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真の嫌者になりたくて!  作者: 箱好鐘
一章 血濡れ王子
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『マナの領域:マナテリトリー』


「ではこの私が実演しましょう。この魔法陣はマナテリトリーを可視化させるものでございます」


 そういうとジェイ教授は魔法陣が描かれた床の上に立った後に右手をかざした。すると彼の右手を中心に水色の光が円を描きながら走り始める。


 やがてそれは光で出来た円形の図のようなものを形成していったのだ。そしてその光は止まることを知らず広がり続けたままであった。その光景を見ていた生徒の一人が感嘆の声を漏らした。


「おぉー」

「すげー!」


 そんな声に耳を傾けつつ、僕はその光を注視していた。まるで水のように流動的に動く光の帯だが、マナの浮き沈みが激しい場所がある。逆に非の打ち所がないくらいに整っている箇所もあるのだ。まるで歪である。



「これが私の展開する『中距離型』の『マナテリトリー』でございます。ご覧になってわかる通り偏りが生じております。遠近の距離ではマナに均一性がなく、不均衡であると言えますが、中央置なると、マナが満遍なく均等に広がることで完全なる調和が成された、言わば完璧な形が中央になります。数字で表せば近い場所が50%。中央位置が100%。遠い場所が50%といった具合のマナ密度なら『中距離型』と言えるでしょう。もっと深く話せば、自分自身の近くにあるマナ密度が低すぎた場合、マナが遠距離まで届くのには時間がかかりますよね? つまりマナの密度が小さければその分の抵抗を受けてしまうので。そうですね。それも数字で表すと、近中距離位置が1%に対して遠距離が100%だとしましょう。つまり遠い場所に魔法を放つにはまず1%のマナ密度を通らないといけないわけです。つまり99%のマナが抵抗を受けるというわけです。だから『遠距離型』の中でも『砲台型』と言われる魔法使いは遠距離火力が激しい分、マナの収束に時間がかなりかかるというわけです」



 ここまで説明すると、ジェイ教授は展開していたマナテリトリーを消すと、再び僕たちの方に向き直る。


「では今度は皆様にやっていただきましょうか」


 そうしてジェイ教授は生徒たちに向けて微笑みかけた後、彼の指示に従って生徒たちは各々、教壇の床に描かれた魔法陣の上で順番に実践することになる。最初は緊張からかなかなかうまくいかなかったのか、徐々に慣れてくると次第に安定した状態を保ち始めていく。


 その中でも特に目立ったのは例のアマルティアだ。やはり『主人公』と呼ばれているだけあって、彼のマナの才能は他とは一線を画しているようだ。



「ほう。全てにおいて適性がある『万能型』でこの広さは珍しい。マナテリトリーは広くなれば密度の維持も容易ではなくなるのに、素晴らしい! 平民の出自だとは到底、思えない」


 ジェイ教授が手放しに褒め称えるほど、アマルティアのマナテリトリーは目を見張るものがあった。確かに、彼が展開している領域は非常に安定しており、その中を流れるように移動するマナ密度も高水準のものであった。


「まだ広くなるの?」


「す、すげぇ」


 アマルティアのマナテリトリーは椅子に腰をかけている僕たちをも巻き込むように拡大を続けて、最終的にはこの部屋を越してしまった。それを見た周りの生徒が驚嘆する様子を目の当たりにした彼は少し照れたように頰を赤くしたのだった。


 まさに『主人公』としての素質を持ち合わせていると言えた。そんな彼の様子を横目に見つつ、僕は自分なりの理論を構築していた。


 それは『主人公』の好感度による能力上昇値と『嫌者』の好感度による能力上昇値はどれほどの差があるのだろうか?


 大前提として好かれることは難しい。対して嫌われることは簡単だ。これは僕だから言えることかもしれないが……。


 おおかた、アマルティアが他人に好かれている値よりも僕の方が嫌われている自信はある。何せ僕は嫌われる努力において妥協はしたことないからだ。それにアマルティアの『主人公』は『隠しスキル』であり、僕以外気付く人は絶対にいない。生まれ変わりや、時を渡ってきたとかではない限りね。


 仮にいたとしても僕の『瞳』によって必ず見破る自信がある。好感度がマイナス値じゃないとステータスの開示は不可であるが、それくらい僕は嫌われることに関してはスペシャリストだと言い切れるだろう。だからこそ僕はこのアカデミー生活ではありとあらゆる手段を用いて周囲に僕という存在を見せつけるつもりだ。


「き、きた」


「女帝が基礎組ってそもそもおかしくないか?」


「それを言うなら血濡れもだろ?」


 

 そうこう考えているうちに、隣に座っていたフィオリアが動き出した。騒々しかった場は静まり返っており、皆が彼女の動向に注目しているようだった。その期待を背負うようにして彼女はジェイ教授の前に立った。


「え、ええ。次はフィオリアご令嬢のマナテリトリーでございますが、彼女は今年の入学時におけるマナテリトリー分野に関しては次席に入る実力者であります。マナテリトリーの範囲を通常の1/10メルに設定致しまし──」


「建前はいらないわ。1/10だとか1/100だとか、勝手にやってくれない? さっさと始めるわ」


 その言葉を聞いた途端、彼女の雰囲気が変わったような気がした。例えるなら研ぎ澄まされた刃のような鋭利な雰囲気を漂わせたのだ。そしてゆっくりと目を閉じた後に、右手をかざした。すると瞬く間に、直径10mほどの水色の光を放ちながら回る円が描かれたのだった。


「これほんとに1/10スケールなの?」


「通常だったらどこまでいくんだ?」


 などと周囲がざわつき始めているとジェイ教授は咳払いをしてから告げる。



「皆様、今展開なされているマナテリトリーが『今年』の『次席』であります。注目していただきたいのはこの『広さ』に対してのマナ密度の関係でございます。体から近い場所と遠い場所にはマナの淀みは無く、完璧と言っていいでしょう。中間位置になると若干の波がありますが、それでも優秀であると言わざるおえません。この形態は『遠近型』と一般的には言われています」


 そうジェイ教授は言うと周囲の生徒達からは感嘆の声が漏れる。流石は僕の同志と言うべきか、実に美しいマナテリトリーの形であった。


「流石は五大英雄の血筋を受け継いでいるだけある」


「ああ本当にマナに関しては凄いものだな」


 周囲からの称賛を受け流すフィオリアは淡々とした表情で、僕が座っている隣の席に戻っていた。その様子は凛としており、威風堂々としている様はまさに『女帝』の名に相応しいと思えた。ゴシック調で装飾された可愛らしい服装も、彼女の高貴なオーラによってより際立って見える。まさしく貴族然とした出で立ちであった。


「さて、今年入学時のマナテリトリー分野における首席はこの授業にはおられないようでして、私としては少々残念に思っております。ですが、アベリア魔法大国において五大英雄の血筋受け継ぐ名家が、ラテミチェリー公爵家だけではないことも事実です。見せていただけますか? エトラ・シュレ・カインズ様」


 ジェイ教授はそう言うと僕の方を見てきた。それに合わせて生徒の視線も一斉に僕に向けられることになった。僕は立ち上がると、この場にいる者全てに聞こえるように告げた。


「いいだろう、愚民ども。覇道を進む、この僕の力の一端を今ここで見せてあげようじゃないか」


 そう宣言した僕は、ジェイ教授の横を通り過ぎ、魔法陣が敷かれた教壇の上に立った。


「あまりにも凄すぎて、腰を抜かすなよ」


 そう言ってから、僕は自身の右腕を真横に突き出した。その瞬間、魔法陣は勢いよく回転を始め、僕のマナテリトリーはあっという間にこの部屋を越す大きさに広がった。それと同時に膨大な量のマナが流れ込み、マナテリトリー内のマナ密度は満たすのを超えて、溢れていると言っていいだろう。


「なんだあれは……」


「あのマナの領域が『血濡れ』なの?」


 僕は自身を囲む生徒たちの反応を背中で感じ取りながら、更なる高みを目指して、マナを送り込んだ。


「ふははははは、この僕に刮目せよ」


 その光景を見てか、生徒達は一様に呆然とした表情を浮かべて僕のことを見つめていた。とてもいい気味だ。この僕の実力に恐れ慄いているはずであろう。僕には絶対に勝てないということを知って。


「これはあまりにも……」


 ジェイ教授が言葉を失っている様子が背中越しに伝わってきた。僕は勝利の余韻に浸りながら、更に魔法を『放とう』としたその瞬間だった。


「小さすぎる」


 フィオリアの声が静まり返った部屋に響いた。その一言が引き金となり、僕はマナの展開を止めた。


「は?」

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