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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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咆哮の疑問・謎の魔術

「あとは俺に任せろ。あいつのトドメは俺が刺す」


「刺すっつったって......どうやってだ?」


 見たところなんの武器も持たないデリバー。あの強力な身体能力を用いた連撃すら耐えて見せた相手にどうやってトドメを刺すのか。


 そのことを疑問に思ったようで、マイルスは首を横に傾げてデリバーを不安視している。


「まあ、奥の手ってわけでもないが。俺個人の魔術。それの一端を、そろそろ披露しておこうと思ってな」


「......まだ隠してたのか。とんだ怪物だな。あんた」


 もはや次元の違いに何も言えないようで、やれやれと肩をすくめるマイルス。


 その様子を見て、デリバーはニヤリと不敵に笑う。自信に満ち溢れている顔だ。


(そういえば前に言ってたな。二つくらい魔術持ってるって)


 身体強化の魔術について手ほどきしてもらった時に、彼自身の魔術について伺ったことがあった。

 あと二つ。その片割れをとうとう見ることができるようだ。


「そんじゃそこで見てろ。アンナ。お前もしっかり目に焼き付けておけよ」


「あ、うん。了解した」


 マイルスと一緒に、化け物相手にゆったりと歩いていくデリバーの背中をじっと見つめ、この先どうなるか検討もつかない中、様子を見守ることに徹する。



「さてと。そんじゃ、やるぜ!」


 デリバーは意気揚々と、臆さず自信たっぷりにやる気をみなぎらせ、化け物に近づき相対する。


 しかし結局のところ、両手の拳をコンっと合わせるだけで、デリバーは素手のまま化け物の真正面に仁王立ちしているだけだ。


 特に目立った動きは見せず、ただ立ち尽くすだけ。いったい何を企んでいるのかわからないが、白い化け物もうつ伏せのまま、正面に立っているデリバーの様子を伺うだけだった。


 うつ伏せのまま化け物がなぜ様子を伺っているのか。なぜ何もしてこないのか。


 しばらくの間、奇妙な沈黙が流れ、聞こえるのは地面の上を転がる落ち葉の音だけとなった。


「......っ」


 すると、先に動いたのは化け物の方だった。


 突然うつ伏せの状態から上半身だけを起こし、削れた顔面を上げてデリバーを見つめるかのように顔を近づけ始めた。


 今までと違った様子を見せる化け物に、アンナとマイルスが驚きつつ、さらに状況が変わっていく。


 目と鼻しかなかったはずの化け物の顔面だったが、なんと突然頬まで裂くように大きく口を開き、続いて生物とは思えないような「ギャァァァシィ!」と奇妙な咆哮を上げた。


 生物の悲鳴。それに混じって、何か聞くに耐えない音が混じっていて、それがノイズとなって耳を強く刺激する。骨を震わすように体へギシギシと反響していくような錯覚まで覚える。


 あまりの鬱陶しさ、そして音の酷さに両耳が耐えきれず、咆哮が終わるまでうずくまって両耳を隠すようにして耐えていた。


「大丈夫かアンナ!? 急にうずくまって......」


「......へ、平気なの?」


「あぁ? 平気も何も、ただの咆哮じゃねえか。うるさいだけで別に何も......」


 隣で同じく耳を押さえていたマイルスだったが、彼にはただの咆哮にしか聞こえなかったらしい。


 どうして彼は平気なのか。どうしてアンナは耐えきれず、うずくまるほどだったのか。咆哮ひとつに多くの謎が渦巻いてしまう。


(......でも、あの音は。前にも聞いた、人の悲鳴に似ていたような......)


 しかしさらに不可解だったのは、今の化け物の咆哮に人の声が混じっていたように感じたことだ。


 何度か人の悲鳴を聞いたことがあったが、それと似たような声が、化け物の咆哮に混じっていたような気がした。

 それについてはどうなのか。隣にいるマイルスに聞いてみると。


「今、人の声がしなかった?」


「ハァ? 幻聴だろ」


「そ、そう......」


 とうとうおかしくなったのかと思われたのか、冷たくあしらわれてしまう。


 アンナ自身、自分の耳がおかしくなったのかと思い、一応片方ずつトントンと耳を叩いておく。


 すると耳を治そうと手を動かしている中、化け物が片腕を思いっきり上へと突き上げ、デリバーに向かって振り下ろした。




「今の咆哮......」


 化け物が攻撃を始める少し前。デリバーが間近で化け物の咆哮を耳にした時のこと。


(......気のせいか?)


 ふと疑問に思い、後ろにいるアンナへと目をやる。


 すると彼女は隣にいるマイルスという男と話したかと思うと、突然耳を叩き出した。


「ほお。やっぱりか」


 これで確信した。気のせいではなかったようだ。


 街の腐臭事件から始まり、そしてロウという銃の魔術使いが出くわした奇妙な化け物。


 そして今の咆哮で敵の正体。もしくは能力について、欠片だが情報を掴むことにより、敵の能力についての正体。その考察がより確信へと近づいた。


(......俺たちにしか聞こえない音。そこだけが引っかかるがなぁ)


 アンナとデリバー。この二人を相手にしたのが、敵側の運の尽きだ。

 しかし、同時に謎も生まれてしまった。


 どうして二人にしか聞こえていなかったのか。二人を狙うにしては、街全体を脅かすのは明らかにおかしい。


(俺たちが巣に潜り込んでしまったということか?)


 依頼の関係で訪れてしまった街。そこで偶然事件解決へと手を貸すことになったが、そこで獲物にされてしまった。と言うことだろうかと考えるが。


「......おっと! あぶねえ! 今は集中だ!」


 考え事をしていると、真上から細長い腕が振り下ろされていることに気づき、最小限の動きで横にそれてかわす。


 雑魚相手とはいえ気を抜けば怪我はする。今は集中して敵を倒すことが先だ。


「ふんっ!!」


 そして意味はないとわかっているが、適当に蹴りを一発入れて腕を吹っ飛ばした。


 吹っ飛ばされた衝撃で転がる化け物だが、すぐさま同じように上半身だけを起こし、地面に何度も擦った影響で肉が削ぎ落とされ無惨な姿になった顔をこちらに向けてくる。


 今まで口がなかったにもかかわらず、突然咆哮を上げた。そして、削れた顔でありながら、痛みを感じたいような素振りで、瞳のない目をしっかりとこちらに向けてくる。


「瞳が無い......。っていうより、あそこに無いだけかもな」


 しっかりとアンナやマイルス、デリバーの攻撃を感知して反撃しようとする素振りは見せてくるので、瞳はどこかにあるのかもしれない。


 しかし化け物の情報はどうでもいい。とっとと一撃で消し去り、早く調査の情報を持ち帰る。それだけだ。


 一旦距離をとって、意識を集中してとある魔術を発動させる。


 その魔術を発動させた途端、彼の足元を中心に小さな黒い炎のようなゆらめきが地面に広がっていき、やがて何事もなく消えていく。


「......フンっ」


 しかし消えていったはずの闇が、今度はデリバーの右腕に溜まっていき、そして手のひらに渦となって集まり出した。


「今。コイツを見たな?」


 その黒い炎に怯えるかの如く、化け物が距離を取ろうとする。この魔術の()()()()()()()()ようだ。


「ギィァッ!」と嫌がる人間のような声で叫びながら後退していく。


「ほほう。まるで人間様みたいに驚くじゃねえか......よっ!」


 右腕に妙なモノを留まらせたまま、化け物へと向かっていくデリバー。

 化け物は彼を追い払うように腕を地面につけて薙ぎ払い、間髪入れず何度も何度も攻撃の手を緩めようとしない。


 しかし全て、掠りもせずにかわされる。

 全ての攻撃を掻い潜ったデリバーは、とうとう化け物の腹の下に潜り込んだ。


「『代償取引(デットレー・ビルド)』。終わりだ。次はもっといい駒を用意しとけ」


 そして右手を突き出して、謎の黒いエネルギーを化け物へと放出する。


 すると化け物の動きがぴたりと止まり、全身がどんどん黒ずんでいった。




「あれは......魔術か?」


「多分、そうだと思うけど......。なんの魔術だろう」


 一方、デリバーと化け物の戦いを見ていた二人は、彼の持つ奇妙なモノに目が釘付けとなっていた。


 黒い謎のエネルギーと称すべきソレは、化け物に触れた途端、その身をどんどんと黒く染めていった。


 そして全身が真っ黒に染まったと思えば、化け物の足に奇妙に深い緑色の魔法陣が浮かび上がり、それも黒ずんではまるでガラスが割れるように砕け散っていく。


 その魔法陣が消えたと同時に化け物も溶けるように消え去った。

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