ご先祖バトル
「くらえ、アルティメット先祖パンチ!!」
先祖エネルギーにより身体能力が数万倍に強化された佐藤の拳が大気を抉りながら鈴木に迫る。なんとか間一髪で交わしたものの、激しい風圧が直撃した鈴木の体は紙切れのように宙を舞った。五点先祖着地で衝撃を緩和しダメージを最小限に抑えたが、呼吸は荒く数珠を握りしめる手が小刻みに震えている。
「……くそっ、なんて馬鹿げた先祖力だ。俺と違って出家すらしていない貴様が、どうしてそこまで莫大なセンゾパワーを……」
「ふっ……お前は本当のご先祖というものを全く理解していないようだな」
鈴木は全先祖力を振り絞り、経典を詠唱しながら多重先祖分身で佐藤を包囲する。さらに各分身から鋼鉄をも穿つ威力の先祖ビームを連射した。草木を焦がしつつ佐藤を目掛けて迸る数多の閃光。しかし、佐藤は羽虫でもはたき落とすかのように、先祖バリアを貼った右手で片っ端から無造作に弾いていった。
「やれやれ、気は済んだか? 説明を続けるぞ。両親、祖父母、曾祖父母……10代遡れば誰にでも1024人のひいひいひいひいひいひいひいひいおじいちゃんとおばあちゃんが存在することになる」
「ま、まさか!?」
「そのまさかだ。俺は総勢2040人のご先祖様の名前をひとり残さず調べ上げ、全て暗記したうえで毎日お仏壇の前で手を合わせている!! しかも正座でな!!」
「なんてこった! 道理で異様に徳が高いわけだぜ!」
勝利を確信し余裕の笑みを浮かべる佐藤。止めを刺すために佐藤家先祖代々の墓石を削って完成させたグレートセンゾソードを振り上げる。だが、次の瞬間、顔面から血の気が引き、うめき声とともにその場に崩れ落ちた。
「ぐううっ!! なんだこの体中を駆け巡る強烈な痛みは!! ……まさか、鈴木……貴様、闇の先祖使いだったのか!?」
だが、どういうわけか鈴木も同様に地に這いつくばり苦しみもがいていた。
「……ちくしょう……違う……あれを見ろ!」
二人の視線の先には両手で腹を押さえて、無様にへたり込み七転八倒する惨めな作者の姿があった。
「……なるほど……つまり……これは……我々に……ただシンプルに罰が当たったということか!!」
「その通りだ。よく考えたら、ご先祖様でバトルするなんて、ものすごく不謹慎だ……俺たちはそんな当たり前のことを、いつの間にか忘れてしまっていたのかもしれないな」
「これは一本取られたぜ」
「「ははははははっ」」
満身創痍の体を互いに支えつつ、よろめきながらどこかへ去っていく二人の横顔には、頭上にどこまでも高く広がる澄んだ青空のように爽やかな笑みが浮かんでいた。




