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真の嫌者になりたくて!  作者: 箱好鐘
二章 悪役令嬢
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悪役令嬢の観戦記


「火の真髄を見せてやろう!」

『火の不死鳥:フラルフェニーチェ』!!


 その瞬間、一つの小さな太陽が生まれたように錯覚するほどに、眩しい炎の塊がエトラの上部に現れた。それは全てのフランマを喰らい尽くそうとうねりをあげて襲いかかる。幾重にも重なった炎の柱は火山の噴火を思わせた。それはまるで神話の世界に出てきた神如き存在がそこにいると思わせるような光景である。


 観客たちの歓声はその火力によって搔き消されていたものの、


「僕は君には絶対に負けません! 何があっても僕は、絶対にここで一番になるって、約束しましたから」


 誰もがこれから起きるであろう壮絶な魔法に胸を高鳴らせていたのだ。


──誰もがこの瞬間を待っていた。


『全魔力解放:マナリベル』


 その叫び声と共に、アマルティアの周りに凄まじい勢いでオーラのようなものが渦巻いていったのだ。そしてその中心には膨大なマナが溢れかえっていた。



「ふふ。あはははは! 最高だよ。君がいると退屈しない! いいことを教えてやろう。僕が展開したこの魔法は永遠を司る火だ。つまり媒介となる『火:フランマ』は、もう必要ないってことだ!」


「それは僕も同じさ。さっきまではずっとよく分からない『マナ密度』が邪魔をしていたけど、これで僕の世界は整った」



 火の覇者とマナの覇者の闘い。互いに譲れないものがあるからこそ、どちらかの力が弱ければすぐに勝負が決まるだろう。そんな予感をさせるほどの緊張が会場に走った瞬間だった。



 そして二人は一斉に手を前に掲げたのだ。


 そして──


「燃え盛る太陽よ! 地獄の釜のように全てを焼き尽くせ! 『全方位爆裂:フラルプロミネスノヴァ』!!」


「唸れマナの奔流よ! その輝きを持って世界の全てを灰燼と化せ! 『全魔力爆発:マナアドウェルサ』」


 二人の手から放たれた火属性と無属性の魔法は、まるで太陽が落ちてくるかのような眩しさと、大地を揺るがすほどの轟音を伴った。


 それぞれの属性を象徴するかのような赤と無の閃光が二人を包み込んでいき、その大きさがどんどん増していった。


 その熱量たるや、観客たちの熱気や歓声すらも呑みこんで二人を覆いつくした時、その衝撃波により、一瞬にしてステージは崩壊した。


「私一人ではマナシアム内のマナの供給が途絶えます! 見ている教授方おられましたらお手伝いくださいませ! マナシアムがもう数秒しか保ちません!! このままだと怪我すらも戻らなくなります!」


 審判を務める教授はそう言っているが、皆唖然としており動かない様子だ。そう、あまりの衝撃に誰も動けないのだ。だがこの状況においても一人は動いていた。



 私にはその『声』がずっと聞こえていた。



──僕はここで負けるのかって。


──でも負けたくないって。


──負けたら誓いも約束も全てが無駄になるって。


──だから彼にだけはどうしても負けられないんだって。


──『真の賢者になりたくて』、ここにきたんだって。



 知ってる知ってるよ。


 全てのマナを使い切った『主人公の覚醒イベント』が始まるってことくらい。


 忌々しい『制約』が、


 魂を縛る『隠しスキル』が、


 刻まれた『主人公補正』が、


 今ここで初めて発動しているってことくらい。


 私は知っているんだ。




 それでもエトラ・シュレ・カインズは立ち上がる。


 だって彼もまだ諦めていないから。


 負け方にも美学を求める彼だからこそ、最後の最後まで簡単には諦めない。



「うぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!! 『魔力超越:マナデウス』」



 その光景を目にした観客たちは驚愕のあまり、目を見開いて言葉を失っていた。そしてそれは私にも言えたことで──


──アマルティアのあの力はヤバい。


『プレイヤー』視点では分からなかったが、リアルで見るから余計に分かる。アマルティアは世界のマナに溶け込んでいる。だから結末を知っている私ですら叫んでしまっていた。


「バカ。マナに呑まれるわよ」


 教室のマナの基礎講座でジェイ教授は言っていた。

 マナを扱う場合、マナホールを汲むやり方と空気中に漂うマナを体内に取り込むやり方があると。


 でもこれはそうではない。こうなればマナシアムの時を戻すシステムにも異常をきたす。


 だって彼自身が空気に取り込まれている現象なのだから。


 つまり海に一滴の水を垂らした時、その水は海に呑まれることなく、一滴としての自我は持てるのかという感覚で、彼の体はマナで構成されている現象に近い。


 だからエトラがどれだけ力を出したところで、全ての魔法がマナに還元される。


 アーティファクト頼りの戦闘ならば──。



「………………お前は僕の餌だ。決して僕の許可無しに死ぬことは許さん。不死鳥の火をマナに『魔力逆変換:マナリバース』」


 マナ密度が飽和しているエトラだからこそ知っている。今のアマルティアがどんな状態かということ。逆に一部に限定して、世界よりもマナ密度を有しているエトラだからこそ、この現象に対抗できる。



『超新星魔力爆発:マナノヴァ』

『超新星魔力爆発:マナノヴァ』


 二人の言葉が重なった。


 互いの全力の一撃がぶつかり合った。


 それは今までのどの魔法よりも眩しく熱いものだった。


 それはその場に居た者全てを包み込むほどの光と爆風だった。



 アマルティアはエトラを純粋に倒すために。

 エトラはアマルティアを世界のマナから切り離すために。



 そして光が収束していき、見えたものは二人の影だった。エトラだけが地に倒れ伏していたのだ。みんなにはアマルティアが放つ魔法でエトラを倒したようにしか見えていないことだろう。


 でも実際はそれだけではない。エトラはアマルティアの存在の孤立化を図るために、彼の付近に漂うマナに向けて魔法を放ったのだ。


 アマルティアの魂という一滴の水を掬い取るためだけに。その狙いに関しては私も『今』気付いた。リアルじゃないと気付けない部分があることに心底驚いている。だって当事者であるアマルティアでさえ気付いていないのだから、エトラの演技力だけはピカイチである。


「勝者! アマルティア!」


 その言葉とともに、観客たちの大きな声援が上がる中、一人だけ別の感情が支配する者がいたことに、私の耳は確かに捉えていたのだった。



 それはエトラ・シュレ・カインズの実力を知っている私以外のもう一人だ。


「欲しい。彼がどうしても欲しい。犠牲を払ってでもエトラ・シュレ・カインズを手元に置きたい」


 私は知っている。『プレイヤー』ですら手に負えないエトラ・シュレ・カインズを配下にしようと行動する化け物がいることを。


 それが私の『婚約者』であるということを。


 その証拠にこれを見た彼は即座に動くはずだ。


 この決闘で療養することになるエトラを横目に、『イベント』もまた動き出すのだ。エトラが怪我で伏せている間が最大の好機なのだから。

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