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真の嫌者になりたくて!  作者: 箱好鐘
一章 血濡れ王子
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血濡れ王子は口達者


 僕の堂々とした態度に、周囲は圧倒されていたようだった。皆一様に口をポカンと開けており、その表情からは驚き以外の感情を読み取ることはできない。


「そこの君。この子が言っていることは本当かね?」


「はっ、確かに事実ではありますが……!」


「ありますが?」


「……待ってください。言われてみれば確かに暴れた事以外は……」


 僕が懲らしめた連中は普段から素行が悪く、だからこそ庇うものなどいない。己を犠牲にしてまで助ける真の『味方』など存在はしないのだ。その時が来れば頼れるのは自分自身だけである。だからこそ僕は録音を日頃常備しているのだ。


「もういい」


 周囲の人間からの証言を得るや否や、教授は呆れたような表情で首を横に振ると、そのままこちらを向いた。


「君はなかなか面白いことを言うようだね。ならば一つ質問をしよう。それは一介の人間が、ましてや生徒にすらなっていないものが判断していい内容ではない」


「これだから芯のない人間は困るんです。この腐りきった世界の常識を変えるためには抗うことが必要なんです!!」


「……何がいいたい?」


「僕のように、一人一人その身分差の問題の意識を持って立ち回ることこそ、この国のためにもなるのではないですか? 未だに貴族が平民を見下す風習があるのは教授たちのせいでもあるんですよ。即座に対応しない教授もいるし、賄賂を貰っている教授もいるでしょう。何せ貴族の虐めにあっている平民が毎年のようにいるみたいですから」


 このアベリアアカデミーは身分差による差別は禁止と謳いながらも、基本的に貴族が優遇される仕組みになっている。その理由としては、血統や遺伝的にも貴族の方がより魔法に関する才能に秀でているからだ。つまり教授たちは教え子が出世すればするだけ、自らの権力も強化され、優秀な魔法使いだと肩書きが得られるのだ。だから結果的に貴族が育ち、いじめられる平民も多い。


 だが、逆に言ってしまえば貴族が平民に負けるということは、魔法使いとしての格が下がるということを意味する。だからこそ貴族が一般市民に対して虐げることはあっても、逆になることは過去一度としてない。



「分かった分かった。お前の言い訳……熱弁は聞いてやろう。確かに立派な行いであった。素晴らしいぞ。だがな──」


 そう一息切った教授は捲し立てるようにこう言った。


「身分格差は置いておいて、その侮辱した当人だけではなく、周りの人間にまで魔法を放つまでに至った理由はなんだ? それは暴れているとは言わないのか?」


「何をおっしゃいます? 僕は暴れてなどいませんよ。あれは暴れているのではなく、明確な意思を持って他者を攻撃していました」


「乱暴に振る舞っている時点でそれは暴れるということになるのだが?」


「見て見ぬふりをする連中も同罪なのです。あの時、周りの人間は僕のことを『平民』と見てたことでしょう。虐めている現場に居合わせながらも、加害者たちを助長させる発言も許すわけにはいかないのです」


「……というと?」


僕はすかさず録音のアーティファクトを手に取り、


「『スカッとするわね』と、この『ざまぁ』の如く発言は、僕の耳には届いていないと思っていたのかもしれませんが、周囲にいた人間たちには確実に聞こえていたわけです。この『悪意』を断つことこそが何よりも重要なのです!! あの時に、きっと誰かが! 僕のことを傲慢な貴族たちから守ってくれる人がいたならば!! このようなことは起こらなかったはずです!」


 僕は周りを見渡しながら、そう高らかに宣言した。周囲の反応を見る限り、僕に向けた冷たい視線が大量に突き刺さり、フィオリアに至っては呆れた様子でため息をつきながら明後日の方向を向いていた。


「…………やりすぎだという自覚はないのかね?」


「異端者は葬るべきなのです。寧ろ優しいくらいです」


「そうか……」


 僕の答えを聞いた教授は頭を抱えるようにして項垂れてしまった。


「はぁ、もういい。疲れた。聞くに値しなかった。ただの子供の戯言だと胸にしまっておこう」


「教授!?」


「そんな?」


 教授の言葉に、周りから戸惑いの声が上がる。それはそうだろう。僕たちの話をしっかり聞いた上で、何も咎めないというのだから、むしろ寛大すぎるのではないかと思ってしまうほどだ。まあ、罰を受けたい僕としては都合が悪いので不満であるが致し方ない。


「ところで私に説明する義務がないとはどういうことかね。フィオリア・フォン・ラテミチェリーご令嬢」


「初めから見ていたのに説明する義務はあるのですか?」


「……ほう。分かっていたのか」


 教授の問いかけにフィオリアは涼しい顔でそう答えると、さらに言葉を続けたのだった。


「貴方に気付いたのは私だけではないけれども、貴方は気付いているのでしょうか?」


「どういうことだ?」


 フィオリアは僕の方をチラリと見るとそう告げたのだ。教授に思い当たる節などなく、眉間にしわを寄せていぶかしげな表情を浮かべている様子から察するに、本当に理解していないのだろう。


 当然、この僕はその存在を認知していた。そして見ていた『教授』が一人ではないことも知っている。僕は生まれてこの方、計画性無しに暴力を振るうことはないし、どこまでなら許される範囲なのか試していただけだ。


 フィオリアが『都合良く』現れなければ、もっと激化していたに違いない。何せ、他の『教授たち』も止めようとしていなかったのだから。


「これ以上の問答は不要でしょう? 貴方の仕事は一体何でしたか?」


「ああ、そうだな。全くもってその通りだよ」


 教授はフィオリアに促されると深いため息をつき、そう告げた。当の僕はというと、死んだ振りをしているルシウスの体を蹴飛ばしていた。


「いつまで寝たふりをしているのだ? それでもお前は執事の端くれか」


「……私は死んでいます」


「死人に口ありとは妙だな。そこまでして死人を演じたいのであれば手伝ってあげることもできるが?」


「嘘です! ぴんぴんしてます!」


「だったらさっさと起きろ」


 そんなやり取りをしている間に何人もの教授が集まっていた。治癒を施す者や建造物を直す者といい、様々な分野の教授たちが勢揃いしている状況だ。彼らの何人かはいつでも仲裁に入れるように監視していた教授もいることだろう。恐らく、僕たちの会話を盗聴していた者もいたはずだ。しかし、誰一人として此度の事件の当事者である僕らを咎めるものはいなかった。


 だから僕は早々に入学手続きを済ませた後に、直ぐその場を後にした。後ろから教授の声が聞こえたような気がしたが、構わず歩き続けたのだった。


「それにしても手続きだけで合格とは、このルシウス、感服致しましたぞ」


「この僕を誰だと思っているのだ」


「流石は我等が魔王様でございます」


「ははは、そうだろう?」


 冗談混じりで会話を交えつつ、僕たちはアカデミーの寮を目指していた。大理石調の床に、赤い絨毯が敷かれ、まるで王城を彷彿とさせるような煌びやかな廊下だ。そして廊下の両脇に並んでいるのは、無数のドアである。


「ついたな」


 ようやく目的の場所にたどり着いた僕は足を止めるとそう告げた。ドアの前にはプレートが掲げられており『203』と記されていることから、ここがこれから僕が住むことになる部屋ということだ。


 僕はそのまま自室に入ると、部屋の様子を見渡した。部屋の中は思ったよりも広く、清掃が行き届いており清潔感のある空間であることが分かる。その室内には、ベッド、テーブル、椅子、そしてクローゼット、簡易キッチンにシャワールームと一通りの生活設備は整っていた。


「どうやら受付の人を脅した甲斐はあったようだ。そうだろう、ルシウス?」


「一般入学とは思えない待遇ですものね。この部屋を見れば貴族専用の窓口からと大差ないですよ」


 そう、先程の手続きというのは半分本当で半分嘘だ。実際のところは僕が直接出向いた時点で手続き自体は終わっているようなものだ。親切な対応に対しては、丁寧に脅迫することで解決できるというものだ。


 単に身の程を知らない馬鹿には分からせる必要があると思ったからこその行動であったが。この僕が見知らぬ他人と一緒に住むとなった場合、血を見ることになるだろうからね。


「ルシウス」


「はい、なんでしょう?」


 僕は彼を呼び止めると、ゆっくりと口を開いた。


「身の回りの世話は任せた。長く寝る」


「かしこまりました。お眠りください、エトラ様」


 僕がベッドに横になるとすぐに、彼は慣れた手つきで僕に布団をかけ始めた。


 流石に嫌われすぎた模様で、能力値の上がり幅が凄まじいことになっている気がしてならない。能力値の上昇があまりにも大きい場合は睡眠もそれに比例して長くなるというもの。体の発育が能力値に追いついていなければ、直ぐに肉離れを起こりしたり、マナ酔いを感じたりするものだ。僕は目を閉じ、意識を深く沈めていくと眠りについたのであった。

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