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真の嫌者になりたくて!  作者: 箱好鐘
二章 悪役令嬢
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悪役令嬢の観客記

「試合開始!!」


──ゴォオオオン! 


──鐘の音が鳴ったと同時に動き出したのはのはエトラだった。それも尋常ではないほどの速さで魔法を展開させていたのだ。


『二重火:デュアルフランマ』


両手から火の弾丸を幾重にも重ね、


『火弾:フラルバレッド』


 発現した火を発射すると、その軌道は曲線を描くかのようにアマルティアに迫っていった。その数は十を超えるもので、一発の火力だけでも凄まじいというのに、その速度によって空気を巻くよう変化している。まるで魔法弾で波を作ったかのような光景がそこにはあった。


『魔力盾:マナスキュータム』


 それに対抗するように、即座にアマルティアが発動したのは、透明な薄い膜を自分の前に発生させたものだった。


 それはマナテリトリー内のマナ密度を利用したマナの盾である。本来、魔法使いは自身の体内に存在するマナホールから掬うことによってマナを生み出すのだが、その過程で必ず必要になるものがマナテリトリーである。


 魔法使いは戦闘時、常にマナテリトリーの展開を要求されるため、必然的にマナの扱いに長けていくことになる。


『火炎爆発:フラルゴ』

『火弾:フラルバレッド +魔力移動:マナムーブ』



 アマルティアが展開するマナの防御壁と放たれた火が当たる『直前』に、火弾は爆発を起こした。


 爆炎が巻き起こる中、残りの九弾はアマルティアの後方に『移動』した後、追い打ちをかけるようにして放たれる。後ろから追尾する形で襲いかかったのだ。



 この一瞬の出来事に観客は疑問を抱くはずだ。魔法を発動する時間──クールタイムが無いということに。これはテリトリー内のマナ密度が飽和しているエトラだからこそ出来る芸当であった。


 だから観客の反応は──



「なぜクールタイムがないんだ? ありえない」


「それでもあのアマルティアは賢者で『万能型』だろ? たとえ、あのカインズの次男がマナ密度が百%でもそんな簡単に出来る芸当じゃないぞ?」



 魔法使いは戦闘の際、マナテリトリーを常に展開しなければならない。


 逆に魔法使い同士ならばお互いにマナテリトリーを展開する時にテリトリーの干渉が発生する。


 つまりマナ密度による摩擦が起こるのだ。


 その際にマナ抵抗が働いて威力の減少、または無効化する現象を引き起こしたり、その仕組みを利用して相手のテリトリーを破壊する者もいる。


 逆にマナの扱いを極めた者ならば、その摩擦を無くしてマナ密度を百%を維持する猛者もいるのだ。包丁を研いだら切れ味が増すように、マナを研ぐようなものである。


 しかし今回の場合はただの力技で、エトラのマナ密度の飽和が異常だからなのだが……。


 観客にはその事実を知る由もなく、ただただ困惑するだけである。


『四重水:クアッドアクウァ』

『水壁:アクアムルム』


 エトラの怒涛の攻撃に対して、アマルティアは前後左右の四箇所に水を発現させた後に、それらを結合して厚みのある水の壁を作り出した。そして水壁はそのまま津波のような動きをしながら、うねりを上げつつ前進していき、その九つ火を呑み込んだ。


 その刹那──


『火炎爆発:フラルゴ』


 その全ての火が爆発した。水蒸気が上がる中、アマルティアの姿が確認できないでいると、煙が切り裂かれるように消えたその先には、無傷の彼の姿があった。そして、その姿に誰もが驚愕を覚えたことだろう。


『魔力放出:マナホーツ』


 マナの力そのものを雷のように体外に放ちながら、爆風の余波を利用し一気に加速したのだ。


 それも地面スレスレを滑空するような姿勢で。


 それを見た観客はそのアマルティアの姿勢の美しさに息を呑んでいた。


 そして──エトラに向かって飛びかかったのだ。


『魔力剣:マナグラディウス』


 そこにはマナの大剣を振りかぶっているアマルティアがいた。


「はっ、舐められたものだ。この僕に『近距離戦』を挑むとは、負けさせてくれと言っているようなものだ。『魔力移動:マナムーブ』」


 その瞬間、アマルティアの一振りにより、エトラがいたステージは大きく抉れており、観客席からは悲鳴にも近い歓声が沸き上がった。それに遅れて轟音が鳴り響き、クレーターのようなものが生まれていたくらいだ。当然、土煙や埃が舞い上がり辺り一面を覆い尽くしていた。


 その中でただ一人立ち尽くす人影があった。それはエトラである。



「これで終わりです!」


 アマルティアは振り下ろした姿勢のまま、静止していたのだ。


『魔力放出:マナホーツ』

『属性変化・水流:アクアホーツ』


 アマルティアのマナが地面に伝う衝撃とともに、


「な、なんだこれは!」


「凄い……まるで滝の中にいるような……」


「いや、これ、水が逆巻いてる!?」


 突如、アマルティアを中心に床から巻きあがる水柱と吹き荒れる水流によって視界を完全に奪われた観客たち。数十秒の時間を経て視界が晴れていき、そこに映し出された光景に皆が目を見開いたのだ。


 それは二人が戦っているステージに小さな台風が生まれたかのような姿があり、渦を巻くようにして水が回っていたからだ。


「マナテリトリーの扱いに関しては中流組。マナの水属性変換だけに絞ったら高尚組の上位にすら引けを取りませんね」


「ジェイ・コカイン教授もそう思われますか。それにしてもカインズの次男はマナテリトリー10メル以下は嘘でしょう? 1/10以下に設定に間違いがありませんか?」


「そうですね。実力を隠していたか。あるいは──」



 そんな教授の二人のやり取りが聞こえてくる。おそらく会場にいた誰もが同じ疑問を抱いていたのだろう。今も水流が渦巻きながらも中央で対峙するアマルティアとエトラの間には誰も入れないほど張り詰めた空気が流れていた。


 そんな空気を破ったのは『血濡れ王子』ことエトラ・シュレ・カインズだ。


「ふはははははは。やっぱり君は最高だよ。僕の最高の好敵手さ」


「僕は貴方みたいな最低な人と馴れ合う気はありません」


「考えてみてくれ。僕は君に好印象という『愛』を与え、君は僕に悪印象という『憎悪』を与える。これは一種の『相思憎愛』ではないか? 僕たちは争えば争うほどに無限に強くなるんだ? 最高だろう?」


「僕には君が何を言ってるのか理解できない!」


「今も感じるだろう? みんなから君はすごいと、好印象の渦が己に取り込み強くなる実感を! そしてそれは僕も同じさ! 僕は逆に負の感情を喰うからね。僕たちはある意味同族なんだ!」


「君のその歪みきった考え方は賛同しかねる。僕は一度も君を認めたことはない!」


「でも君は僕を『嫌な奴』だと認めているじゃないか。僕には分かるんだよ。そして今から僕は、更に『嫌な奴』になる。それはね──」



 エトラは己の内ポケットから『ソレ』を取り出した。


「「あれは!!!」」


 その反応は私以外の人間にとっては予想外だったのだろう。誰もが息を呑んだ

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