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真の嫌者になりたくて!  作者: 箱好鐘
三章 悪人の悪人による悪人のための聖戦
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狂人は余裕を浮かべる


「コロス。絶対にあんただけはコロス」


 突然、彼女がボソッと何かを呟いたと思った次の瞬間──突如として、空気が変わった気がした。


 それはまるで嵐のように荒々しく渦巻いている感じだ。彼女を中心にして空気が渦を巻いてるように見える。明らかに様子がおかしい。


 僕は咄嵯に臨戦態勢に入った。



 彼女は剣を構えたまま、こちらに向かって突進してきた。しかも、そのスピードはかなりのもの。普通の人間が出せるような速度じゃない。



『武技・七天剣:セブンアーツ』



 ローレルは一瞬にして七つの剣撃を放つ剣技を繰り出してきた。僕はそれを全て躱していくが、彼女の剣は止まることを知らず、絶え間なく襲いかかってくる。


 オーラの密度が七十%と言っていたローレルのことだ。おそらく、一つの斬撃に十%ほどのオーラが振り分けられているのだろう。



 それでもぶんぶんぶんぶん、剣音が聞こえてくる限り凄まじい威力だと言えるが、当たらなければどうということはない。


 やがて、攻撃を避け続ける僕に痺れを切らしたのか、ローレルは距離を取ると剣を横に構えて叫んだ。



『奥義・極剣:ヒュペルアーツ』




 その瞬間、彼女の周囲を纏うオーラが一層輝きを増した。その光は太陽の如く煌びやかで、まるで光り輝く剣のようだった。



「死ね。エトラ・シュレ・カインズ」



 そう言ったローレルは剣を横なぎに振り抜くと、その斬撃はまるで光線のように、一筋の光となって僕に真っ直ぐ飛んできた。その速さたるや、目を見張るものがあったが、しかし所詮はそれだけである。僕は手を前に突き出し、迫り来る光に向けた。



 するとその瞬間、『パァン!』と何かが破裂するような音が響き渡ったかと思えば、斬撃は僕の掌に吸い込まれるように消滅したのだった。



「あ、ありえぬ。『極剣:ヒュペルアーツ』を素手で防ぐだと? いったいどうなっているのじゃ!?」



 それを見た騎士王は動揺を隠しきれない様子だった。僕はその光景を目の当たりにして、驚愕しているローレルに向けて静かに告げた。


「まだやるのかい?」


「っ──!!」


 僕のその一言で我に返ったのか、ローレルは剣を下ろして俯いてしまった。


「私の負けよ」


 ローレルがそう呟くと、会場内は一気に湧き上がった。


「しょ、勝者はエトラ・シュレ・カインズ!!」


 騎士王の言葉を聞いたローレルは脱力したように地面に座り込み、項垂れてしまったのだった。僕はそんな彼女の様子を一瞥した後に騎士王に向かって言った。


「約束は覚えているな?」


「うむ、もちろんじゃ。ワシにできることならなんでも聞いてやろう。まさか小僧がローレルに勝つとはのぅ。カッカッカッ、世の中分からんもんじゃな」


「残念ながら今は何もないんだけどね。お願いごとは保留にすることにしよう。それよりもだが──」



 僕はそう言ってローレルの方に視線を向けた。ローレルは未だに座り込んでおり、俯いたままだった。


「ローレル・カインズ」


「……なによ」


 ローレルがそう呟くと、僕はさらに続けた。


「僕が君に言ったことを覚えているかい?」


「……分かってるわよ」


「だったらよろしく頼むよ」


「そう言われても私には何にも分からないの。そもそもお父様がそんな悪事に手を染めていただなんて未だに信じられないもの……」



 そう言うローレルの表情は暗く沈んでいた。それもそうだろう、ローレルにとっては実の父親なのだ。信じたくないという気持ちも分からなくはない。とはいえ、それが真実であることを確認する必要があるのもまた事実であった。



 そこで僕は一計を案じることにした。



「ならば確かめに行けばいいじゃないか」


「……え?」


「信じようと信じまいと勝手だが、君がいくら喚いたところで君の父上が起こしたという事実は変わらないのだから。それに何も真実を確かめないままというのはどうかと思うからね」



 僕がそう言うと、しばらく思案する様子を見せたのち、彼女は渋々といった感じではあったが小さく頷いたのだった。


「君は君なりに動けばいいのさ。ほらよく言うじゃないか? 分からないなら分からないなりに、頑張ればいいとね」


「なにそれ、励ましてるつもりなの? なんかムカつくんだけど」


「さぁね、無い知恵を振り絞って自分で考えてみるといい。どうすればいいのかね?」


「……本当にむかつくわね、あんた」


「なんとでも言えばいいさ」



 僕が肩をすくめる仕草を見せると、彼女はプイッと顔を背けたかと思うと立ち上がっり、僕に背を向けて歩き出したかと思えば立ち止まり、振り返って僕を見つめた後再び歩き始めたと思えばまた立ち止まるといった奇妙な行動を取っていたのだが……不意に彼女が口を開いたのだ。


「エトラ・シュレ・カインズ。悪かったわわね、その、色々酷いことを言って」


 ローレルは気まずそうに視線を逸らしながら謝罪の言葉を口にしたのだった。僕はそれに対して笑顔で返した。


「悪いと思うならば行動で示してくれればそれでいいよ。自称、剣の天才くん」


「やっぱり訂正。今回のことは絶対許さないから。それはそうと、『秘伝書』の約束も忘れたとは言わせないわよ」


「勿論、忘れてはいないよ。なんならこうしよう。魔法大国アベリアに伝わるマナの誓約と剣闘国ハシュラに伝わる剣の誓い。その二つを結ぼうではないか。そうした方が僕にとっても『都合』がいいからね?」


「ふん、いいわよ。どうせ『剣の誓い』はするつもりだったから」



 ローレルはそう言うと、僕の方へ歩み寄ってきた。そして僕と対峙するように立つと、腰の鞘から剣を抜き放ち、それを頭上に掲げた後、ローレルは大きな声で叫んだのだ。


「私、ローレル・カインズは、裁判が終わるまで、エトラ・シュレ・カインズに協力者することをこの剣に誓う!」


 僕はその様子を満足げに眺めつつ、マナを汲み上げ、彼女に倣うように声高々に叫んだ。


「僕、エトラ・シュレ・カインズは此度の裁判に勝訴した暁には、ローレル・カインズに『カインズ流剣術の秘伝書』を差し出すことをマナに誓おう」


 水と油の関係とも言われるマナとオーラが融合するかのように一つになる様は、傍から見ていると、なんだか不思議な感覚だ。


 

 僕は誓いで発現した周囲のマナとオーラの流れに意識を研ぎ澄ませていくと、その性質についてある一つの結論を導き出した。


 それは──


「なるほど、これは興味深い」


「何がよ?」


「いや、気にしないでくれ。ちょっとした独り言だよ」


 こうして僕たちは、互いの剣とマナに『誓い』を交わすことで『契約』を結んだのであった。


「裁判まであと二日だ。その時までによろしく頼むね。僕は少し『寄り道』をしてから行くことにするよ。じゃあね」



 僕は踵を返し、その場を後にしたのだった。ローレルが後ろで何か叫んでいたようだったが、そんなものに耳を傾ける義理もない。


「え、エトラさまぁー! 一体、今度はどこに行くというのですか!!」


「決まっているだろう。臨時的な当主の立場を得るために、父上のところに向かうんだよ」


「な、な、なんですとぉー!? ちょ、ちょっと、お待ちください、エトラ様!」


 慌てた様子で追いかけてくるルシウスの声を聞き流しながら、僕は歩みを進めたのであった。

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