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真の嫌者になりたくて!  作者: 箱好鐘
一章 血濡れ王子
15/54

乙女ゲーのヒロイン


「小さすぎる」


 フィオリアの声が静まり返った部屋に響いた。その一言が引き金となり、僕は魔法を止めた。


「は? この僕に喧嘩を売るとはいい度胸だな」


 僕は振り返って、彼女に怒りをぶつけるように睨みつけた。だが彼女もまた鋭い目つきを向けており、そこには明らかな敵意があった。その視線が実に気持ちいいと感じるのは僕が変態だからだろうか?


「でも実際に小さいっていうか……。1メルすらもなかったよな?」


「まぁ、そういうこともあるんじゃない? だって『血濡れ』なんだから。コケ脅しってわけでしょ。所詮口だけじゃない? だって入学の試験すらパスして無理矢理合格したって話よ?」


 周りで囁かれるそんな声を聞きつつ、僕はフィオリアと再び対峙した。


「は!! 貴様ら愚民は嫉妬のあまりか狂ってしまったようだな。これを見てまだそんなことを口にするとは、余程血が見たいらしい」


 マナテリトリーの視覚化も問題なく機能している。僕のマナテリトリーを見て尚、そのようなことをほざく者たちなど最早、同じ人間と認識する必要などないと判断した。ジェイ教授が口を挟んだのはそんな時だった。


「エトラ君。言葉には気をつけたまえ。君が豪語するものだから、マナテリトリーの距離を1/10メルにしたままだった私の責任でもあるが……それでも君は一般人として大差ないということを自覚した方がいい。いやこれだと一般人以下であるか」


「貴様、教鞭を取っている者が何を言っている。余程、この僕を怒らせたいらしいな」


「君は1/10メルのスケールで1メルすらマナテリトリーの範囲を視覚化できていないではないか。それすらも気付かないのか? これだから裏口入学は良くないというのに……。普通ならばこのアカデミーすら入れる資格がないのだぞ」


「なんだと!?」


 確かに周囲の反応を見てみれば、皆、一様にそれらしい反応を見せていた。しかし、一体どういうことだ。


「まさか、ここまでマナテリトリーを展開できない者がいるとは思いもしなかった。この教室内で言えば、恐らく君と、そこの女子生徒のみだろうね」


「なっ」


 ジェイ教授は視線を横にずらすと、その視線の先には一人の少女の姿があった。絹糸のようにきめ細かい銀色の髪は左側で結われており、硝子を彷彿とさせるプラチナ色の瞳は宝石よりも透き通っていた。持つ少女は小さな悲鳴をあげていた。美しくも輝きを放っている容姿と、白の下地に黒で装飾された服装は可愛いらしさと神聖さを感じさせるような佇まいであった。



ステータスオープン

名前:アリア・ルーデン

好感度:ー30

種族:人間族

性別:女

年齢:15歳

状態:悲壮

先天スキル:聖女

後天スキル:なし

隠しスキル:ヒロイン



『隠しスキル:ヒロイン』

好感度が上がるたびにあらゆる能力値の上昇。あらゆる場面でヒロイン補正を持つ。


 またこれか。正直、『隠しスキル』の開示が発現したことは、大きな収穫と言えよう。ヒロインやら主人公やら悪役令嬢やら、意味不明な羅列ばかりであるが……。


 まあ、聖女というスキルを見るからに教会から来たのだろう。


「君たち二人については私から報告を入れておく。エトラ君。席につきたまえ」


 僕が劣等生であると理解した瞬間、急に態度を変えるジェイ教授も中々のものだ。もはや僕に対する興味を完全に失ったのだろう。彼の瞳は僕の姿を見ていなかった。確かに言われてみれば、僕のマナテリトリーは視覚から情報を得られない。無味無臭無色透明である。ただ僕自身は感じている。今も尚、この教室を超えるマナテリトリーの大きさに。


「ジェイ教授。一つだけ聞かせてくれないか?」


「それがモノを頼む態度か? はぁ、なんだね?」


 この現象に問題があるとすれば二つ。


 一つはこの魔法陣が『呪い』である可能性。僕は嫌者である限り、あらゆる『呪い』は受け付けないのだ。つまり視覚化すらできないという点。


 そしてもう一つは──


「──マナテリトリーの範囲内よりもマナ密度が高い場合はどうなる?」


 もしテリトリー内のマナ密度が至る箇所で飽和状態である場合だ。普通は100%を超えることはないだろう。しかしこの僕である。無限に強くなれることを自覚した僕に不可能はないのだ。


「基本的にそんなことはありえない」


「基本的には……だろう?」


「何が言いたいのかわかるが……。マナは無味無臭無色で空気のようなものだ。そのマナの厚みによってテリトリーの視覚化に問題が起きる点は極稀にある。しかし、君はそれに該当しない」


「何故だ?」


「まずテリトリーの終わりが見えない。テリトリーの終わりはマナ密度が飽和していてもマナの境目としてうっすらと線が残るものだ」


「テリトリーがこの部屋よりも大きければ──」


「それこそありえない。単位は1/10メル、そして近い場所から遠い場所までの、その全ての部分でマナが飽和していることになるんだぞ? もう諦めなさい」


 なるほど。全てを理解してしまった。この現象を例えるのなら、水風船の中に水を限界まで入れた結果、破裂してしまうようなものだろう。つまり無色の水に呑まれているということだ。


「くっくっくっくっく、ふふふ、はっはっはっ、ふははははははははは」


「あまりの才能の無さに狂ってしまったか」


 僕が突然笑い出したことにより、周りの視線が一層強くなってしまったようだ。しかし、もう既に遅いのだ。



「凡人どもは僕の偉大さすら気付けぬ凡人だと言うことを改めて理解した」



 面白い。作戦変更だ。この結果を見て僕を馬鹿にする奴、全てを潰してやろう。絶対に勝てる相手だと思わせておいて、いざ勝負したら完膚なきまでボコボコにしてやろう。なにせ僕自身が強すぎるあまり、誰も歯向かってきやしないからな。


『だから全力で弱いふり』をしてやる。演じることにおいて僕に勝る者はいないのだから。そう決めた僕はゆっくりと立ち上がり、席についたのだった。


「不正や賄賂でのアカデミー入学がないように、この二人には再度の確認を取るようにしますので心配しないでください。アカデミーに落ちこぼれが出るのは仕方ありません。ただ将来性があまりにも薄い場合には即刻退学もありますのでお気をつけください。ではこの授業はここまでとします」


 ジェイ教授はそれだけ告げると、そのまま部屋を退出していこうとしたがそれを許さない人がいた。


「待ってください」


「……なんでしょう? アマルティア君」


 ジェイ教授は面倒臭そうに、声の主であるアマルティアの方に視線を向けた。


「言いすぎではないでしょうか? まだ入学式から二日しか経っていません。今の段階で『出来損ない』などと決め付けるのは早計だと思いますが」


 アマルティアはあくまで冷静な口調でそう述べた。その言葉にジェイ教授はため息をひとつついてから、彼に対して冷たい視線を浴びせながら、こう言い放った。


「私は事実を言ったまでです。これ以上この生徒たちを庇うのであれば、この二人が不法に入学していた場合、君も同罪と捉えられます。このアカデミーを辞める覚悟がおありなら、ご自由にどうぞ」


 そう言ってからジェイ教授は足早にこの場から去っていった。しかしこんな場面を見て、この僕は黙ってはいない。


「この僕を庇うだと? 貴様、この僕を下に見ているのか??」


「そうじゃないんだけど……」


「だったらなんだ? 庇うということは自分よりも弱いもののために、力を振るうということだ。この僕をここまでコケにするとは、身の程を知れ!!」


 僕は立ち上がってそう怒鳴ると、彼は僕の気迫に気圧されながらもこう告げた。


「別に君を下に見てるつもりはないよ。ただ僕は正しいと思ったことを言っているだけだ」


「なんだと?」


「君こそ、このアカデミーを舐めてるよ。このアカデミーに集った生徒は全てエリートだ。その中でも更に優秀な生徒が集まっている。だからこそ、この学院を貶すようなことは言っちゃいけないんだ。僕は君のためを思って言ってるんだよ」


「こいつ……」


 面白い。面白いぞ! これが主人公というものなのか?


 その圧倒的存在力をひしひしと感じる。ならば僕がその『踏み台』になってあげようではないか。


「受け取れ」


「これは……?」


 僕はポケットから取り出した手袋を前方に、つまり最下段にいるアマルティアに向かって投げつけた。その意図が読めなかったようで、アマルティアは困惑しながらも、その手袋を受け取った。


「それは決闘の証だ。もちろん、君が望むならマナの盟約の元に執り行ってもいい。そうだな。負けた者は勝った者の言うことを一度だけ聞くというのはどうだ?」


「な、何言ってるんだ!? 僕たち入学したてじゃないか!! そんな勝負に乗るわけ……」


 僕はその言葉を遮るようにして答えた。


「何を勘違いしている? これは入学したての、新入生同士の、実力を測るための戦いではなく、ただの『お遊び』だ。これは単なる余興、娯楽なんだよ」


「君ってやつは……」


「そのお遊びの延長で、誰を庇ったのかを思い知らせてやるよ」


 そう言うと僕は再び席に着き、フィオリアの方に目を向けた。フィオリアはこちらを見ながら、呆れた様子でため息をついていた。


「ふん、いいだろう。その安い挑発に乗ってやる。エトラ・シュレ・カインズ、君の腐った性根を叩き直してやる」


「明後日の放課後。決闘広場──マナシアム──で会おう。マナシアムの予約は僕が教授に取り付けておこう。ではな、楽しみにしておく」


こうして僕の楽しいアカデミー生活の幕は開けた。



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