯一存在する古代兵器が存在しているんだ』


『そのような内容を僕のような部外者に話しても大丈夫なのですか?』


『これも何かの縁だ。寧ろ誓約を破って忠実な奴隷も欲しいところであったし、これを告げ口しようがしまいがどちらに転んでも問題ないさ。どの道ここには最高権力者のみが立ち入れる場所だし、君も今後ここにくることはないだろう。奇跡でも起きない限りね』



 これは『マナポート』の不具合により、皇室に関わる人間しか知り得ない場所に転移した時の音声データである。



 僕が初めてロイシュレインと会った日のことだ。



『ここで何をしようとしていたのですか?』


『マナポートを通じて魔物を運んでいたのさ』


『な、なんと!! その魔物を解き放って魔法大国アベリアを制圧するというのですか!? まさか! 他国の工作員!?』


『ふふふ、察しがいいな……』




 一旦止めて周囲の反応を見てみることにしよう。案の定、その場の全員が唖然としており、ある者は目を大きく見開き、またある者は驚愕のあまり声が出ない様子だった。逆に動揺を越えて口を動かす者までいた。



「古代兵器とは一体なんだ!?」

「マナポートに魔物とはどういうこと!」

「ロイ様が他国の工作員ですって?」



 この場所を知るものは最高権力者に限られているのだから当然だと言えるだろう。



 肝心のロイシュレインはというと、してやったりと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべていたのである。そればかりかこの状況を楽しんでいる節すら見られたのだ。




 なにせロイシュレインはこう思っているはずだ──




──結ばれた『マナの誓約』によって僕はロイシュレインの奴隷になると。




 そう思うと僕は笑うしかなかった。



 だってそうだろう?




 あくまでも『マナの誓約』の内容は──



──『僕の口』からは話さないということだ。




 記録媒体を伝って再生される音は果たして『僕の口』だろうか?



 否。この記録はあくまで第三者からの視点なのだ。


 マナの誓約に頼りすぎた愚かなる人間の末路を見せつけてやる。




 さあ、聞くがいい──



──これがお前たちが信じてきたものの正体だと。




 僕は再び水晶玉に手を乗せると音声を聞き直していった。



『こうまでする理由は沢山の生贄が必要なのだ。それも生きている新鮮な血が!』


『生娘の血だと尚更良いとかあるんですか?』


『ああ、生きている人間の血で試してみたら、凄かったよ』



 僕はロイシュレインを相当な外道に仕立て上げるつもりだ。人の命をまるで消耗品のように扱う悪魔のように。



 それがたとえ虚実であったとしても関係はない。



 所詮、人の世は『欺瞞』と『捏造』で成り立っている。



 だから真実に嘘を織り交ぜることで、相手の思考を混乱させることさえできるのだ。



 基本的に人間は見たものを本物だと思い込む生き物なのだ。



 例えばそれが、有名な銘柄の贋物や紛い物の商品を見た場合、その真贋の判断は、素人目にしては極めて困難なものになる。


 例えばそれが記者の誇張であったとしても、情報に踊らされた民衆は、噂話として瞬く間に世界に流していくことだ。


 そしてそれを信じ込んでしまうと思考停止に陥り、自分の常識に疑いを持つことを止めてしまうのである。


 故に人は容易に騙しやすいのだ。


 例えそこに嘘があったとしても真実を知らなければ決して気づかないし、気づいたところで思考回路を奪われ洗脳された大衆にはどうすることも出来ない。





 まさにこれこそが『情報戦』であり、『心理戦』の極意である。





 だから────




──せいぜい騙されていろ。





 これを聞いていた人々の感情を揺さぶるには十分な効果を持っていた。




 それこそ、僕の思惑通りに────見事に嵌ってくれたのだ。




「ロイシュレイン。これは一体どういうことだ」



 黄金色の髪といい、蒼い瞳といい、ロイシュレインと親子だと言われても納得できるほど似通った容姿をしている陛下は憤怒の形相を浮かべていた。



 そして当のロイシュレインはというと──。



「──何故マナの誓約が発動しないのだ……」



 小言でぶつぶつ何かを言っていたものの、既に顔は青ざめており額に汗を滲ませていたのだ。その様子を見る限りかなり焦っているように見受けられた。



 一方で聖女アリアもまた同様である。彼女は瞳をうるませながら、唇を噛んでいたのだから──恐らくショックを受けているのだろう。




──これだから人間は単純なんだ。



 目の前で起きている出来事が全て真実だと思っているのだからお笑い種だ。


 しかも誰もそれに疑問を抱くことすらなく、誰もが当たり前のように受け入れているのである。それはつまり自らの目で確認することなく他人任せにしてしまっていることでもある。


 実に愚かしいことこの上ない。




「ロイシュレイン!! 見損なったぞ」


「ち、違うのです! 皇帝陛下。奴は発言を『切り取っている』だけなのです! 私は魔物と罪人を犠牲して、古代兵器の完成に貢献しようとしていただけなのです」


「なるほど古代兵器の話は事実だと認めるのだな?」



 怒り心頭と言った様子の皇帝に対して、ロイシュレインは焦りながらも必死になって弁明をしていた。


 陛下の様相を見るに、きっとこの事件の真相すらも知らないのだろう。健気に、息子であるロイシュレインを信じていた愚かな一人である。



 しかし、ロイシュレイン如きの術中に嵌められた陛下もまた、救いようがない人物であることは確かだ。



 だからこうして抵抗すら無く、僕の『毒牙』にかかり操られるのだ。


 

 極論を言えば、僕はロイシュレインと同類であり、同じ手法を使ってるのだ。



 ロイシュレインが、事実『起きてないこと』を罪として証言するならば、僕も同じことをするまでだ。





 それが『悪魔の証明』と言うならば──



──僕も『悪魔の証明』で返すのみである。




 人を信じさせるには全てを虚実で構成するのではなく、真実に少しの嘘を織り交ぜることによって信憑性が高まるものなのだ。



 そこで僕は更に、燃えやすいように薪をくべていくことにした。これでもう後は火の手が回るのを待つだけだ。そう安堵しながら更なる燃料投下のために水晶玉を操作していった。



『つまり生きた魔物をこのマナポート使って経由する際に、マナポートが故障した可能性があると言いたいんですね』


『ああ、今回はあまりにも多くの生贄を捧げようとしていたからね。この古代兵器は生きた血を必要とするんだ』



 その話を聞いた途端、アレイスタ皇帝陛下の怒りは頂点に達したようだ。彼は立ち上がると拳を握り締めながら大声で怒鳴った。



 それはまるで獣が咆哮するかのように──。



「ロイシュレイン!!!!!! お前と言う奴は!!!! マナポートに魔物を運ぶことは百歩譲って許そう。だがしかし、その魔物を解き放ち、あまつさえアベリアを民の血で染め上げようとしたことは万死に値する!!」



「こ、この『切り抜き魔』が!! 陛下、違うのです! 傍聴席でご覧になられている皆様も誤解ないようお願いします」



 皇帝の激昂と皇子の反論が激化する中、共に周囲からも罵声が飛び交っていたのだが、僕はそんな雑音を無視して次の一手をうつことにした。


 さていよいよ仕上げだ。最後のひと押しをするとしようじゃないか。



「ご覧になられたでしょうか!!」



 僕は両手を広げると声を張り上げた。すると辺りは一瞬にして静寂に包まれたのである。


 その様子を満足げに眺めながら更に言葉を紡いでいった。


 この光景こそ僕の望んだ舞台だったと言っても過言じゃないだろう。





 今この瞬間からが狂祭の『始まり』なのだ──。




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